経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況

5.我が国製造業の主要課題②:「付加価値の創出・最大化」

(3)ビジネス環境の変化認識から見た、我が国製造業の進むべき方向性

(1)において述べたとおり、経済のデジタル化やサービス化を中心とした我が国製造業を取り巻くビジネス環境が刻々と変化している中では、まずそのような大きな変化を十分に認識することが重要となってくる。さらに、現状のビジネス領域などに満足することなく、ビジネスモデルやビジネス領域の転換などの意欲的な動きを通して、変化に対して備えていくことが我が国製造業においても求められている。

①現在の事業領域やポジションに対する満足度

そこで、我が国製造業の足下の危機感に関して昨年末に行ったアンケート調査の中で意識調査をしたところ、現在の事業領域やポジションに満足しているかどうかに関して、1/3の企業が現在の事業領域やポジションに満足している一方で、2/3の企業は現状に満足していないという結果となった。満足していない企業の割合が満足している企業の割合を大きく上回り、「現状を打破しないといけない」という危機感を持っている企業が多い一方で、1/3の企業は現在の状況に満足している。また、満足している傾向は中小企業の方が強い(図115-31)。

図115-31 現在の事業領域やポジションに対する満足度(規模別含む)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

次に、今後の事業展開の方向性を尋ねたところ、複数回答&最も重視項目のいずれについても、異なる事業領域への進出や既存領域の事業拡大よりも、「現在の事業領域の延長で、事業を拡大していきたい」企業の割合が突出しており、既存事業領域での拡大志向が強い。規模別では、大企業ほど「現在の事業領域の延長で、事業を拡大していきたい」と考える割合が高まるのに対し、中小企業の方が「現在の事業領域で、現事業を着実に継続していきたい」の割合が高く、安定志向が強い傾向にある(図115-32)。

図115-32 今後の事業展開の方向性(規模別含む)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

なお、現状に満足していない企業ほど、デジタル人材を必要としている傾向があり、デジタル化時代への対応に向けて人材確保面での意識の高さがうかがえる(図115-33)。

図115-33 現在の事業領域やポジションに対する満足度とデジタル人材の必要性との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

②ビジネス環境の変化への認識

続いて、経済のデジタル化やサービス化などが進展する中で、今後5年程度を視野に入れた場合にビジネスを取り巻く環境は大きく変化するかどうかについて尋ねたところ、半数超の企業が今後「大きな変化(大規模な変化、これまでよりは大きな変化)が見込まれる」と回答(図115-34)。

図115-34 ビジネス環境の変化への認識

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

業種別にみると、「大きな変化が見込まれる」割合は輸送用機械で高く、自動車関連業界におけるビジネス環境の変化が他の産業に比べて大きいと見込まれている(図115-35)。

図115-35 ビジネス環境の変化への認識(業種別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

なお、ビジネス環境の変化への認識と事業領域・ポジションの満足度との関係をみると、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、現在の事業領域やポジションの満足度は低い傾向にある(図115-36)。

図115-36 ビジネス環境の変化への認識と事業領域・ポジションの満足度との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、異業種への進出や既存事業の拡大など、事業拡大に積極的な傾向がある。ビジネス環境の大きな変化に危機感を抱いている企業ほど、現状に満足せず、新たな事業領域に出ていく野心を有していることが見て取れる(図115-37)。

図115-37 ビジネス環境の変化への認識と今後の事業展開の方向性との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

③ビジネス環境の変化への認識度合いと業績、投資や人材確保ニーズなどとの関係

ここまで、我が国製造業が抱く現状のビジネスやビジネスを取り巻く変化への危機感の現状を概括してきたが、そのような危機感の有無が業績、投資や人材確保ニーズなどとどのような関係があるのかに関して以下で分析を行う。

ビジネス環境の変化への認識度合いと足下の業績(営業利益)、今後3年間の国内営業利益見通しや今後3年間の海外営業利益見通しとの関係をみると、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、足下の業績(営業利益)が増加傾向であるのに加え、今後3年間の国内外の営業利益の見通しも明るい傾向にあり、業績などとの間で正の相関関係がみられる(図115-38・39・40)。

