経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況

5.我が国製造業の主要課題②:「付加価値の創出・最大化」

(2)データ資源の活用による付加価値創出に向けた我が国製造業の取組状況

21世紀の経済発展に不可欠なグローバル“資源”となった「データ」。経済のデジタル化が進む中で、とりわけBtoCの世界における消費者関連のデータは、消費者の嗜好分析やマクロ予測まで経済活動の基礎となる宝の山と考えられ、2000年代後半くらいから、大きな消費市場と巨大なネット企業を抱える米国や中国を中心にデータ資源を巡る国際的な競争が激化。競争力を左右する「質」と「量」を求めて、官民一体となって様々な対策を講じてきた。

一方、資源となるデータは、最終製品メーカーが消費者にモノを販売して得られるような消費者データだけではなく、ものづくりのサプライチェーン及び企業内の製造現場などのエンジニアリングチェーン内の各所にもインダストリアル・データという形で豊富に存在する。例えば、研究開発時の研究データ、設計時の設計図面データ、製造現場における設備稼働データ、作業者データ、生産品質データ、検査データ、環境データ、エネルギーデータなど、受発注時の購買・調達データ、製品販売時の販売データ、販売後の故障・不具合データなどが挙げられる。

とりわけ、設備の稼働状況、製品の品質情報や作業者の挙動といった製造現場系のデータについて、従来は機械的な収集が容易ではなく人間が一定ロットや工程単位で人海戦術による収集を実施していたが、センサーやチップといったデバイスや画像認識技術などの進化に伴って、個体ごと・個別機械ごとの収集が容易となった点に特徴がある。このように、ものづくり企業の足下や周囲には“宝の山”とも言えるリアルデータが潜在的に存在しており、技術の進化によってこれらのデータを収集・活用することができるようになりつつある中で、身近にあるデータ資源の存在とその重要性に真っ先に気付き、サービス化・ソリューション化などのビジネスモデルの変革に利用することができるかが今後の企業戦略上の鍵を握ると考えられる。

①経営層主導によるデータ利活用の重要性

データの利活用が鍵を握る中で、実効性を高めていくためには、企業においてどの層や部門が主導していくべきかが重要となってくる。その点では、省人化や合理化などの現場起点の取組には現場主導であることが有効であると考えられるが、ビジネスモデル変革を通じた付加価値創出などの経営課題を解決するためには、経営層によるトップダウンでの迅速な判断と強力な推進力が重要となり、ビジネスモデル変革のツールとなるデータの利活用に関しては、経営者や経営戦略部門主導で行うことが有効であると考えられる。

経済産業省が2017年12月に実施したアンケート調査によると、データの収集・利活用にかかる戦略・計画を主導する部門に関して、「経営者、経営戦略部門」が55.1%と過半数を超える一方で、「製造部門」が22.3%、「情報システムを統括する部門」が9.6%となっている。2016年調査と比較すると、「経営者、経営戦略部門」が大幅に増加(29.6%→55.1%)する一方、「製造部門」が大幅に減少(44.8%→22.3%)しており、データ利活用が現場マターから経営マターに変化してきており、経営戦略上のデータ利活用の重要性への認識が急速に高まっていることが伺える(図115-10)。

図115-10 データの収集・利活用にかかる戦略・計画を主導する部門

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

規模別でみると、大企業・中小企業ともに経営者・経営戦略部門が主導する割合が大幅に増えている一方で、大企業の方が未だに「製造部門」などの現場が主導している割合が高く、経営層が主導する形でのデータ収集・利活用が一層求められている(図115-11)。

図115-11 データの収集・利活用にかかる戦略・計画を主導する部門(規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

②生産プロセスなどにおけるデータの収集・利活用の進捗と課題

データの収集・利活用にかかる戦略や計画策定が経営マターに移行してきたことは、データを活用したビジネスモデル革新やそれによる付加価値獲得を経営層が我が事として捉え始めたという意識変化の証左であるといえる。一方で、ビジネスモデル革新やそれによる付加価値獲得につなげるためには、実際にデータ収集・利活用を実行へと移すことが不可欠である。

昨年末のアンケート調査によると、設備の稼働状況などの生産プロセスにおけるデータ収集を行っている企業の割合は、昨年調査と比べほぼ横ばい(66.6%→67.6%)となっている(図115-12)。

