経済産業省
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第4節 日本企業にとってのビジネスチャンス

1.我が国の対中輸出

本節では、中国における日本企業にとってのビジネスチャンスを考察する。まず、日本からの輸出について概観し、次に中国現地市場と中国で展開する日系現地法人の動向を考察する。

既に見てきたような中国の経済成長は、日本の輸出にとっても市場の拡大を通じて、好影響を及ぼしていると考えられる。その際に中国は経済規模が拡大しているだけでなく、様々な構造変化が同時に進行している点にも注意が必要である。すべての分野が必ずしも等しく成長しているわけではなく、成長に濃淡があることを示唆しており、特に成長が期待されている分野ではより大きなビジネスチャンスが見込めることになる。中国で起こっている大きな変化の一つは、個人の所得水準の上昇であり、マクロ経済的には投資から消費への需要構造の転換である。このように拡大する消費市場(いわゆるB to C市場)では、乳幼児向け、高齢者向け、中間層向けの市場拡大が著しいとの指摘がある。また、人口動態が生産年齢人口減少に転じ、産業構造の転換、産業のレベルアップ、グリーンな経済成長が志向される中で、企業向けの市場(B to B市場)では、産業用ロボット、環境関連などの分野が有望と指摘されている。

それでは実際の統計を見ながら成長分野を考えてみたい。まず、日本から中国向けの全体的な輸出の動向を概観すると、2000年代、中国のWTO加盟後に対中輸出額は大きく拡大した(第Ⅱ-3-4-1-1図)。その後、リーマン・ショック後に落ち込んだ時期もあるが、日本の対中輸出額は2017年に過去最高の約14.9兆円に達し、米国の約15.1兆円に次ぐ第2位の輸出先であり、日本の総輸出の約2割を占めるまでに至っている。また、最近は日本から中国に対する越境電子商取引の急速な拡大も指摘されており、2016年には1兆366億円と1兆円の大台を超え、さらに2017年には1兆2,978億円(前年比25.2%増)に達したと推定されている(第Ⅱ-3-4-1-2図)162

第Ⅱ-3-4-1-1図 日本の中国向け輸出の推移

第Ⅱ-3-4-1-2図 中国消費者による日本の事業者からの越境EC購入額

日本の対中輸出の基本的な構造を見た上で、最近の増加品目を考察してみる。輸出額ベースで見た日本の主要輸出品目は、一般機械、電気機器、自動車、精密機械等の部品も含めた機械関係が約6割を占め、プラスチック、有機化学品、鉄鋼等の素材関係が続いている(第Ⅱ-3-4-1-3図)。過去の通商白書でも指摘してきたように、日本企業、特に日系製造業企業は積極的に海外に進出して、東アジアを中心に各国の優位性を活かしながら国際的な生産分業を展開してきた163。端的な表現をすれば、日本から高度な基幹部品や生産設備を輸出し、現地で組立て、日本を含めた海外に輸出する形態が典型的だった。現在の日本の対中輸出品構成も、それを反映して、一般機械では、工作機械や半導体製造装置などの生産設備やエンジンなど機械部品、電気機器の中では集積回路を始めとする電子機器部品、自動車では自動車部品、精密機械では、液晶デバイス、光ファイバー、制御装置、検査・測定機器といった基幹部品や生産資材に関連した品目が多い164。日系製造業の国際的な生産分業が基本にあるために、輸出相手は日系現地法人のシェアが高いものの、現地地場企業等へも一定割合輸出していると推測される165

第Ⅱ-3-4-1-3図 日本の対中輸出品の構成

それでは、最近の動向、特に最近の成長率が著しい品目を見てみよう。「機械」類では、工作機械166が大きく伸びており、中国の省力化、合理化投資が反映していると見られる(第Ⅱ-3-4-1-4表)。また、インターネットの利用者拡大を反映して、半導体需要の急増が指摘されており、半導体製造装置は金額も大きく伸びも高い。部品関係では、エンジン、自動車部品など「自動車」関係のほか、印刷回路、配電盤、スイッチ、液晶デバイス、光ファイバー等の「電子機器」関係が二桁台の高い伸びを示しており、集積回路も輸出規模が大きく安定的な伸びを維持している。先に述べたような生産年齢人口のピークアウト、人件費の高騰、中国製造2025、インターネット+による産業の省力化、高度化、電子化等の動きは、工作機械、半導体製造装置、電子機器部品等に輸出機会を提供していると見られる167