図115-38 ビジネス環境の変化への認識度合いと足下の業績(営業利益)の関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-39 ビジネス環境の変化への認識度合いと今後3年間の国内営業利益見通しとの関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-40 ビジネス環境の変化への認識度合いと今後3年間の海外営業利益見通しとの関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、ビジネス環境の変化への認識度合いと今後の投資の見通し(国内設備投資・国内研究開発投資・IT投資)との関係をみると、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、国内設備投資・研究開発投資・IT投資に積極的な傾向がある(図115-41・42・43)。

図115-41 ビジネス環境の変化への認識度合いと国内設備投資との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-42 ビジネス環境の変化への認識度合いと国内研究開発投資との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-43 ビジネス環境の変化への認識度合いとIT投資との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

さらに、ビジネス環境の変化への認識度合いと人材確保の状況、デジタル人材確保の必要性、データ利活用を主導する部門との関係をみると、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、人材確保に課題を感じる割合も高く、特にデジタル人材確保ニーズに大きな差がある(図115-44・45)。

図115-44 ビジネス環境の変化への認識度合いと人材確保の状況との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-45 ビジネス環境の変化への認識度合いとデジタル人材の必要性との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

また、データ利活用も経営サイドで進める傾向となっている(図115-46)。環境変化を感じる企業ほど、投資意欲も高く、新たな人材ニーズも高いことから、総じて積極的な経営姿勢であるといえる。

図115-46 ビジネス環境の変化への認識度合いとデータ利活用を主導する部門との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

ビジネス環境の変化への認識度合いは、人材確保対策に向けた取組との関係においても興味深い傾向を示している。両者の関係性をみてみると、ビジネスを取り巻く変化が大きいと感じている企業ほど、現在は「人材育成方法の見直し・充実化の取組」や女性や国籍にこだわらない採用などに熱心な一方、「社内のシニア・ベテラン人材の継続確保」への取組比率は相対的に低い(図115-47)。

図115-47 ビジネス環境の変化の度合いと人材確保対策に向けた取組(現在)との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

一方、今後は、人材育成方法の見直し・充実化に加えて、「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」やIT・IoT・AIなどの活用による合理化に取り組みたいと考えている傾向にある(図115-48)。

図115-48 ビジネス環境の変化の度合いと人材確保対策に向けた取組(今後)との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

④ビジネス変化に対しての備えの重要性

経済のデジタル化やサービス化などによってビジネス環境が大きく変化する中で、その変化を敏感に感知し危機感を抱くだけではなく、実際に変化に順応していけるよう備えていくことが重要となる。従来のビジネスモデルの在り方や既存のサプライチェーンなどが大幅に変化しつつあるこの時代において、現状業績が好調な企業においても、現状に安住することなく、変化に対する対応策を講じていくことが求められている。

昨年末のアンケート調査において、これまで以上の変化が見込まれると考えている企業に対し、変化に対する備えの対応状況を尋ねたところ、「備えるべく、現在取組を進めている」(58.0%)と「検討を開始したところ」(25.8%)が大半を占め、「備えは出来ていると考える」企業はわずか2.2%にとどまる。規模別にみると、大企業ほど備えるべく、取組を進めている(図115-49)

図115-49 変化に対しての備えの度合い(規模別含む)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

なお、ビジネス環境を取り巻く大きな変化に対応した備えができている企業(備えが出来ている、または備えるべく現在取組を進めている企業)ほど、今後の業績見通しが明るい見通しを示す傾向が強い(図115-50)。

図115-50 変化に対する備えと今後の見通し(国内売上高・国内営業利益)動向との関係

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

さらに、事業拡大を図っていく上で関係強化を図りたい相手先について尋ねたところ、現在は「国内の既存事業の既存取引先」が最も多いが、現在から今後の変化に着目すると、今後は、従来の取引関係にこだわらず、国内の既存事業における新たな取引先の開拓や新規事業展開といった「新規性」を重視する傾向がみられる(図115-51)。また、現在関係強化に取り組んでいる相手先を規模別にみると、大企業・中小企業を問わず、「国内の既存事業の既存取引先」が最も多い一方で、中小企業は「国内の既存事業の新規取引先」など国内での関係強化を志向する傾向であるのに対して、大企業は「海外の既存事業の既存取引先」「海外の既存事業の新規取引先」との関係強化を望む企業が多く、海外での販路開拓が重視される傾向にある(図115-52)。

図115-51 事業拡大を図っていく上で関係強化を図りたい相手先(現在と今後)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

図115-52 事業拡大を図っていく上で関係強化を図りたい相手先(現在、規模別)

資料:経済産業省調べ(2017年12月)

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