第3節 日米経済関係
1.日米経済対話
2017年2月、安倍総理とトランプ大統領の間で行われた最初の日米首脳会談で、今後、日米経済関係を更に大きく飛躍させ、日米両国、アジア太平洋地域、ひいては世界の力強い経済成長をリードしていくために対話と協力を更に深めていこうという認識で一致し、麻生副総理とペンス副大統領の下で経済対話を立ち上げることを決定した。
2017年4月18日に東京で開催された第1回会合では、経済対話を、貿易及び投資のルール/課題に関する共通戦略、経済及び構造政策分野での協力、及び分野別協力の3つの政策の柱に沿って構成することで一致した。
貿易及び投資のルール/課題に関する共通戦略の柱においては、日米両国は、高い貿易及び投資に関する基準についての二国間枠組み、地域及び世界の貿易環境における日米両国の貿易及び投資イニシアティブの視座、及び第三国に関する懸念への対処について取り上げることで一致した。
経済及び構造政策分野における協力の柱においては、日米両国は、G7による3本の矢のアプローチ(相互補完的な財政、金融及び構造政策)の積極的活用、グローバルな経済及び金融の進展及び課題に関する協力、及び地域におけるマクロ経済及び金融課題に関する協力について取り上げることで一致した。
分野別協力の柱においては、日米両国が相互に経済的利益を促進するため、インフラ、エネルギー分野等で、建設的かつ有意義な議論が行われた。
10月18日には、ワシントンDCで第2回の日米経済対話が開催された。第2回の経済対話では、第1回会合で一致した3つの柱について具体的な成果を得るべく精力的に議論してきたことを評価するとともに、今後とも、日米経済関係を更に深化させるため、建設的な議論を進めていくことの重要性について確認した。また、会合後に日米共同プレス・リリースが発出された。
貿易・投資のルール/課題に関する共通戦略については、日米双方は、二国間の貿易事項に関し、①日本産の柿及びアイダホ産ばれいしょに対する制限が解除されたことを確認するとともに、②自動車貿易分野では、日本がその輸入自動車特別取扱制度(PHP)の下で認証される米国産自動車輸出のための騒音及び排出ガス試験に関する手続を合理化することについて確認した。さらに、③日本が、地理的表示(GI)制度について国内の法及び手続に基づいて透明性及び公平性を確保すること、また、④ライフサイエンス・イノベーションに関する償還政策について透明性を引き続き確保することが確認された。
また、日米双方は、不公正な貿易慣行に対する効果的なエンフォースメント強化や、高い貿易投資基準の推進等に関する専門家レベルの議論が進んでいることを確認した。
経済及び構造政策分野における協力については、①G7による3本の矢のアプローチの積極的活用を再確認した。また、双方は、②金融規制制度を始めとしたグローバルな経済・金融の現状と課題における協力について認識を共有し、③国際開発金融機関の主要なステークホルダーとして、日米両国が最も高い国際基準及び債務持続可能性との整合性を保ちつつ、持続可能かつ包摂的な開発を推進すべく緊密に連携していくことについて確認した。
分野別協力については、日米両国において相互の経済的利益及び雇用創出を促進できる分野で、それぞれ作業を設置し、実質的で幅広い議論が行われ、日米両国のウィン・ウィンの関係を更に強化できる具体的成果が得られつつあることが歓迎された。
日米双方は、この文脈で、①インフラの老朽化対策や高速鉄道の整備を含む交通インフラ協力、投資増大、また第三国におけるインフラ整備等を通じた質の高いインフラの促進、②液化天然ガスや民生用原子力、エネルギーインフラ等を含むエネルギー連携、③グローバルな競争条件の公平化、④デジタルエコノミーに係る連携、⑤女性の経済参画を始めとする包摂的な労働力参加等の分野において議論を深めていくことを確認した。
第Ⅲ-1-3-1図 日米経済対話(第2回会合)
参考 共同プレスリリース(2017年10月16日)
本日、麻生太郎日本国副総理及びマイク・ペンス・アメリカ合衆国副大統領は、日米経済対話第2回会合を開催した。本日の会合において、麻生副総理及びペンス副大統領は、経済対話の議長として、二国間の経済、貿易及び投資関係を強化することの重要性を確認した。強力な内需主導の成長や公正な貿易慣行の促進は、二国間の貿易及び海外直接投資を拡大させることが可能であり、経済成長及び雇用創出に寄与するとともに、よりバランスのとれた貿易をもたらし得る。日米両国は、近い将来に進展を示すために本対話においてモメンタムを構築することにコミットした。
貿易及び投資のルール/課題に関する共通戦略
(1)第三国による不公正な貿易慣行に対して、更に効果的なエンフォースメント活動をもたらすとともに、(2)高い貿易投資基準を推進する上での共通の関心に係る新しい分野を特定するため、専門家レベルの作業が進行中である。