第Ⅱ-3-4-1-4表 日本の対中輸出の伸び率の高い主要品目171

このような機械類の輸出は、製造業の国際的生産分業を基本としたものとも考えられるが、最近は消費財の輸出も伸びている。消費財に目を転じると、化粧品、医薬品、玩具や旅行など娯楽関係品、幼児用用品も高い伸びを示している168。先に述べたように、所得水準の上昇に伴う消費の拡大は、生活関連用品の輸出を後押ししている。食品関係では、お茶、清酒、ビール、果実・野菜ジュースなどの伸びも高く、食を楽しむ傾向が強まっているようにも見られる。このような背景には日本製品に対する「安全・安心」という信頼感があることも指摘されている169。また、消費財については、越境ECによる購入拡大も影響していることが考えられる。越境ECによる日本製品購入経験のある人は多く、その理由として日本に旅行した時に気に入ったなど訪日旅行との関係も指摘されている170。越境ECで購入した商品としては、化粧品、食品、医薬品が上位に挙げられており、貿易統計で見た高い伸び率の品目と符合する。

162 ここでは、中国の消費者の日本事業者からの越境電子商取引(B to C)による購入額を表示。越境電子商取引の対象分野として、モノの販売「物販系」のほか、金融取引やチケット販売等の「サービス系(非デジタル)」、オンライン・ソーシャルゲームやクラウド系サービス、スマートフォンアプリ等の「デジタル系」まで含めて推計しており、財貿易を対象とする通関統計よりも対象範囲が広い。

163 この国際的に展開された生産分業のリンクは、グローバル・バリュー・チェーン、グローバル・サプライ・チェーンなどとも呼ばれる。

164 経済産業研究所のRIETI-TIDデータベースによれば、2016年の中国の日本からの輸入は、機械などの資本財が全体の24.2%、部品が33.7%と全体の約6割を占め、ほかにも鉄鋼、化学品などの加工品が30.8%と、生産のための中間財や資本財が大部分を占めている。反対に最終消費財のシェアは9.3%と、全体の1割以下となっている。

165 経済産業省「企業活動基本調査」で、日本の製造業企業の輸出額のうち、関係会社に対する輸出シェアを計算すると55.8%(世界計/2015年度)、「海外事業活動基本調査」で海外に現地法人を有する製造業企業に限って集計した場合は66.0%(世界計/2015年度)と、自社の海外現地法人との取引シェアが高い。しかし、反対に見れば、それ以外の部分は、日系でも他社の関係企業、現地地場企業、第三国の多国籍企業向けの輸出となる。

166 品目名の表記に当たっては分かり易さを優先した。例えば、HSコードに「工作機械」という分類はないが、ここでは、レーザー加工用の機械(HS8456)、マシニングセンター(HS8457)、旋盤(HS8458)、フライス盤(HS8459)、部品(HS8466)など、HS8456~HS8466までを工作機械及び部品と見なして表記した。

167 機械機器関係では、産業用機械のほか、医療用機器(HS9018)などが堅調に伸びている(2017年793百万ドル/前年比13%増)。

168 2017年12月、中国は食品、家電、日用品など187品目に対して関税引下げを行っており、今後の消費財の輸入に対して好影響が見込まれる。

169 例えば、ジェトロが中国の消費者に対して2017年8月にインターネットを通じて行った調査(「中国の消費者の日本製品等意識調査」)において、中国人の各国に対する意識調査で、日本は「エコ(省エネ、環境にやさしい)」なイメージの国として第1位(回答者の36.4%)、「安全・安心」なイメージの国として第2位(回答者の25.5%)に選ばれている(同調査は、日本、中国、米国、など9か国の中から選択する形式)。

170 上記調査では、越境ECの利用状況も調査されており、日本製品の購入経験のある人は、回答者中67.7%にのぼり、越境ECを利用する理由は、中国国内で販売されていない(44.4%)、日本に旅行した時に気に入った(40.4%)、ニセモノではない(32.4%)などが多い。また、越境ECで購入した製品は、化粧品(48.5%)、食品(41.6)、医薬品(35.5%)が上位にきている。

