経済産業省
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第2節 中国経済リスク

中国経済の持続的な発展のためには、様々な構造問題を克服していく必要が指摘されているが、その中でも特にいくつかのリスク要因に高い注目が集まっている。例えば、中国政府が2017年の重点政策課題の第一に掲げた3つの過剰(過剰生産能力、過剰債務、過剰不動産在庫)の解消などである。これら重要なリスク要因に焦点を当てて見ていく。

1.過剰生産能力問題

中国では、世界経済危機により、世界経済全体が減速する中、2009年から2010年にかけて4兆元の景気対策を実施し、これが過剰な生産能力を生み出した。その結果、需給バランスが崩れ、生産者物価は長期にわたって低迷し、鉱工業企業の財務内容を悪化させた。さらに鉄鋼等の業種では輸出が急増し国際的な問題も招いている。中国政府は2017年主要重点政策分野のひとつとして過剰生産能力の解消を挙げている。

過剰生産能力問題は、鉄鋼、石炭、セメント、板ガラスなど幅広い業種にわたっていると見られるが、近年、政府は特に鉄鋼と石炭に注目し、削減目標を設定して過剰設備の解消に努める方針を公表した。政府発表によれば2016年の目標は達成され、さらに2017年の削減目標が公表されている(第Ⅰ-3-2-1-1表)。

第Ⅰ-3-2-1-1表 中国の設備削減目標と実績

このような生産能力削減とともに、政府の景気支援策を受けた堅調な固定資産投資や自動車販売、一部では過熱ぎみの不動産開発等による需要増加の影響もあって、鉄鋼を始めとする生産者物価は2016年中頃からほぼ4年ぶりに前年比プラスに転じた(第Ⅰ-3-2-1-2図)。これまでの反動もあって鉄鋼、石炭等の生産者物価指数は足下で高い伸びを示している。

第Ⅰ-3-2-1-2図 中国の主要品目の生産者物価(前年同期比伸び率)

このような製品価格の回復を受けて、鉄鋼業等の企業の利益は2015年の落ち込みから、2016年はしだいに回復してきている93(第Ⅰ-3-2-1-3図)。ただし、今回の企業利益の回復が一時的なものでなく、政府の景気支援策や過熱気味の不動産開発がなくなっても、企業が継続的に利益をあげて活動していけるのかについては注視していく必要がある。

第Ⅰ-3-2-1-3図 中国の過剰生産能力業種の企業利益の推移(利益額・伸び率/年初来累計・前年同期比)

生産能力が削減される一方で、実際の生産量は再び拡大する兆しも見える。例えば、2015年、粗鋼の生産量は一旦伸びが前年比マイナスとなったものの、2016年、伸び率は再び前年比プラスに転じて上昇している(第Ⅰ-3-2-1-4図)。生産者価格の改善を背景に、休止していた設備の再稼働なども考えられ、仮に、需要を超えた生産の伸び率が加速していけば、再び過剰生産が拡大する可能性もある。同様の動きが板ガラスなどでも見受けられる。

第Ⅰ-3-2-1-4図 中国の主要品目別生産高の推移

93 一方で、収益改善は、一部の大手国有企業に集中しており、今後、獲得した利益を使ったM&Aや優良な資源獲得などにより、さらなる巨大化・強靭化を図る大手国有企業が現れる可能性があるとの指摘もある。

2.不良債権問題

(1)拡大する不良債権の動向

中国の非金融企業の債務が、我が国のバブル崩壊後のピークを越える水準まで急速に拡大しており、その債務の返済可能性、言い換えれば不良債権の問題に懸念が高まっている94(第Ⅰ-3-2-2-1図)。

第Ⅰ-3-2-2-1図 非金融企業の債務残高の対GDP比

中国の公式統計によれば、銀行融資の「不良債権」は増加してきており、2017年3月末時点で、約1.5兆元、不良債権比率は1.74%と公表されている(第Ⅰ-3-2-2-2図)。これとは別に将来の返済に懸念要素のある「要注意先」95が2倍の約3.5兆元も存在している。

第Ⅰ-3-2-2-2図 中国の商業銀行の不良債権の推移

このような中国政府統計は、不良債権を必ずしも正確に評価していないとの指摘があり96、IMF等は独自に「潜在的にリスクのある債権」を試算している97。IMFの試算値と政府統計を比較する形で、不良債権の構図を図示したのが第Ⅰ-3-2-2-3図である98。IMFの試算値は銀行融資に係る部分だけでも政府公表値を上回っており、その他に政府統計に含まれないシャドーバンキング99部分に係る債務もある。IMFは中国にとって対処可能な額としながらも、必要な資金が成長分野へ十分まわらないこと等を通じて、中国経済を下押しする可能性を指摘して早急な対応を促している。

