第4節 ロシア
〈今後の方針〉
ロシア・CIS地域は、石油・石炭・天然ガスをはじめ、ウラン、レアメタル、レアアース等の鉱物・エネルギー資源が豊富である。一方、旧ソ連時代に建設されたインフラは老朽化が進んでおり、インフラ設備等の新規建設及び更新プロジェクトが多数存在し、これらを促進するため、我が国企業から、投資環境の改善ニーズが高まっている。
大統領や政府高官に権限が集中している国が多いことから、要人往来の機会を捉えたトップセールスが重要である。特に、ロシアにおいては、2016年5月の首脳会談以降、8項目の「協力プラン」(下記注)の具体化に向けた動きが加速化している。今後、同プランの具体化を更に加速化させ、日露経済関係の深化を進める。
(注)(1)健康寿命の伸長、(2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、(4)エネルギー、(5)ロシアの産業多様化・生産性向上、(6)極東の産業振興・輸出基地化、(7)先端技術協力、(8)人的交流の抜本的拡大
〈進捗状況〉
2016年5月6日、ロシア連邦ソチで安倍総理大臣がプーチン大統領に8項目の「協力プラン」を提示した。同年9月、世耕経済産業大臣がロシア経済分野協力担当大臣に任命され、同11月には「協力プラン」の具体化に関する日露ハイレベル作業部会が設置された。
2016年12月、大統領としては11年ぶりとなるプーチン・ロシア大統領の訪日が実現し、経済分野では、日露間で協力覚書等80件の文書が署名され、インフラプロジェクト等を始めとした経済案件の着実な進展が見られた。
2017年4月、モスクワで日露首脳会談が行われたが、この機会に日露間の協力覚書等28件の文書が署名され、新日露租税条約の実質合意とともに両首脳に歓迎された。
第Ⅲ-2-4-1図 2017年9月ウラジオストクでの首脳会談の様子
同6月、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに、世耕経済産業大臣が我が国の閣僚として初めて参加し、日露ラウンドテーブルへ出席して8項目の「協力プラン」のこれまでの成果と今後の取組み方針を述べた。また、オレシュキン経済発展大臣と会談し、個別案件の進め方等について意見交換を行った。
同7月、日本は、産業総合見本市イノプロム2017にパートナー国として参加し、中堅・中小企業80社を含む約170社が参加するジャパン・パビリオンを出展した。ジャパン・パビリオンにはプーチン大統領が訪問し、世耕経済産業大臣から日本企業の高い技術、ノウハウについて紹介した。
同9月、ウラジオストクで行われた日露首脳会談では、同4月に実質合意に至った新日露租税条約を含む日露間の協力覚書等56件の文書が署名された。また、世耕経済産業大臣は、ノヴァク・エネルギー大臣との間で第4回エネルギー・イニシアティブ協議会を開催するとともに、オレシュキン経済発展大臣との間で「デジタル経済に関する協力に係る共同声明」及び「労働生産性向上の分野における経験の交換に関する相互理解に関する覚書」に署名し、マントゥロフ産業商務大臣との間では、「IT技術の導入によるロシア企業の生産性診断及び裾野産業の人材育成の取組に関する相互理解に関する覚書」に署名するなど、新たな分野での協力を確認した。
同12月、トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表及び極東発展省の主催で初めて開催された「日本投資家デー」に世耕経済産業大臣が出席し、同副首相との会談では、極東地域における日露協力をさらに発展させていくことで一致した。
2018年2月には、東京で第2回日露ハイレベル作業部会及び第5回エネルギー・イニシアティブ協議会が開催されるなど、引き続き日露経済関係は進展している。
8項目の「協力プラン」の個別分野では、「(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大」に関連し、2016年9月、ウラジオストクで行われた東方経済フォーラムの際、経済産業省とロシア連邦経済発展省が締結した、中堅・中小企業分野における協力のためのプラットフォーム創設に関する覚書に基づき、海外展開支援機関や、自治体、金融機関などからなる日本側プラットフォームを設立した。プラットフォームメンバーであるJETROにロシア展開の専門家を配置し、戦略策定から販路開拓、パートナー探し、商談同行、契約締結まで一貫して個別企業支援を行う仕組みを整備し、一体的に支援を行っている。
また、「(4)エネルギー」に関連し、世耕経済産業大臣はノヴァク・エネルギー大臣との間で2016年11月、エネルギー・イニシアティブ協議会第一回会合を開催し、炭化水素、原子力、省エネ・再エネの各分野についてワーキング・グループを設置した。2017年1月の第二回会合では、各分野の協力プロジェクトについて、その早期の具体化を目指して協力を進めていくことを確認した。その後、第三回会合を同年4月、第四回会合を同年9月、第五回会合を2018年2月に開催し、協力分野の具体化を進めている。
成果の例として、2017年9月の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とイルクーツク石油の間の東シベリアにおける共同探鉱プロジェクトの実施のための合弁事業設立に係る枠組み合意及び同年11月の対象鉱区における地質調査の開始、2018年1月の省エネルギーセンター及びカムチャッカエネルギーセンターの協力による、カムチャッカ地方における省エネルギー診断およびセミナーの実施、2018年2月のNEDO、ルスギドロ及びサハ共和国の協力による、サハ共和国における風力発電を含むエネルギーインフラ実証の開始等があげられる。これら事業により、我が国のエネルギー供給源多角化・安定供給確保、日本のエネルギー技術の導入及び両国間の経済関係強化につながることが期待される。
「(5)ロシアの産業多様化・生産性向上」については、2016年8月、貿易経済に関する日露政府間委員会のもとに産業分野における協力に関する分科会を設立した。同分科会での議論を踏まえ、①高い技術力や生産性管理技術を備えた日本の専門家によるロシア企業のIT化を含めた生産性診断及び改善指導、②ロシアの裾野産業に従事する役員・ラインマネージャークラスを日本に招聘し、生産工場の現場視察や日本の管理技術・設備、IT化に関する研修等を行った。これら事業により、日本の最先端設備をロシア企業に導入することを目指すとともに、ロシア企業の生産性向上により、ロシアに進出している日系企業のロシア企業からの部品等の調達条件が改善され、ひいては日系企業の市場シェア拡大につながることが期待される。
2017年11月に開催された産業分野における協力に関する分科会では、2018年度も同事業を継続することを確認し、新たな対象企業が選定された。