二国間の貿易事項に関し、日本産柿生果実及びアイダホ産ばれいしょに対する制限の解除を含め、いくつかの初期の進展が得られた。自動車貿易分野では、日本は、輸入自動車特別取扱制度(PHP)の下で認証される米国産自動車輸出のための騒音及び排出ガス試験に関する手続を合理化する。日本は、国際協定を通じて保護を受けるものを含む、地理的表示(GI)制度について国内の法及び手続に基づき、意義ある透明性及び公平性を確保することにコミットした。日本は、また、ライフサイエンス・イノベーションに関する償還政策について意義ある透明性を引き続き確保することにコミットした。日米両国は、近い時期に二国間の貿易事項に関し、更なる進展を達成するための作業を強化することを確認した。
経済及び構造政策分野における協力
日米両国は、G7で確認された三本の矢のアプローチ(相互補完的な財政、金融及び構造政策)の積極的活用を再確認した。
日米両国は、金融規制制度は、安全性及び健全性に係る高い水準を維持し、金融システムに関する国民への説明責任を確保しつつ、規制によるコスト及び負担を削減するよう調整されるべきであるとの認識を共有した。
国際開発金融機関の主要なステークホルダーとして、日米両国は、最も高い国際基準及び債務持続可能性との整合性を保ちつつ、持続可能かつ包摂的な開発を推進すべく緊密に連携していくことにコミットした。
分野別協力
日米両国は、両国における経済的利益及び雇用創出を促進するために、個別分野について協調を行っている。それらは、投資増大、質の高いインフラの促進及びエネルギー連携の深化に係るプログラム、ビジネスのためのグローバルな競争条件の公平化を図る共有された戦略の策定に向けた対話並びにデジタル・エコノミー及び包摂的な労働力参加を含む個別分野での協力の促進のための活動に主眼を置いている。
日米両国は、インド太平洋地域におけるインフラ・プロジェクトは、市場競争、透明性、責任ある資金調達、開かれ、公平な市場アクセス並びにグッド・ガバナンスの高い基準と整合的であるべきことを確認した。本日、の日米両国政府は、インフラ整備、資金調達、メンテナンス及び高度道路交通システムを含む交通分野の協力強化のための協力覚書に関する協議を妥結した。
エネルギー連携について、日米両国は、液化天然ガス、高効率石炭、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、民生用原子力、エネルギーインフラを含む様々なエネルギー案件に係る具体的な成果が近い将来に発表されることを期待する。
2.日米首脳会談(11月、於:東京)
2017年11月6日、トランプ大統領が初来日し、日米首脳会談が開催された。
経済分野では、日米両国が、地域に広がる高い基準の貿易投資ルール作りを主導し、第三国の不公正な貿易慣行に対するエンフォースメントに係る協力を進め、地域、ひいては世界における開発及び投資に関する支援の面で力強くリードしていく考えであることで一致した。加えて、日米経済関係を更に強化するために、貿易・投資分野において、以下のとおり取り組むことが確認された。
- 自動車分野に関し、両国は、二国間で、また、必要に応じて、自動車基準調和世界フォーラム(WP29)を含む国際的フォーラムにおいて、基準と、規制に関する良い慣行の促進において協力を強化することを確認した。加えて、米国安全基準のうち日本より緩やかでないと認めた項目については日本の基準を満たすものとみなすとともに、輸入自動車特別取扱制度下での輸入車に政府の財政的インセンティブの同等の機会を提供することとした。
- ライフサイエンス・イノベーションに関し、日本側は、中央社会保険医療協議会における業界団体の意見陳述時間を延長する等国内制度において透明性を高めることとした。
- また、米側は、蒸留酒の容器容量に係る規制を改正することを検討していることを確認した。
両首脳は、日米経済対話の枠組みの中で、「日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)」を進めていくとの認識で一致した。また、両首脳は、新興市場における開発を支援するため、エネルギー、インフラその他の重要な分野における投資機会に関し協力するとのコミットメントを強調した。また、両首脳は、第三国のインフラ整備を共同で進めるための関連機関の連携で一致した。
さらに、両首脳は、日本企業から米国への投資が高い水準で推移していることを歓迎し、日米双方向で投資を促進していくことで一致した。
第Ⅲ-1-3-2図 日米首脳会談(2017年11月)
3.日米首脳会談(4月、於:フロリダ)
2018年4月17日及び18日(現地時間)、米国フロリダ州にて、安倍総理大臣は、トランプ大統領と日米首脳会談、少人数会合、ワーキングランチの3回会談を行った。
経済について、両首脳はインド太平洋地域における自由で公正な交易を守ることが必要であることを確認した。
また、安倍総理から、日本企業による米国への投資と、それを通じた米国の雇用と輸出の拡大への貢献や、日本企業による米国産エネルギー購入額の増大等を説明し、トランプ大統領はこれを歓迎した。
両首脳は、双方の利益となるように、日米間の貿易・投資を更に拡大させ、公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域における経済発展を実現するために、茂木大臣とライトハイザー通商代表との間で「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」を開始し、これを麻生副総理とペンス副大統領の下で行われている日米経済対話に報告させることで一致した。