第Ⅰ-3-2-2-3図 中国の不良債権の構図(2015年末)

このシャドーバンキング部分の動向については正確な数字の把握が難しいが、例えば銀行で販売されながら、バランスシートには反映されない理財商品100は、足下の伸びは低下しているものの、これまで前年比4~5割増と急速に拡大してきた(第Ⅰ-3-2-2-4図)。

シャドーバンキングが直ちに不良債権につながるわけではないものの、その中には高リスク商品が多いとIMFは指摘している101(第Ⅰ-3-2-2-5図)。

第Ⅰ-3-2-2-4図 中国の銀行の理財商品の残高の推移

第Ⅰ-3-2-2-5図 中国のリスクレベル別のシャドーバンキング商品(2015年末)

ここまでは中国全体の不良債権の動向を見てきたが、不良債権問題が特定の地域に集中している様子もうかがえる。銀行の不良債権額は地域別にも公表されており、一般に各地域とも上昇傾向にある(第Ⅰ-3-2-2-6図)。その中でも内蒙古自治区、福建省、浙江省等で不良債権比率は、全国平均(2015年末1.67%)を大きく上回っている。

第Ⅰ-3-2-2-6図 中国の省別不良債権の状況

銀行融資の不良債権額は、沿海部の地域で高水準に達している(第Ⅰ-3-2-2-7図)。特に、浙江省、山東省、福建省は、不良債権比率で見ても全国平均を上回っている(第Ⅰ-3-2-2-8図)。また、内陸部の内蒙古自治区は、極めて高い不良債権比率に至っている。同地域の経済は資源開発への依存度が大きいといわれ、鉄や石炭の過剰生産問題の影響が考えられる。

第Ⅰ-3-2-2-7図 中国の省別不良債権額(2015年)

第Ⅰ-3-2-2-8図 中国の省別不良債権の状況

94 国際決済銀行(BIS)は「BIS Quarterly Review」(2016年9月)の中で、民間債務の伸びがGDP成長率よりも異様に高く、過去の例からは金融危機に至ることも多いと警告している。一方、金融危機のリスクについては、中国の特異な事情(国内の大きな預金、経常収支黒字、過去の不良債権処理の実績等)を考慮する必要があるとの声もある。

95 「要注意先」(中国では「関注」と表記)とは、現段階では借り手に返済能力はあるが、将来の返済に懸念要素のある債権。中国では債権を5段階(借り手の返済能力が高い順に、正常、関注、次級、可疑、損失)に分類しており、このうち、「不良債権」とは、借り手の返済能力に問題のある下から3つの分類、「損失」(元利の回収が不可能)、「可疑」(担保を執行しても比較的大きな損失が発生)、「次級」(担保を執行しても一定の損失が発生)を指す。

96 不良債権の客観的な基準がないことが問題との指摘がある。例えば、3か月以上遅延しても必ずしも不良債権とならない、担保を執行して回収可能ならば不良債権として報告しないこともあるなどが指摘されている。

97 IMF「Global Financial Stability Report」(2016年4月)では、銀行融資のうち、債務者が利子支払のための十分な利益がないものを「loan potentially at risk」として試算している。その額はGDP比で12%程度となるが、債務者は資産処分によって利子支払いをすることも可能であり、又、仮に利子支払いができない場合でも、担保差押え等から実際の銀行損失を軽減できるため、試算された債務がすべて「不良債権」になるわけではないとしている。損失率を60%と仮定すれば潜在的な銀行の損失はGDP比で7%程度と見ている。同レポートでは、中国の銀行及び政策的バッファー、経済成長に照らして対処可能としながらも、早急な対応が重要としている。

98 第Ⅰ-3-2-2-3図の時点はIMFの推定にあわせて2015年末で統一した。様々な機関の統計を使って作成しているため、数値ごとに平仄が異なる可能性はある。データの出典は、不良債権、要注意先は中国銀行業監督管理委員会、銀行融資残高は中国人民銀行、企業債務総額はBIS、シャドーバンキング残高はIMF。IMF推定値のうち、銀行融資部分については「Global Financial Stability Report」(2016年4月)、シャドーバンキング部分については「The People’s Republic of China / Selected Issues」(2016年8月)を利用した。なお、IMF推定値以外は、より新しい数値が公表されており、最新の数値は、不良債権が2016年GDP比で2.0%(2017Q1)、要注意先4.5%(2017Q1)、銀行融資残高92%(2017Q1)、企業債務総額166%(2016Q3)と拡大している。

