第5節 中東
〈今後の方針〉
中東地域は、我が国にとってエネルギーの安定供給に欠かせない地域である。石油依存度の高い中東諸国において課題となっている産業多角化や貿易・投資環境改善への支援を通じ、同地域との経済関係の強化・市場の拡大と、同地域の安定確保を目指す。
〈進捗状況〉
サウジアラビアについては、2016年9月にムハンマド現皇太子と安倍総理大臣が「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」の設立に合意し、「サウジ・ビジョン2030」と日本の「成長戦略」のシナジーを最大化する、具体的かつ広範な二国間協力を進めるための議論が開始された。同年10月には、「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」第1回閣僚級会合がリヤドで開催され、世耕経済産業大臣が出席した。2017年3月には、サウジアラビア国王として46年ぶりとなるサルマン国王訪日の機会を捉え、安倍総理大臣との首脳会談時に、新たな二国間協力の羅針盤となる「日・サウジ・ビジョン203025」が合意された。また、両首脳立ち会いの下で、世耕経済産業大臣及びファキーフ経済企画大臣他による「日・サウジ・ビジョン2030」に係る協力覚書への署名が行われるとともに、両大臣の出席を得て、「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」第2回閣僚級会合が開催され、同ビジョンの着実な実施に向けた討議が行われた。2017年4月以降、事務レベルの作業部会である「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」サブグループ会合を4回開催し、同ビジョンに盛り込まれた協力プロジェクトのモニタリングを行うとともに、協力機会の拡大に向け、検討を進めた。さらに、2018年1月、同ビジョンに基づく協力の一環として、日本側から世耕経済産業大臣、サウジアラビア側からアル=ファーレフ・エネルギー・産業・鉱物資源大臣、アル=カサビ商業投資大臣、アル=ルマイヤン公共投資基金事務局長他が出席し、リヤドで「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム」(主催:日本貿易振興機構(以下、JETRO)、中東協力センター(以下、JCCME)及びサウジアラビア総合投資院)が開催された。同フォーラムは、日本企業67社、サウジアラビア企業130社の出席を得て、世耕経済産業大臣ほか出席閣僚による「日・サウジ・ビジョン2030」の進捗報告、企業間協力に関する覚書の交換、ヘルスケア・エンターテインメント・製造業及びエネルギーの3つのテーマ別企業セッションが行われたほか、「日・サウジ・ビジョン2030」の協力プロジェクトの更なる推進及び拡大を実施する「日・サウジ・ビジョンオフィス」をリヤドに開設することが発表された。また、世耕経済産業大臣は、サウジアラビア政府内に新たに設置され二国間協力をとりまとめる「サウジアラビア戦略的パートナーシップセンター」の会長を兼務することとなったアル=ファーレフ・エネルギー・産業・鉱物資源大臣と会談し、引き続き「日・サウジ・ビジョン2030」に基づく協力を、モメンタムとスピードを一層高めて連携していくことで一致した。
イランについては、2017年8月、アラグチ外務次官が訪日し、世耕経済産業大臣と会談を実施した。会談ではイランにおける日本企業の取組や、両国政府におけるビジネス支援等について意見交換を実施した。また、9月には国連総会の場で安倍総理大臣がローハニ大統領と首脳会談を実施した。ローハニ大統領から、最近の日イラン関係の発展への歓迎並びに日本の投資促進に対する期待が示され、安倍総理大臣は両国の経済関係の拡大に向けて企業の活動を支援していく旨を述べた。10月には前年に続きJETROがテヘラン国際産業見本市にジャパン・パビリオンを出展し、15の日本企業がこれに参加した。
アラブ首長国連邦(以下、UAE)については、2017年4月、アブダッラー外務・国際協力大臣が訪日し、安倍総理大臣を表敬訪問したほか、世耕経済産業大臣と会談した。エネルギー分野に限らず二国間関係を強く発展させていくことを確認した。また、岸田外務大臣との外相会談においては、両国間の投資協定が大筋合意に至ったことが確認された。10月、世耕経済産業大臣がUAEを訪問し、アブダッラー外務・国際協力大臣ほかUAE政府要人と会談し、日本企業が保有する海上油田の権益更新を働きかけるとともに、経済関係を始めとした二国間関係の拡大に向けた意見交換を実施した。加えて、アブダビ国営石油会社(以下、ADNOC)及び独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構との間で石油・天然ガスの上中下流の戦略的ビジネス開発、技術協力、人材育成等を強化に関する協力覚書を締結したほか、日本の女性ビジネスリーダーを派遣し、両国間で初の女性リーダー交流セッションが行われた。12月、世耕経済産業大臣は、訪日したマイサ・アル・シャムシ国務大臣と会談し、女性ビジネスリーダーの交流を更に進めていくことで一致した。2018年1月、世耕経済産業大臣は、UAE政府が主催したワールド・フューチャー・エナジー・サミットに参加した際、ムハンマド・アブダビ皇太子等と会談し、日本企業が保有する海上油田の権益更新を働きかけた。2月には、ジャーベル国務大臣兼ADNOC・CEOが訪日し、安倍総理大臣を表敬訪問したほか、世耕経済産業大臣と会談した。エネルギー分野に限らず二国間関係を強く発展させていくことで一致した。同月、2018年3月に期限を迎える予定であった日本企業が保有する海上油田の権益が2058年まで40年間更新されることが決定した。3月には、経済産業省、UAE経済省及びJETROが共催で、日本企業によるUAEへの投資や両国企業間交流の促進を目指した「日・UAE経済フォーラム」を開催した。同フォーラム出席等のために訪日したマンスーリ経済大臣と世耕経済産業大臣が会談し、産業多角化や研究機関間の協力などについて意見交換を行った。