第Ⅲ-1-3-3図 日米首脳会談(2018年4月)
4.日米貿易投資関係の更なる発展に向けた取り組み
1980年代の貿易「摩擦」は過去のものとなり、自動車産業を始めとする日本企業の広範な投資によって多くの良質な雇用が米国内に生み出されるとともに、イノベーションの創出等により米国人の生活に付加価値をもたらしており、両国経済関係は「協力」を基調とするものとなっている。
こうした理解を更に広げるとともに、日米間の貿易投資関係を更に発展させるため、2017年7月に取りまとめられた「グラスルーツからの日米関係強化に関する政府タスクフォース(各地各様のアプローチ)行動計画」にも基づき、ジェトロにおいて、①地方都市での「ロードショウ」開催、②州知事・ローカルコミュニティ有力者への個別アプローチ、③対米投資促進のためのセミナー開催、④両国企業の現地でのマッチングイベント開催、などに取り組んでいる。
これは、日本企業にとっては、米国における一層安定した投資環境の維持に繋がるものであるとともに、米国にとっても雇用確保や生活・産業基盤の強化に繋がるものであると評価できる。
5.米国による鉄鋼及びアルミニウムに係る輸入制限措置への対応
米国は、輸入鉄鋼及び輸入アルミニウムが米国の国家安全保障の脅威であるとし、2018年3月8日、米国通商拡大法232条に基づき、輸入製品が米国の国家安全保障に脅威を与えるとして、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を賦課するとの大統領布告を発出、同月23日より措置を発動した。米国は、当該国からの輸入が米国の安全保障を脅かすことがないよう確保する代替手段に合意できれば、関税を変更または撤廃できる余地を残している(国別除外)。また、米国内で十分に生産できない製品、安全保障上の考慮を要する製品については、米国企業の申請により除外されうるとしている(製品別除外)。
日本からは、従前より米国に対して、同盟国である日本からの鉄鋼やアルミニウムの輸入が米国の安全保障に悪影響を与えることはなく、むしろ、米国の産業や雇用にも多大な貢献をしていること等を粘り強く説明し、除外を求めてきたほか、3月9日及び5月1日に経済産業大臣談話を発表した。
上記国別除外については、3月22日の大統領布告においてメキシコ・カナダ・豪州・アルゼンチン・ブラジル・EU・韓国の7か国・地域が4月30日までの間暫定的に除外された。5月1日には、このうち韓国について、鉄鋼に関する過剰生産と過剰生産能力の削減、韓国から米国に輸入される鉄鋼製品の数量を制限するクォータを含む、米国の稼働率増加に貢献する施策に合意したことから、鉄鋼について232条措置から期間を定めず除外される旨発表された。また、豪州、ブラジル、アルゼンチンが無期限で除外され、メキシコ、カナダ、EUについては暫定除外の期間が5月31日まで延長された。
参考 経済産業大臣談話
米国による鉄鋼及びアルミニウムに係る輸入制限措置の決定について
平成30年3月9日
我が国は、かねてより市場歪曲的な補助金によって世界的な供給過剰が生じている事態を憂慮し、国際協調により、G20、鉄鋼グローバルフォーラムなどで積極的な取組を続けてきた。
米国に対しては、今般の措置の決定に至る過程において、日本からの鉄鋼やアルミニウムの輸入が米国の安全保障に悪影響を与えることはないこと、むしろ、米国の産業や雇用にも多大な貢献をしていること等を粘り強く説明してきた。
こうした中で、3月8日、米国政府が、1962年通商拡大法第232条に基づき、鉄鋼及びアルミニウムの輸入に関して、日本を含む各国からの輸入に対して追加関税を課すことを決定したことは極めて遺憾である。
今般の措置は、単に米国の市場を閉ざすのみならず、アジア地域を含む世界の鉄鋼及びアルミニウム市場を混乱させ、多角的貿易システム全体に大きな悪影響を及ぼしかねない。
鉄鋼やアルミニウムの世界的な過剰生産に対処することが問題の本質であり、WTOルールに則らない一方的措置の応酬は、どの国の利益にもならないことを改めて各国に呼びかけたい。
我が国としては、今後、措置の内容及び日本企業への影響を十分に精査した上で、WTOの枠組みの下、必要な対応を検討するとともに、対象から除外するよう改めて米国への働きかけを行っていく。同時に、我が国としては、自由貿易を堅持する立場から、WTOルールに則った解決を図ることが適切であると関係国に訴えていく。
参考 経済産業大臣談話
米国による鉄鋼及びアルミニウムに係る輸入制限措置について
平成30年5月1日
我が国はこれまで米国政府に対し、1962年通商拡大法第232条に基づく鉄鋼及びアルミニウムの輸入に対する追加関税について、日本からの鉄鋼やアルミニウムの輸入が米国の安全保障に悪影響を与えることはないこと、むしろ、米国の産業や雇用にも多大な貢献をしていること等を繰り返し説明し、日本を対象から除外するよう要請してきた。
それにも関わらず、今般の決定において、米国政府が、日本を対象から除外しなかったことは極めて遺憾である。
我が国としては、WTOの枠組みの下、必要な対応の検討を進めるとともに、引き続き、対象から恒久的に除外するよう断固として米国への働きかけを行っていく。