99 Financial Stability Board「Global Shadow Banking Monitoring Report 2015」(2015年11月)によれば、シャドーバンキングとは全体又は部分的に通常の銀行システムの外側の活動や事業体を通じた信用仲介、端的にはノンバンクによる金融仲介と定義されている。ただし、具体的な範囲について国際的に必ずしもコンセンサスがあるわけではなく、中国の場合、通常の銀行融資以外の信用仲介機能を意味し、銀行窓口で販売されている高利回りの資産運用商品である「理財商品」を始め、証券会社、信託会社、基金等が投資家等から資金を集めて行う投融資を広く含む。活動自体は合法的であるが、当局の規制が緩く、リスク管理や投資家への説明責任など問題点等が指摘されている。また、通常の銀行融資が受けにくい案件、例えば過剰投資業種や不動産プロジェクト等に資金が流れることが多いとの指摘もある。

100 理財商品とは通常の銀行預金よりも高い利回りの資産運用商品。投資信託に近い。銀行預金の基準金利は中国人民銀行から提示されているが、消費者物価上昇率が預金金利を上回ることも多く、より有利な資産運用商品として人気を集めている。基本的には元本等の保証がないものが多く、投資家の自己責任で行われるが、リスク管理や投資家への説明責任など問題点が指摘されている。原則として、銀行が元本等の保証をしない限り、銀行のバランスシートに反映されない。

101 IMFの中国に対する4条協議報告書別冊「The People’s Republic of China:Selected Issues」(2016年8月)では、高い金利は高いリスクの裏返しと考えており、シャドーバンキング商品の中には、高い金利を提示するかわりに、質の低い資産を組み込んだ、デフォルト・リスクや損失可能性が極めて高い商品があると指摘している。IMFはシャドーバンキングの規模を2015年末で約40兆元と見ており、そのうち19兆元が銀行融資に比べて利率が高く、それに伴ってリスクも高いと推測している。

(2)不採算企業と雇用動向

不良債権問題は、過剰生産能力問題とも関連しており、その背景にはいわゆるゾンビ企業など経営困難な企業の存在がある。中国の鉱工業分野における赤字計上企業は、4兆元の景気対策の終了後、企業数、割合ともに増加した102(第Ⅰ-3-2-2-9図)。2016年は既に述べたように過剰生産業種の企業に利益改善の動きが見られ、赤字企業の比率も小幅減少した。ただし、依然として2014年の水準を超えている。

第Ⅰ-3-2-2-9図 中国の鉱工業分野の赤字企業数と赤字企業割合の推移

地域別には、内陸や周辺部の地域で不採算企業の割合が高い(第Ⅰ-3-2-2-10図)。これらの地域は資源依存が高く、鉄や石炭等資源の過剰生産が影響していることが考えられる。

第Ⅰ-3-2-2-10図 中国の鉱工業分野の赤字企業の割合(2016)

中国政府は、過剰生産能力の解消やゾンビ企業を整理する方針を掲げているが、その実行に当たって地元経済や失業など雇用問題が制約となっていることも指摘されてきた。2016年2月、中国政府は、企業に対しては余剰人員を配置転換などで対処することを求めるとともに、1000億元の資金を拠出し再就職支援を行うことを決定した。現在の雇用状況は、中国の統計によれば、都市部登録失業率は低水準を維持しており、都市部求人倍率も1.0を上回って推移している(第Ⅰ-​3-2-2-11図、第Ⅰ-3-2-2-12図)103。社会問題が生じないよう注意しながら対処している様子がうかがえるが、地域別の差異や業種のミスマッチは考えられる。例えば、過剰投資業種や不採算企業が多く経済が低迷している地域ではより厳しい状況にあると考えられ、また、求人数が多い一方で、専門技術を持たない高齢の労働者の再就職は難しいことが予想される。

第Ⅰ-3-2-2-11図 中国の都市部登録失業率の推移

第Ⅰ-3-2-2-12図 中国の都市部の求人倍率の推移

102 企業数ベースの推移であり、金額ベースとは異なる可能性がある。

103 ただし、在中日系企業に対する調査(日本貿易振興機構「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」)によれば、経営上の問題として人材採用難を挙げる企業の比率は、ここ2~3年で低下傾向も見られ、次第に人材需給が緩んできている可能性もある。