171 日本の2017年対中輸出のうち、HS4桁ベースで伸び率の高い特徴的な品目を表示。2014~2017年伸び率は3年間(2014→2017)の伸び率。第Ⅱ-3-4-1-4表は原則として2017年、2014-2017年のいずれも伸びている品目から選んだが、2015年、2016年は世界的に貿易が伸び悩んだ年であり、日本の対中輸出も2017年に高い伸びを示していても2015年、2016年は伸び悩んでいた品目も多い。例えば、工作機械に入る研削盤、鍛造機、旋盤、工作機械部品、液晶デバイス、光ファイバーなどは2017年に2桁台の成長率をあげているが3年間(2014→2017)の成長ではマイナスであった。

2.中国市場と日系現地法人

(1)中国市場の動向

本節では中国の現地市場と、中国で展開する日系現地法人の動向を見ていく。その際に、日本以外の欧米企業の様子も限られたデータの中ではあるが比較してみる。

中国市場については、中国の構造的な変化をもとに成長市場を考察する。既に述べたように、最近の中国の大きな変化のひとつとして、投資から消費への需要構造の転換が挙げられる。例えば、社会消費品の小売売上高は、名目でも実質でも経済全体の伸びを超えて拡大している(第Ⅱ-3-4-2-1図)。また、販売チャンネルの変化も見られ、インターネットを通じた販売が前年比3割増と拡大が著しい172(第Ⅱ-3-4-2-2図)。その背景を概観し、伸びている分野を挙げる。

第Ⅱ-3-4-2-1図 中国のGDPと小売売上高の伸び率の推移

第Ⅱ-3-4-2-2図 中国の小売売上高・ネット販売の伸び率

第1章では、中国において賃金水準が上昇してきたことをマクロ経済の課題として挙げたが、反対に見れば所得水準が上昇してきたことも意味している173。そして所得の上昇を受けて消費も拡大している。中国の一人当たり可処分所得及び消費支出の推移を見てみると、2013年から2017年の4年間の間に、可処分所得は約18.3千元から26.0千元へ増加し、それに応じて消費支出も13.2千元から18.3千元へと拡大、所得・支出とも約4割増となっていることが確認できる(第Ⅱ-3-4-2-3図)174。それでは拡大した消費がどこに向かっているのかを消費支出の構成の変化で見れば、衣食住に相当する義務的支出に対するシェアはほぼ横ばい又は低下傾向にある一方、交通・通信、教育・文化・娯楽、健康・医療のシェアが上昇している(第Ⅱ-3-4-2-4図)。この動きは、所得上昇や高齢化が進む中で、健康に留意するとともに、生活の質を高め、楽しむ方向に向かっているように見える。見方を変えれば、単純なモノの購入から、生活を楽しむ体験型の消費への関心が高まっているという指摘もある175

第Ⅱ-3-4-2-3図 中国の一人当たり可処分所得及び消費支出の推移

第Ⅱ-3-4-2-4図 中国の一人当たり消費支出の構成比の推移

172 インターネット通販やコンビニエンスストアなど小型店舗が伸びる一方で、百貨店など大型の実店舗は成長が鈍化しているとの指摘がある。さらに最近では、実店舗で商品を体験するとともに、インターネット通販も活用するなど両者の融合の動きもある。

173 GDPにおける雇用者報酬の比率を試算すると、2010年に45.0%だったが、2016年は47.5%まで上昇している。

174 中国の所得統計は、都市部は可処分所得、農村部は現金所得と分けて集計されていたが、2013年から可処分所得として全国計が公表されている。ここでは都市部・農村部を合わせた全国計を表示したが、都市部と農村部で所得が増加傾向にある点は変わらないものの、所得水準に相違がある点には注意が必要。例えば、2017年、都市部の可処分所得が約3万6千元なのに対して、農村部では約1万3千元となっている。

175 モノの購入に対して「コト消費」と表現することもある。例えば、ショッピングモールでも、単純な販売店のほかに、シネマコンプレックス、フィットネスジム、英会話教室など、多彩なサービスを提供するケース、テーマパークなど家族連れで1日中遊べるようなエンターテイメントの提供、旅行などが当てはまる。

最近の中国の拡大する消費や娯楽の例として、旅行者の増加や映画館の入場者の増加がよく指摘される。旅行については、中国人旅行者は国内旅行、海外旅行とも堅調に増加している(第Ⅱ-3-4-2-5図)176。日本の側から見れば、中国人旅行者は増加しており、訪日人数で外国人の約1/4、旅行消費額で約4割を占めるまでに至っており、インバウンド消費にも大きく貢献している(第Ⅱ-3-4-2-6図)。また、一度の旅行で日本製品を「爆買」することは少なくなってきたが、帰国後に、電子商取引で日本製品のリピーターとなるなど、その後の継続的な購入も指摘されている。このような中国人旅行者の増大が、本節の冒頭で指摘した、日本の対中電子商取引増加の一因となっている。