図115-12 生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか(昨年度比較)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、「見える化」やプロセス改善、トレーサビリティ管理などの具体的な用途に活用している企業の割合も昨年末調査と比べてほぼ横ばいになっており、経営マターになったことによる実際のデータの利活用状況に本格的な変化は起きていないことが見て取れる(図115-13)。

図115-13 収集データの「見える化」やトレーサビリティ管理などの
生産プロセスの改善・向上などへの活用度合い(昨年度比較)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

引き続き、生産性向上やビジネスモデル変革のためのデータ利活用が課題となっており、データ戦略が経営マターとなったことにとどまらず、経営層主導の実効性を持った具体的なアクションが期待される。

次に、データ戦略が経営マターになる中で、利活用フェーズに移行していくためには、経営層が問題意識を持つだけではなく、組織としてデータを使いこなす仕組みを構築していくことが重要となる。

まず、「経営」の問題として、経営課題などから導き出されるデータの活用目的を明確に定めることが必要となってくる。活用目的が決まっていないと、どのデータをどう取得すればいいかが決まらないため、経営層が主導する形で最優先に行うべきことである。次に、利用目的や方針に基づいてデータを現場などから取得するための体制作りが必要となる。データを取得する目的、メリットやそれを通じて解決したい経営課題が経営層から現場までの共通理解とならないことには、日々稼働させることで忙しい現場から実際にデータが上がってくることを望むことは難しい。そのような共通認識を経営層が作り出すことが求められる。次に、現場から上がってくるデータの「質の高さ」が担保されている必要がある。そのためには、データサイエンティスト部門の設置など、経営と現場の間に入り現場からのデータを経営戦略的視点で取捨選択・分析することができる人材が不可欠となってくる。

このように、データを使いこなせる組織を作り上げるためには、「経営層による利用目的の明確化」及び「共通認識醸成」、経営戦略的視点を持ってデータ利活用を実行に移せる「人材の確保」などが必須条件となってくると考えられる。

しかし、この点、昨年末のアンケート調査において、生産プロセスの改善・向上などに向けて収集したデータの利活用に至っていない理由を聞いたところ、「知見を持った人材を確保できないため」が50.7%と最も多く、データサイエンティストなど、専門的な知識を持った「人材」が社内にいないことがネックとなっていることが見て取れる(図115-14)。

図115-14 収集したデータの活用に至っていない理由

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また東京商工会議所が昨年23区内の製造業企業向けに実施したアンケート調査において、デジタルツールを導入する上で直面した課題を尋ねたところ、「ソフトウェア技術者の不足」が圧倒的に多く、いかにデータの活用方法やデジタルツールの利用方法を理解できる人材を確保するかが、今後の付加価値獲得にも大きく影響を及ぼすことが予想される(図115-15)。

図115-15 デジタルツールを導入する上で直面した課題

資料:東京商工会議所「ものづくり企業の現状・課題に関する調査」(2017年8月~9月にかけて23区内の製造業10,000社に対して実施。有効回答:1,670社)

なお、昨年末のアンケート調査において、収集しているデータの利用目的を聞いたところ、複数回答・最重要項目のいずれでみても「製造工程全般の効率化」、「品質の向上」、「生産計画の精度向上」の順であった(図115-16)。

図115-16 データ収集の目的

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、業種別の収集しているデータの利用目的をみると、化学工業では「コストダウン」、鉄鋼業では「トレーサビリティの実施」を重視する傾向が強い(図115-17)。

図115-17 データ収集の最重要目的(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

さらに、主力製品分類別でみると、「原材料・素材」や「賃加工」では、「品質の向上」「トレーサビリティの実施」の割合が相対的に高く、素材系企業において品質に対する意識が高いことが伺える(図115-18)。

図115-18 データ収集の最重要目的(主力製品別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

さらに、データ収集の目的に応じて具体的に収集しているデータを聞いたところ、全般的に「生産品質データ」が重視される傾向(すべての目的で第2位以内)で、特に「生産計画の精度向上」ではその傾向が強い。その他では、「設備稼働データ」や「作業者データ」などが主に収集されている(図115-19)。

図115-19 具体的に収集しているデータ(収集目的別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

③クラスター分析によるIoTなどの活用動向について

ここまで、主に製造現場におけるデータ収集・利活用の現状を分析してきたが、以下では、昨年末に行ったアンケートにおけるIoTなどの技術の生産プロセス全般における活用状況に関する回答結果をもとに類型化分析を実施し、IoTの活用度合いとその他の取組の相関関係を分析することとする。