(3)銀行の健全性

中国の銀行は、総資産の4割近くを占める大型商業銀行(五大銀行)のほか、12の株式制商業銀行、約130の都市商業銀行、3,000以上の小規模な農村金融機関がある(第Ⅰ-3-2-2-13表)。これらの銀行の不良債権や対処能力を見てみる。

第Ⅰ-3-2-2-13表 中国の銀行(2016年末)

最近は、各金融機関とも、利益率が低下する一方で、不良債権比率が上昇している。2016年Q4時点で、大型商業銀行は都市商業銀行等と比べて、不良債権比率はあまり変わらないものの利益率が高い。一方、農村商業銀行は他の形態の銀行に比べて、不良債権比率が極めて高い(第Ⅰ-3-2-2-14図)。

第Ⅰ-3-2-2-14図 中国の銀行の総資産利益率と不良債権比率の推移 (2014Q1→2016年Q4)

不良債権の対応余力を銀行形態別に見ると、いずれの銀行も政府が求める貸倒引当金水準は満たしているものの、農村商業銀行の不良債権比率が突出して高いのが目に付く(第Ⅰ-3-2-2-15図)。

第Ⅰ-3-2-2-15図 中国の銀行の不良債権比率と貸倒引当金比率(2016Q4)

また、自己資本比率の面では、大型商業銀行が最も体力がある一方で、株式制商業銀行が最も体力が弱い(第Ⅰ-3-2-2-16図)104。また、特に農村商業銀行や株式制銀行は、全行平均としては基準を満たしているものの、個別行によっては経営状況に大きな差があることが指摘されている。

第Ⅰ-3-2-2-16図 中国の銀行の不良債権比率と自己資本比率(2016Q4)

このほかにバランスシートに計上されない理財商品に伴うリスクが指摘されている。理財商品については、株式制商業銀行の残高が、五大商業銀行を上回っており、その意味で株式制商業銀行のリスクには注意が必要と指摘されている(第Ⅰ-3-2-2-17図)。

第Ⅰ-3-2-2-17図 中国の銀行の理財商品の残高の推移

また、金利の自由化の中で、体力の弱い銀行の預金を集める力が低下して、融資資金を銀行間市場等で調達する割合が上昇していることもリスクを拡大している。例えば、中国人民銀行のシミュレーションによれば、株式制商業銀行は他行からの資金の借入れが大きく、デフォルト発生時に資本の最低要求水準を下回った場合は広範囲に影響を波及させるおそれがあると指摘されている105(第Ⅰ-3-2-2-18図)。

第Ⅰ-3-2-2-18図 中国の銀行のリスク波及効果

104 バーゼル規制(バーゼルⅢ)では、最低水準8%としている自己資本比率をリスクの吸収ができるように引き上げていくことを求めており、中国では2018年末に向けて段階的な引上げが予定されている(例えば、金融システムの上で重要な銀行の自己資本比率は、資本バッファー2.5%、サーチャージ1%を上乗せして11.5%まで引き上げる予定)。中国の2016年末時点における最低所要水準は、大型商業銀行のような金融システムの上で重要な銀行は10.7%、その他の銀行は9.7%としている。

105 中国人民銀行は「China Financial Stability Report 2016」の中で、31の銀行(大型銀行6、株式制銀行12、都市銀行9、農村銀行4)を対象にリスクの波及効果をシミュレーションしている。2つのシナリオ(緩やかなショックと厳しいショック)の下で、ある銀行がデフォルトにより資本の最低要求水準を下回った場合、他の銀行へリスクを伝染させるか影響を試算したところ、緩やかなシナリオでは大半の銀行がストレス・テストを合格し、厳しいシナリオでも50%以上の銀行が合格したことから、総体的な波及リスクは対処可能としている。一方で、銀行のタイプ別には、株式制商業銀行が銀行間市場における最大の資金の借り手であり、デフォルト発生時には広範囲に影響を波及させるおそれがあるとも指摘している。

(4)中国政府の方針と対応余力

中国政府は、従来から企業の債務問題に取り組む姿勢を表明しており、2016年10月、改めて企業債務引下げの方針を発表した(第Ⅰ-3-2-2-19表)。その手段として、企業の合併・再編、銀行債権の株式化、破産処理等を挙げている。この方針は2017年全人代の「政府活動報告」でも踏襲されている。

第Ⅰ-3-2-2-19表 中国政府の企業の債務問題に係る方針

銀行債権の株式化については実施の際の基本方針も併せて発表された(第Ⅰ-3-2-2-20表)。この手法は2000年代初めの銀行の不良債権処理の際にも政府主導で利用されたことがあるが、今回は市場ルールに基づいて実施することを強調している106。これに対しては、銀行や企業のガバナンスを強化することが必要で、運営を誤ればゾンビ企業の延命に使われ、投資者にリスクを拡散するおそれがある等の課題が指摘されている。

第Ⅰ-3-2-2-20表 「市場化した銀行債権の株式化に関する指導意見」 (2016. 10. 10.)