第Ⅱ-3-4-2-5図 中国の旅行者数の推移

第Ⅱ-3-4-2-6図 訪日外国人旅行者の推移

中国では、映画、テレビなどを含めた文化・娯楽産業が拡大している。例えば、中国における映画興行収入は、国内映画、輸入映画とも増加している177(第Ⅱ-3-4-2-7図)。その結果、2016年時点で中国の映画興行収入は、米国に次いで世界第2位であり、第3位である日本の3倍の規模を有するに至っている(第Ⅱ-3-4-2-8図)178

第Ⅱ-3-4-2-7図 中国の映画興行収入の推移

第Ⅱ-3-4-2-8図 主要国の映画興行収入(2016)

健康・医療分野への支出拡大の背景としては、ヘルスケアに対する関心の高まりとともに、社会の高齢化の影響が指摘されている179。第1節では、中国の生産年齢人口が減少に転じたことを指摘したが、このような人口動態の動きは同時に高齢化社会が到来することも示唆している。国連推定を基に計算すれば、2015年時点で、中国の総人口に対する老齢人口180の比率は9.7%で、日本の総人口に匹敵する約1億3,600万人の老齢人口がいると見られ、今世紀半ばの2050年には老齢人口比率は26.3%、老齢人口は約3億5,900万人まで拡大すると予測されている(第Ⅱ-3-4-2-9図)。

第Ⅱ-3-4-2-9図 中国における老齢人口の増加予測

教育については、中国における高等教育機関への進学者が急速に増加していることが指摘できる(第Ⅱ-3-4-2-10図)。このような高学歴化を背景に、一人っ子政策のもとに生まれた子供に優れた教育を受けさせたいと、教育への関心が高まっていると考えられ、所得上昇によって教育にかける余裕が生まれたことも後押ししていると思われる181

第Ⅱ-3-4-2-10図 中国における大学・大学院生(在学生)の推移

日本側から、サービス産業における日中協力の枠組みとして「日中サービス協力メカニズム」の構築を提案、今年5月の日中韓サミットにおいて合意し、覚書を結んだ。協力の第一弾として、高齢化分野での「予防・介護・生活支援サービス」を議題としたシンポジウムの今年中開催を提案しており、来年以降も、この枠組みの中で教育産業等をはじめとした幅広い分野において、シンポジウム・ビジネスマッチング・政策対話等の協力を進めていく。

既に述べたように、中国では環境問題への対応が大きな課題となっている。我が国企業にとっても環境規制の遵守が求められるとともに、優秀な環境技術を有する企業にとってはビジネスの機会ともなり得る。市場規模のひとつの目安として、中国政府が公表している環境汚染対策のための投資額を見ると、年による変動はあるもののすう勢的に増加してきている182(第Ⅱ-3-4-2-11図)。中国政府は環境保護を重視する方針を掲げていることから、環境関連の投資拡大を予測する声が強い。

第Ⅱ-3-4-2-11図 中国の環境汚染対策投資の推移

176 中国日本商会の資料によれば、外資単独出資の旅行社は、中国人の海外旅行を扱うことが禁止されており、日本商会は緩和を要請している。

177 中国日本商会「中国経済と日本企業2017年白書」によれば、外資の参入障壁(独資による映画館設立の禁止など)、上映を許可される海外映画の本数の規制(年間64本)、海外映画・ドラマのテレビ放送時間に関する規制(19時~22時は禁止)、厳しい契約慣行(米国以外の映画は、利益分配方式でなく、版権買いきり方式が適用される)などがあり、日本商会は緩和を要請している。