同アンケートでは、以下のような、生産プロセス内のIoTなどの活用場面ごと((図115-20の右側)の活用状況について、「①(センサーやITを活用して)実施している」「②(同)実施する計画がある」「③(同)可能であれば実施したい」「④(センサーやIT以外の)別の手段で足りている」「⑤実施予定なし」の5段階評価で尋ね、「①実施している」と回答した場合には3点、「②実施する計画がある」を2点、「③可能であれば実施したい」を1点、「④別の手段で足りている」もしくは「⑤実施予定なし」を0点として得点化を行った上で分析を行った。

なお、分析にあたっては、下表の左側のような8つのカテゴリに集約しており、複数の設問項目が含まれるカテゴリについてはそれらの平均値を採用している。

図115-20 分析に用いた指標

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

分析の結果、図115-21のような4つのクラスターに分類することができた。図115-22に示すとおり、分析に用いた8つの指標の平均得点をクラスター別に比較すると、IoTなどの技術の活用に対して最も積極的なのがクラスターAであり、以下、B、C、Dと進むにつれ、IoTの活用度が低くなっていく。

図115-21 4つのクラスターの特徴

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-22 各指標の各クラスターの平均得点比較

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

各クラスターにおける従業員規模別・企業規模別の構成をみると(図115-23・24)、クラスターDからAに向かってIoT活用度が高くなるほど、規模の大きい企業の比率が高まっており、また、業種別では、機械産業(一般機械、電気機械、輸送用機械)の比率が高まる傾向がみられる(図115-25)。

図115-23 各クラスターにおける従業員規模別構成比率

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-24 各クラスターにおける企業規模別構成比率

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-25 各クラスターにおける業種別構成比率

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

(ア) 今後の業績見通し(営業利益)との関係

図115-26は、IoTの利活用度合いと今後3年間の業績見通し(国内外の営業利益)の関係性を示したものであるが、クラスターDからAに向かうほど、今後の営業利益の見通しについて「増加」「やや増加」と回答する企業の割合が高く、IoT活用に積極的なグループほど、今後の業績は明るい見通しを持っている傾向にある。

図115-26 今後3年間の国内営業利益見通しとの関係/ 今後3年間の海外営業利益見通しとの関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

(イ) 事業展開の積極性などとの関係

また、IoTの利活用度合いと事業展開の積極性の関係をみると、IoT利活用に積極的なグループほど、異業種への進出や既存事業の拡大に意欲的である。また、IoTの利活用度合いと変化に対する備えの度合いとの関係をみると、IoT利活用に積極的なグループほど、ビジネス環境を取り巻く大きな変化に対応した備えを推進している傾向にある。IoTなどのデジタル技術活用への挑戦度合いと事業展開などへの積極性には一定の相関関係があることが分かる(図115-27)。

図115-27 IoT活用度合いと事業展開の積極性との関係/IoT活用度合いと変化に対する備えの度合との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

(ウ) サイバーセキュリティ対策などとの関係

次に、IoTの利活用度合いとサイバーセキュリティ対策などとの関係を概括する。IoTの利活用度合いとサイバーセキュリティ上の問題に対する不安の度合い及びサイバーセキュリティ上の問題で不安を感じない理由との関係をみると、IoT利活用に積極的なグループほど、サイバーセキュリティ上の問題に対する不安を感じている一方で、不安を感じない理由としては十分な対策を行っているという回答が多い傾向がある(図115-28)。

図115-28 IoTの活用度合いとサイバーセキュリティ上の問題に対する不安との関係/
IoTの活用度合いとサイバーセキュリティ上の問題で不安を感じない理由との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、IoTの活用度合いとサイバーセキュリティ対策の内容との関係をみると、IoT利活用に積極的なグループほど、「現在」と「今後」のいずれにおいてもすべての対策項目においてサイバーセキュリティ対策に積極的である(図115-29・30)。IoTの利活用とサイバーセキュリティ対策は切っても切れない関係にあると考えられる。

図115-29 IoTの活用度合いとサイバーセキュリティ対策の内容(現在)との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-30 IoTの活用度合いとサイバーセキュリティ対策の内容(今後)との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

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