企業の資金調達は、従来の銀行融資から、社債、委託貸出、信託貸出(理財商品等)など多様化が進んでいる(第Ⅰ-3-2-2-21図)。理財商品のように銀行、信託会社、証券会社等にまたがるような金融商品が登場する一方で、監督官庁は、銀行業、証券業、保険業と分かれていることから、規制当局間の連携不足により、リスク管理を十分に行うことが難しいとの指摘がある。

第Ⅰ-3-2-2-21図 中国の社会融資総量(残高)の推移

仮に一部の銀行に破綻のおそれが生じた場合、中国は主要国と比べて政府債務の水準はまだ低い107ことから、最終的には中国政府が国債等により資金を調達して、銀行への公的資金注入で破綻を抑えることは可能との見方が多い(第Ⅰ-3-2-2-22図)。特に中国の場合、銀行の大半が国有銀行で、過去の融資も政府の意向をくんだ結果であり、政府は迅速に公的資金注入等の救済を行うだろうとの見方が強い。その際には影響の大きい五大商業銀行は優先的に支援され、都市銀行や農村銀行も地方政府主導で破綻回避を目指すだろうと指摘されている。ただし、一部の影響の小さな銀行は破綻させる可能性や実際の資金注入までの間に市場に不安が伝播して、一時的な混乱が拡大する可能性を指摘する声もある。

第Ⅰ-3-2-2-22図 主要国の非金融部門の債務残高

外国への影響については、中国が資本取引を規制しているため、海外への影響は限られるとの見方が多い109。ただし、中国経済の減速は、世界経済にとってリスクとなる可能性はある。

また、不良債権問題は、貸し渋りなど与信活動の停滞や必要な資金が成長分野へ十分まわらないこと等を通じて、長期的に中国の実体経済を減速させ、世界経済の下押し要因となることは考えられる。

106  一時的な経営不振企業を対象とし「ゾンビ企業」は債務株式化の対象としないとするほか、当事者間で協議によって、対象企業、資金調達、株価などを決定し、仮に損失が生じても政府は補填しないなどの方針が提示された。

107 政府債務には、中央・地方政府とも含むが、地方政府の融資平台は含まれない。今後、融資平台の債務が地方政府発行の地方債に置き換えられていけば増加することは考えられる。また、内陸部中心に官民パートナーシップのインフラプロジェクトの計画があり、新たな債務問題につながる可能性を指摘する声もある。

108 インターネット金融については、投資先の実態がわかりにくいことなどリスクが懸念される一方で、ネット事業者が、スマートフォン経由で広く資金を集め、ビッグデータを活用して信用情報を蓄積し、少額多頻度の中小・零細企業等へも融資サービスが提供できるなど前向きにとらえて評価する声もある。

109 英国等の一部の金融機関は中国の銀行に出資していると言われ、影響が生じる可能性はある。例えば、イングランド銀行は、英国主要銀行のストレス・テスト報告書の中で、中国の経済減速、急速な信用拡大、不動産価格の高騰等を重要なファクターと認識している。

3.不動産市場リスク

中国の不動産を巡っては、沿海部大都市等を中心に価格が上昇し、過熱からバブルが懸念されている。その一方で、経済不振地域を中心に住宅の過剰在庫問題も併存している。

現在の過熱は、不動産在庫の解消を目指して、政府の方針が住宅支援に転じたことから始まった(第Ⅰ-​3-2-3-1図)110。政策金利引下げ、株式市場からの資金流入、住宅制限措置の緩和等を受けて、主要都市の住宅価格は上昇に転じる都市が増加していった(第Ⅰ-​3-2-3-2図)。まず、沿海部大都市(深圳、上海等)において不動産価格が上昇を始め、続いて周辺の主要都市(南京、合肥等)にも上昇の動きが広がった(第Ⅰ-​3-2-3-3図)。これらの都市では実需とともに投資目的の購入も多いといわれ、都市によっては前年比数十パーセントという急速な価格上昇を示しており、不動産バブルの懸念が指摘されている111