イスラエルについては、2017年5月に世耕経済産業大臣がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相を表敬訪問し、両国企業間の関係強化に向けて取組むことで一致したほか、コーヘン経済産業大臣と経済政策対話を行い、サイバーセキュリティ分野、産業R&D分野、BtoB連携の加速化等についての新たな取組に係る方針を、「日・イスラエル・イノベーション・パートナーシップ」として、共同声明に署名した。また、パレスチナも訪問し、ハムダッラー首相と会談し、両国の経済交流の活発化について意見交換を実施した。11月にはコーヘン・イスラエル経済産業大臣が来日し、世耕経済産業大臣との間で日イスラエル経済イノベーション政策対話を開催したほか、企業間の交流を加速させるための、両国政府機関、貿易振興機関、全ての主要経済団体を構成員とする新たなプラットフォームである、「日・イスラエルイノベーションネットワーク」を設立するなど、日・イスラエルビジネスの一層の推進に向けた取組を実施した。
トルコについては、2017年4月に日・トルコ間の貿易・投資促進のための事務レベル会合である、「日トルコ経済・貿易委員会」を開催したほか、6月にチャヴシュオール外務大臣が訪日し、世耕経済産業大臣と会談を実施した。世耕経済産業大臣は、中東最大の製造・輸出拠点である同国と戦略的パートナーとして関係を更に発展させたい旨、期待を表明した。また、9月の国連総会の場で、安倍総理大臣がエルドアン大統領と首脳会談を実施し、両国間の貿易・投資・観光等経済分野における二国間関係の強化について議論を実施した。2018年3月にはゼイベキチ経済大臣が訪日し、「日トルコ貿易投資閣僚級会合」を実施し、両国経済関係の更なる強化に向けた意見交換を行った。
カタールについては、2017年10月、LNG産消会議2017の開催に併せ、アル・サダ・エネルギー工業大臣が訪日し、世耕経済産業大臣とともに当該会議に出席した。また、その機会を捉えて、第11回日・カタール合同経済委員会を開催し、我が国へのLNGの安定供給を始めとする経済関係強化に向けた意見交換を実施した。本委員会に際して、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構とカタール電力水公社との間で、省水・高効率の海水淡水化実証事業に係る協力覚書が締結された。
安倍総理は2018年4月から5月にかけてアラブ首長国連邦、ヨルダン、パレスチナ及びイスラエルを訪問した。
アラブ首長国連邦では、安倍総理はムハンマド・アブダビ皇太子との会談を行った。会談において、双方は、エネルギー・経済に加え、政治、防衛、教育、農業、先端技術等の広範な分野で、両国の戦略的パートナーシップをさらに強固にしていくことで一致した。また、両国が共有する未来に向けて、「戦略的パートナーシップの深化及び強化に関する共同声明」を発出した。
ヨルダンでは、安倍総理はアブドッラー2世・イブン・アル・フセイン・ヨルダン・ハシェミット王国国王との首脳会談を行った。会談において、両首脳は、今般、二国間投資協定が実質合意に至ったことを歓迎し、これが、両国の経済関係が飛躍するきっかけとなることへの期待を表明した。
パレスチナでは、安倍総理はマフムード・アッバース・パレスチナ大統領と首脳会談を行った。
イスラエルでは、安倍総理はビンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相との首脳会談を行った。安倍総理から、2017年に「日・イスラエルイノベーションネットワーク(JIIN)」が設置されたことに触れ、若手起業家のイスラエル派遣、サイバー、イノベーション、バイオ等の先端分野のセミナーやマッチング等を推進予定である旨述べた。
25 「日・サウジ・ビジョン2030」の概要
- 新しい二国間協力の羅針盤として、脱石油依存と雇用創出のためサウジが追求する「サウジ・ビジョン2030」と、GDP600兆円の達成に向けて日本が追求する「成長戦略」のシナジーを目指す。
- シナジーを最大化させるため、「多様性」、「革新性」、「ソフトバリュー」の3本の柱からなる日本ならではの総合的な協力とする。
- 具体的連携の重点分野として9分野(競争力ある産業、エネルギー、エンターテイメント・メディア、健康・医療、質の高いインフラ、農業・食料、中小企業・能力開発、文化・スポーツ・教育、投資・ファイナンス)に渡る広範な協力分野を設定する。
- 9分野における協力を促進するため、規制の見直し、インセンティブ等のビジネス促進措置の分野でも連携する。
- 「貿易・投資機会」、「投資・ファイナンス」、「エネルギー・産業」、「中小企業・能力開発」、「文化・スポーツ・教育」、「ビジネス促進措置・横断的課題」の6つのサブグループを設置する。
- サウジアラビアの経済改革のモデルを示す特区(Enabler Showcase Zone)の設立に向けた検討を進める。また、東京とリヤドに、ビジョンの実施を継続的にフォローする拠点として、「日・サウジ・ビジョンオフィス」を設置する。