178 日中両国政府は、2016年から映画共同制作協定の交渉を重ね、2017年9月に大筋合意。

179 すでに見たように日本の対中輸出の伸びの高い品目として、化粧品、医薬品等が挙げられる。また、医療用機器も堅調に増加している。

180 ここでは60歳以上を「老齢人口」として集計している。

181 例えば、本章第2節で見たようにインターネット・アプリケーションで、eラーニングの利用者が約1.5億人いるなど教育への関心は高い(第Ⅱ-3-2-8図)。

182 環境汚染対策のための投資額は2016年総額約9,200億元、うち、都市部環境インフラ約5,400億元、産業由来の汚染対策約820億元となっている。都市部環境インフラの中では、緑化(都市部環境インフラの40%)、排水(同27%)などが大きい。産業由来の投資額の中では、大気(産業由来の投資額の69%)、水質(同13%)、土壌(同6%)、その他(同12%)となっている

(2)日系現地法人の動向

次に、中国における日系現地法人の動向を見ていく。まず、日本企業の世界的な海外進出の中での中国の位置づけを見てみる。外務省調査によれば、中国の日系企業拠点数は約3万2千拠点(世界シェア45%)と、米国、アセアンの日系企業拠点数の3~4倍に達し、世界最大規模となっている(第Ⅱ-3-4-2-12表)。その背景には、中国の経済規模、高い成長率、日本からの近接性等の要因があることが考えられる。これを現地法人の企業ベースで見ると、世界シェアは企業数、従業員数ではそれぞれ25%、27%と世界1位、売上げ、経常利益は、GDP世界最大の米国にはゆずるものの、それぞれ16%、20%と世界第2位の規模を有し、日本企業にとって大きな事業活動の舞台となっている(第Ⅱ-3-4-2-13図)。国別に近年の現地法人の売上高経常利益率を比較してみても、中国は、米国、EUを上回り、高い水準にある(第Ⅱ-3-4-2-14表)。

第Ⅱ-3-4-2-12表 主要国における日系企業拠点数(2016年/上位10か国)

第Ⅱ-3-4-2-13図 日系海外現地法人(2016)

第Ⅱ-3-4-2-14表 日系海外現地法人の経常利益率

このように日本の対外直接投資の中で、中国に対するシェアは大きいが、過去からの推移を見ると、むしろ、2012年のピーク以降、毎年の新規・追加の直接投資額は減少に転じ、2017年はピーク時から半減している(第Ⅱ-3-4-2-15図)。中国は世界第二の経済規模を有し、かつての10%を超える高成長からは減速しているが、欧米先進国と比べれば高い成長率を持続しており、拡大する市場として事業機会を考えていく必要がある。

第Ⅱ-3-4-2-15図 中国の日本からの対内直接投資の推移

実際に日本企業に有望な事業進出先をアンケート調査した結果では、中国は、マーケットの規模や成長性を背景に最も有望な進出先との声が高い(第Ⅱ-3-4-2-16図)183

第Ⅱ-3-4-2-16図 日本企業から見た有望な事業展開先

ここまで、日本の対中投資の動向を見てきたが、業種別の観点を加えてみる。中国側統計で中国の世界からの対内直接投資の推移を見ると、対内投資の受入額は長期的に拡大傾向が続いており、その業種構成は第二次産業から第三次産業へとシフトしてきている。2017年時点では、製造業は約3割にまで縮小している(第Ⅱ-3-4-2-17図)。

第Ⅱ-3-4-2-17図 中国の対内直接投資額及び業種別構成の推移

一方、日本の国際収支統計で、対中直接投資の推移を見ると、製造業のシェアが縮小してきているものの、依然として製造業が約6割を占めており、卸小売は約3割、その他の業種は約1割にすぎない(第Ⅱ-3-4-2-18図)184。中国が賃金の上昇(=所得の増加)を背景に「世界の工場」から「世界の市場」へ変化する中で、日本の対中投資は、非製造業分野の進出が遅れているといえる。しかし、同時に、日本にとってさらなる進出の余地、ビジネスチャンスがあると見ることもできる。

第Ⅱ-3-4-2-18図 日本の対中直接投資の推移

国際収支でなく、経済産業省が毎年実施している海外現地法人に関する調査で見てみる。中国に立地する日系現地法人の売上高の推移を見ると、やはり製造業の割合が多いのが特徴である。旺盛な中国内外の需要を捉え、売上・利益共に伸ばしている。個人消費関連サービス185も伸びてきているものの、その売上高は製造業の約30兆円に対して、約6千億円と相対的に小さな規模にとどまっている(第Ⅱ-3-4-2-19図)186