第Ⅰ-3-2-3-1図 中国の不動産開発・販売(年初来累計/前年同期比)の推移

第Ⅰ-3-2-3-2図 中国主要70都市の新築住宅販売価格の動向

第Ⅰ-3-2-3-3図 中国主要都市の新築住宅販売価格(前年同月比)の推移

このような急速な価格上昇に見舞われた住宅購入に当たって、若年層を中心に銀行の住宅ローンの利用が増え、ローン残高は2016年末で前年比約35%増と増勢を強めている(第Ⅰ-3-2-3-4図)。この他にも、ローンの頭金に相当する部分を銀行以外から融資を受けているケースもあるといわれ、住宅価格の急落や金利の上昇等を契機に債務問題を懸念する声がある。

第Ⅰ-3-2-3-4図 中国における住宅ローン残高の推移

このような中で、2016年は価格上昇の著しい都市において不動産購入規制が導入された。まず、春に上海、深圳で導入され、次いで秋の国慶節前後に多くの都市で相次いで導入されている(第Ⅰ-3-2-3-5表)。これら都市の伸び率上昇は沈静化に向かったが、依然として高い価格水準が続いており、規制が導入されていない都市に住宅価格上昇が広がっていく可能性も指摘されている。実際に主要70都市で価格上昇している都市数は2016年10月以降一旦減少したものの、足下では価格上昇都市が全体の約9割に及ぶなど再び増加する動きが見える(第Ⅰ-3-2-3-2図)。

第Ⅰ-3-2-3-5表 中国主要都市の不動産購入規制

一方の住宅在庫の動向を見ると、全国計で見た在庫面積、在庫比率は上昇しており、2015年末時点の在庫率は販売額の5か月分近くまで上昇していた(第Ⅰ-​3-2-3-6図)112。既に書いたように中国政府は在庫解消のため、金融緩和や不動産規制の緩和を行うとともに、農民工の都市への移住、バラック地区の再開発等を進め、2016年末の在庫率は低下に転じている。

第Ⅰ-3-2-3-6図 中国の住宅在庫の推移

住宅在庫は地域的に大きな相違があり、主要35都市の中で2015年末の在庫比率トップ3都市は、東北地域に集中し、在庫比率も10か月を超えている(第Ⅰ-3-2-3-7図)。

第Ⅰ-3-2-3-7図 中国の都市別住宅在庫の販売に対する比率(2015年末)

住宅在庫の変動には、景気、需給、政策など様々な要因が考えられるが、経済が不調な東北地域の都市で顕著に上昇している(第Ⅰ-3-2-3-8図)。

第Ⅰ-3-2-3-8図 中国の住宅在庫と経済成長率の推移

110 2015年12月の中央経済工作会議で、供給側の構造改革の一環として、不動産在庫の処理を進める方針が掲げられた。そのために、農民工の市民化加速によって住宅需要を拡大することや不動産市場に対する制限措置の撤廃等が打ち出された。当時は、不動産販売の伸びは前年のマイナスからプラスに回復したものの、過剰在庫の解消にまわり、新規の不動産開発はゼロ成長近くまで落ちていた。

111 不動産価格上昇の背景には、国際的な資本取引に規制のある中国では、国内で資本が高い利率を求めて移動しているとの指摘がある。2015年夏に株式市場が暴落すると、株式市場から不動産市場に資金が流入し、まず、一線都市といわれる北京、上海、広州、深圳の上昇をもたらし、次いで二線都市といわれる南京、合肥等に資金が移動した。なお、一線都市では実需も相当にあり、むしろ、投資対象という意味では二線都市の方がバブルなのではないかとの声もある。一方、中国では、土地の所有は認められていないため、住宅についても価格の調整が遅れ、現在の住宅価格上昇は短期間に本来の市場価格にまで調整が進んでいるだけとの見方(カーネギー国際平和基金のYukon Huang氏)もある。

112 ここで在庫率は、在庫の販売に対する比率=年末在庫面積(m2)/当該年の1か月平均販売面積(m2)として計算。

4.米国利上げによる資金流出リスク

米国FRBの金利引上げは、ドル高・元安を通じて、中国からの資金流出を加速させるおそれが指摘されている。中国も金利を引き上げる場合は、為替の下落、資本流出を抑える効果がある一方で、景気の減速や債務問題の悪化をもたらす懸念がある。

人民元は、中国経済減速や米金利引上げ観測等で、2015年夏以降、元安方向に推移してきた(第Ⅰ-3-2-4-1図)。一時期4兆ドルにまで迫った外貨準備は、急速な元高を抑えるための市場介入により減少を続け、2017年1月末は一時的に3兆ドルを切る水準まで低下した。

第Ⅰ-3-2-4-1図 中国の為替レートと外貨準備の推移

足下の元安は比較的落ち着いているものの、先物価格の動きを見ると、依然として1年後は現在よりも元安になるとの予想(人民元の先安感)が続いている(第Ⅰ-3-2-4-2図)。

第Ⅰ-3-2-4-2図 人民元の現物価格と先物価格の推移

中国の外貨準備の適正水準について、IMFが公表している計算式に基づいて試算すると、管理変動相場制という中間形態をとっているため、ただちに問題があるとは言えないものの、固定相場制の場合の下端に近づいている(第Ⅰ-3-2-4-3図)。中国の外貨準備高は、現状でも十分な水準との見方がある一方で、外貨準備を流動性の高い資産で保有しているのか不明のため、為替介入など必要な際にすぐに外貨に交換できるのか等の懸念も指摘されている。

第Ⅰ-3-2-4-3図 中国の適正な外貨準備の水準(試算)

既に2014年半ば以降、流出超に転じていた中国の資本・金融収支は、2015年の為替レート切り下げ後、人民元安方向に動く中で、米利上げの影響もあって大幅な赤字を計上、資本流出が続いている。2016年通年では4,000億ドル以上の流出超となった(第Ⅰ-3-2-4-4図)。

第Ⅰ-3-2-4-4図 中国の国際収支の推移

最近の資本流出は、外国資本の撤退というよりも、中国居住者による流出の拡大が大きい(第Ⅰ-3-2-4-5図)。金融収支の資産(中国居住者による外国への投融資)の動きを見ると、中国企業によるM&Aを含む直接投資だけでなく、証券投資、その他投資(現預金、融資、貿易金融等)など様々な形で中国居住者による流出超過が続いている(第Ⅰ-3-2-4-6表)。

第Ⅰ-3-2-4-5図 中国の金融収支(除:外貨準備増減)の推移

第Ⅰ-3-2-4-6表 中国の金融収支(資産)の推移

このような中で、中国政府は2016年末から資本流出を抑えるための対策を強めている。まず、外貨取引から強化され、直接投資に伴う両替の事前許可審査の強化、個人の外貨両替の際の書類提出等が要求されている。このような資金移動の規制は、事業環境の悪化につながり、一部の企業では円滑な事業活動への影響も懸念されている。また、海外に移動できない資金が国内に滞留し、シャドーバンキング等を通じて、不動産市場に流入してリスクを高めているとの指摘もある。

このような為替の下落、資本流出を抑える政策として、金利の引上げが考えられるが、一方では企業の金利負担増加を通じて景気を冷やす等のおそれもある。銀行の資金調達金利を考えると、預金者から資金を集める預金基準金利(貸出基準金利とともに政策金利と呼ばれている)は中国人民銀行によって決定され2015年10月以降変えられていない(第Ⅰ-3-2-4-7図、第Ⅰ-3-2-4-8図)。一方、銀行間金利は昨年末の米国利上げ前後から上昇している。また、中国人民銀行は本年2月、3月と公開市場操作金利の引上げを行っている。この引上げは不動産バブル抑制等のためとの指摘もあるが、金利を上げすぎれば景気の腰折れや不良債権問題を始めとした金融リスクの悪化を招く懸念もある。

第Ⅰ-3-2-4-7図 中国における銀行の資金調達と金利

第Ⅰ-3-2-4-8図 中国の金利の推移

5.米国トランプ政権の貿易・通商政策による影響

米中間の貿易は、米国側の貿易赤字が続いていることを受けて、2017年4月の米中首脳会談において中国が貿易不均衡是正に向けた「100日計画」を作成することが合意された。5月には米中両国が「100日計画」で合意した内容を発表するとともに、その進捗を具体化し、更なる関係強化に向けた「1年計画」の協議を開始することも決定された113

中国の対米貿易の推移を見ると、2000年代に入って輸出が大きく拡大したが、輸入は輸出の半分以下にとどまったため、結果として対米貿易黒字が大きく拡大した(第Ⅰ-3-2-5-1図)114

第Ⅰ-3-2-5-1図 中国の対米貿易収支の推移

2016年の統計で見れば、中国にとって米国は第1位の輸出相手国であり、対米輸出額は、英独仏などEU28か国合計やASEAN10か国合計を上回る規模に達している(第Ⅰ-3-2-5-2図)。