第Ⅱ-3-4-2-19図 主要業種別の在中日系現地法人売上高の推移

183 国際協力銀行が行った調査で、製造業が対象業種となっている。

184 国際収支統計で見ているため、対外直接投資の増加の中に、再投資収益が含まれている点には注意が必要である。これは、統計上、現地法人の内部留保の増加分を、一旦利益として日本の出資者に配当され、直ちに再投資されたとみなすもので、実際の投資が行われたわけではない。

185 ここでは、個人消費に関係が深いと思われる、小売業や対個人向けのサービス(例えば、生活関連サービス、娯楽、宿泊・飲食、教育、医療・福祉)を便宜的に「個人消費関連サービス」と表記する。

186 売上高は、中国国内販売のほか、輸出も含むため、主として国内需要を対象とする個人消費関連サービスの影響が出にくい面はある。

中国に立地する日系現地法人の事業活動の状況を業種別により詳しく見てみよう。第Ⅱ-3-4-2-20表は、中国における個人消費関連サービス業の詳細にまでおりた日系現地法人数であり、その際に米国に立地する日系企業との比較も行っている。この表からも、中国に展開している日系現地法人は製造業が中心であり、旺盛な消費に関連すると思われる小売業や対個人向けのサービス、例えば、生活関連サービス、娯楽、宿泊・飲食、教育、医療・福祉等はわずかなシェアにとどまっていることがわかる。同じ日系現地法人でも、米国に進出している企業を見ると、個人消費関連サービスのシェアが必ずしも大きくはないものの、中国に進出している企業に比べれば、これら業種のシェアが高い。

第Ⅱ-3-4-2-20表 中国・米国における日系現地法人の比較(2015年度)

このように中国における企業の個人消費関連サービスのシェアが低いのは、外資系企業共通に見られる現象であろうか、それとも日本企業に特徴的なことであろうか。米国商務省、欧州統計局のデータを利用して、日米欧の現地法人の売上額を比較すると、日本は個人消費関連サービスの売上高が欧米に比べて金額ベースで小さく、また、全業種に対する業種別シェアでも低くなっている(第Ⅱ-3-4-2-21図)。中国では、中間層、乳幼児、シルバー市場の拡大が指摘される中で、欧米企業は既に中国に進出してこの分野で売上げを上げているのに対して、日本企業は進出が遅れている可能性がある。

第Ⅱ-3-4-2-21図 中国における日米欧現地法人の業種別売上高の比較(2015)

日系企業が、業種別に中国市場をどう評価しているかを見ると、約半数の企業は事業拡大を考えており、特に、卸・小売ではその比率が高い(第Ⅱ-3-4-2-22図)。

第Ⅱ-3-4-2-22図 在中日本企業の今後1~2年の事業展開

また、外資企業が中国市場をどう見ているか、米国企業を例に中国市場の見込みを見ると、製造業だけでなく、消費関連産業やサービス業も市場拡大を予想している(第Ⅱ-3-4-2-23図)。

第Ⅱ-3-4-2-23図 米国企業が中国の当該産業の市場をどう見ているか(2018年成長率予測)

それでは、現在実際に進出している日本の個人消費関連サービス業(小売業や消費関連のサービス業)に属する企業の実態、プロフィールを見てみる。果たしてどのような企業が進出しているのであろうか。まず、従業員数で見た企業規模では比較的小規模な企業が多い。例えば、従業員10人未満の企業が全産業で2割以下、製造業では数%にすぎないが、小売業では3割、消費関連サービス業では2割を超えている(第Ⅱ-3-4-2-24図)187。次に操業年数を見ると比較的若い企業が多い。例えば、10年未満の企業が全産業で4割、製造業で3割に対して、小売業では7割、消費関連サービス業でも6割を占めている。企業規模が小さく、操業年数も若い影響か、売上高規模も他業種と比べ相対的に小さい企業が多く、経常利益が黒字に至っていない企業も多い。一方、出資比率については、全産業でも日本側100%出資の企業が7割と多いが、消費関連サービスでは8割を超えている188。日本側全額出資の場合は、経営の自由度が高いことが大きな利点であるが、現地の市場動向や商慣行に精通した現地人材や地場企業との協働の必要性を指摘する声もある189

第Ⅱ-3-4-2-24図 在中日系現地法人のプロフィール(2015年)

ここまで、中国市場の有望性を見てきたが、中国でビジネスを行う上での課題も指摘されている。在中日系企業が指摘する課題は、従業員の賃金上昇を筆頭に、競合相手の台頭、調達コストの上昇、品質管理の難しさ等多岐にわたっている190(第Ⅱ-3-4-2-25図)。また、別の調査では、知的財産権の運用が不十分との指摘もされている191