第Ⅰ-3-2-5-2図 中国の主要国・地域別輸出額(2016)

一方、米国側から見た対中貿易赤字は年々増加しており、また、全赤字の中で中国が占めるシェアも上昇をたどっている(第Ⅰ-3-2-5-3図)。2016年時点で米国の赤字のうち、中国が占めるシェアは約半分に迫っている。

第Ⅰ-3-2-5-3図 米国の相手国別貿易赤字の推移

次に米国側の貿易統計で、どのような品目で対中赤字を計上しているかを見てみると、特に電気機器(携帯電話、テレビ、モニター等)、一般機械(パソコン、事務機部品等)で多額の赤字を計上しており、家具、玩具、履き物、衣類など軽工業品が次いでいる(第Ⅰ-​3-2-5-4図)。

第Ⅰ-3-2-5-4図 米国の品目別の対中貿易収支状況(2016)

現在、二国間の貿易赤字に注目が集まっているが、我が国や米国を含む各国企業はグローバル・バリューチェーンの下で、国際的に生産分業を展開している。既に中国には多くの外資系企業が立地しており、中国の輸出入の中で外資系企業が占めるシェアは低下してきているものの、依然として輸出の4割強、貿易黒字の3割弱を占めている(第Ⅰ-3-2-5-5図)。米国が大きな赤字を計上している、電気機器、一般機械についても、中国の地場企業とともに、外資系企業も生産していることが考えられる。

第Ⅰ-3-2-5-5図 中国の貿易に占める外資系企業のシェアの推移

我が国製造業について見てみると、中国に現地法人を展開しており、現地調達とともに、日本から部材を調達して生産活動を行っている。その製品は、中国、日本を中心に販売されるが、一部は米国にも輸出されている(第Ⅰ-3-2-5-6図)115。業種別には輸送機械が多いが、電気機械も輸出されている。もし、中国からの輸入に制限が課された場合、在中日系企業の輸出、ひいては日本から中国への部材輸出に影響が生じる懸念がある。

第Ⅰ-3-2-5-6図 在中日系現地法人(製造業)の活動(2015年度)

113 米国商務省のプレス発表(2017年5月11日)では、両国が「100日計画」で合意した内容が公表されている。主な合意内容としては、中国は、国際的な食品安全基準等を満たすのを条件にBSE(牛海綿状脳症)問題で輸入を停止していた米国産牛肉の輸入を再開する、全額外資出資の金融業企業による中国国内における信用格付業務を認める、米国の二つの金融機関に債権引受・決済業務の免許を付与する等が公表されており、一方、米国は、中国の「一帯一路」構想の重要性を認識して、5月に北京で開催される「一帯一路」会議に代表団を送る等が挙げられている。

114 ここで中国とは本土のみ、香港は含まない。本節において特に記載のない限り同じ。

115 具体的な数値は経済産業省「海外事業活動基本調査」による。ただし、本調査の回答は任意であり、必ずしもすべての日系現地法人を網羅した統計とは限らない。なお、回収率は2015年度実績調査で74.7%となっている。

コラム1 米国多国籍企業にとっての中国

米国商務省は、毎年、米国の多国籍企業の海外現地法人について、売上、利益、米国との輸出入等の事業実績を調査している。これによれば、在中の米現地法人の対米輸出入額は、2014年時点でそれぞれ約102億ドル、153億ドル、中国の対米輸出入総額に占めるシェアは、2.6%、10.0%となっている(コラム第1-1図)。

コラム第1-1図 在中米国海外現地法人の対米輸出入の推移

世界の米国現地法人における立地国としての中国のシェアを見ると、売上、利益、輸出入のいずれの面でも中国のプレゼンスは拡大している(コラム第1-2表)。

コラム第1-2表 全世界の米国海外現地法人に占める中国のシェア

また、世界の米国現地法人の活動において、中国は、売上、利益、米国との輸出入において上位3~4位に入り、米国多国籍企業にとって重要な立地拠点となっている116。もし、米中間で貿易摩擦が拡大するような事態になった場合、米国企業にとっても影響が及ぶ懸念がある(コラム第1-3表)。

コラム第1-3表 米国多国籍企業の海外現地法人の国別事業実績(2014)

116 利益については、バーミューダ等の租税回避地があるため、やや順位が低いが10位以内には入っている。また、項目によっては一部の国が秘匿扱いになっている場合もあり、順位が前後することはあり得る。

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