第Ⅱ-3-4-2-25図 在中日本企業の経営上の問題点

中国におけるビジネス上の課題を他の外国企業から見た場合、賃金上昇のほかに、規制の不明瞭さ、規制のコンプライアンスリスクを挙げる声が多い(第Ⅱ-3-4-2-26図)。

第Ⅱ-3-4-2-26図 米国企業から見た中国におけるビジネス上の課題

これまで、本節において中国市場におけるビジネスチャンスを見てきたが、第三国においても、日中民間企業が協力してビジネスチャンスをつかむことも有益である。

一般論として、第三国協力を進めることには、外交上の意義に加え、①競争力ある他国企業と組むことによるコスト競争力の強化、②他国企業が進めるプロジェクトにサプライヤーとして参画することによるビジネス機会の拡大、③相手国との太いパイプを有する第三国企業と連携することによる政治・外交リスクの低減といった、ビジネス上の意義がある192

このような背景から、日中両国政府は、日中企業による第三国協力の推進に向けて取り組んでいる。まず、2017年11月の日中首脳会談において、双方は、ルールに基づく自由で開かれたwin-winの関係を築いていくために、民間企業間のビジネスを促進し、第三国でも日中のビジネスを展開していくことが両国及び対象国の発展にとって、有益であることで一致した。2017年12月に東京で開催した「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」において「第三国市場協力分科会」を新設し太陽光、水力発電といったグリーン電源の開発、ガス火力発電、製油所近代化といった産業高度化などの分野における日中協力の可能性について意見交換を行った。また、省エネ・環境分野に限らず幅広い日中企業が参加し意見交換を行う場の必要性について企業から指摘があった。さらに、2018年5月の日中首脳会談(安倍総理・李克強総理)において、両首脳は、第三国における日中民間経済協力について、①日中ハイレベル経済対話の下、省庁横断・官民合同で議論する新たな「日中民間ビジネスの第三国展開推進に関する委員会」を設け、具体的な案件を議論していくこと、②また民間企業間の交流の場として「第三国市場協力フォーラム」を安倍総理の訪中の際に開催することで一致した。今後、両枠組みを活用して、対話や交流を推進し、具体的な日中企業の第三国協力プロジェクトを組成していく。

これまで中国は「世界の工場」といわれるように生産拠点として見られており、サプライチェーン関連の製造業が多く立地していた。しかし、中国は人件費が上昇し、かわりに消費市場が拡大して「世界の市場」へと変貌を遂げつつある。中国には、様々な構造問題はあるが、それらを克服し消費主導型成長に転換していくことができれば、今後とも有望な市場としてビジネスチャンスを考えていくことが重要となってくる。また、中国企業が積極的に海外進出をしていく中で、第三国における日中企業協力も有益と指摘されている。成長を続ける中国の活力を日本の活力につなげていく必要がある。

187 ただし、業種ごとに特性があることは考えられる。例えば、日本において中小企業の定義を従業員規模で考える場合、製造業等300人以下、卸売業・サービス業100人以下、小売業50人以下というように、製造業の企業規模は相対的に大きく、小売業は相対的に小さい傾向は見られる。

188 業種によっては出資比率規制がある点には注意が必要。

189 現地事情の把握等のためには公的サービスの活用も有益であり、例えば、ジェトロは日本企業の海外進出支援を行っている。企業のスタートアップに関しては、現地の有力スタートアップ・アクセラレータ(スタートアップ支援企業・団体)等と提携して、日本企業の現地展開、現地有力スタートアップの日本進出の支援等を行う事業を立ち上げた。具体的には、このようなハブ(拠点)を中国においては、深圳、上海に設置し、提携先アクセラレータの専門家による現地ブリーフィング、事業戦略立案に関するアドバイス、コワーキングスペースの提供等の支援を行っている。

190 その他にも、例えば、雇用面では、7割以上の企業が賃金上昇を課題に挙げているほか、従業員の質、ワーカーや技術者など人材確保の難しさを指摘する声が強いなど、様々な課題に直面している。

191 第Ⅱ-3-4-2-16図参照。

192 同様の観点から、日米、日印、日中の第三国協力を推進している。日米第三国協力については、第3部第1章第3節1を参照のこと。

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