経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況

6.国内外における製造業のデジタル化に向けた取組

(1)我が国政府の取組 ~Connected Industriesの実現に向けて~

2017年3月にドイツにおいて開かれた国際情報通信技術の見本市であるCeBITにおいて、第四次産業革命による技術の革新を踏まえて、将来的に目指すべき未来社会である「Society5.0」を実現していくため、データを介して、機械、技術、人など様々なものがつながることにより新たな付加価値の創出と社会課題の解決を目指す “Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)”を将来の産業のコンセプトとして打ち出し、その実現に向けて、取組を進めてきた。以下では、Connected Industries の実現に向けた取組の進捗を概観する(図116-1・2)。

図116-1 Connected Industriesとは

資料:経済産業省作成

図116-2  Society 5.0につながるConnected Industries

資料:経済産業省作成

①「Connected Industries」大臣懇談会

「Connected Industries」の実現に向けては、2017年5月から産業界の代表や有識者の方々と経済産業大臣が懇談会を行い、官民の両方が取り組むべき方向性を集中的に議論してきた。「データ利活用等における競争領域と協調領域の特定」、「ビジネスモデル変革の必要性」などの論点について活発な議論が行われ、「Connected Industries」の実現に向けた議論を深化させていくこととなった。

②「東京イニシアティブ2017」

これまでの懇談会の議論を踏まえて、2017年10月に行われたCEATEC JAPAN 2017の場において、世耕経済産業大臣より、官民一体となった「Connected Industries」の今後の方向性を定めた「東京イニシアティブ2017」を発表した。以下では、東京イニシアティブ2017を概観する。

まず、同イニシアティブでは、市場成長性、我が国産業が有する強み、社会的意義の大きさなどを考慮して定めた重点5分野である、「自動走行・モビリティサービス」、「ものづくり・ロボティクス」、「バイオ・素材」、「プラント・インフラ保安」、「スマートライフ」に関する分科会を設置して取組の加速化と政策資源の集中投入を図るとともに、それぞれの分野ごとの個別論点や課題、取組の方向性を打ち出している(図116-3)。

図116-3  「Connected Industries」5つの重点取組分野

資料:経済産業省作成

また、リアルデータを巡るグローバルな競争の中での我が国の勝ち筋を実現していくために、こうした重点取組分野における官民の連携とともに、データ利活用の促進や人材育成、地方・中小企業への展開、国際展開・連携などの横断的課題の対応も重要である(図116-4)。

図116-4 「Connected Industries」の横断的な政策

資料:経済産業省作成

以下では、各重点分野の取組の進捗や横断的分野の支援措置の状況を概観する。

③各重点分野における取組の進捗

(ア)「自動走行・モビリティサービス」

<自動走行>

自動走行の実現に向けた取組を進めることによって、「交通事故の削減」「渋滞の緩和」「環境負荷の低減」などの社会的課題解決や、「運転の快適性向上」「高齢者等の移動支援」などのユーザーニーズの最適化などを実現し、ひいては自動走行に関する自動車関連産業の国際競争力を確保していく必要がある。

現状では、国内外の事業者が無人自動走行による移動サービスを2020年頃に実現をすることを目指す動きがあり、自動車メーカーだけではなく、IT企業など他分野企業も参入し、しのぎを削っている。そのような状況下において、我が国自動車メーカーにとっても、部品供給やソフトウェア開発などに活発な動きを見せる欧米勢の自動車メーカーやサービス開発・提供に参入する非伝統的な分野からの新規参入組との競争が激化しており、決して楽観できない状況にある。

このような現状を打破して産業競争力を強化するとともに社会的課題解決にも貢献していくべく、現状の課題を分析して必要な取組を検討するため、2015年2月以降、経済産業省と国土交通省とで開催している「自動走行ビジネス検討会」の場などを活用して、実証実験で得られる高精度地図データの共有や走行映像データの利活用、遠隔監視時の人や車が混在する複雑な環境下での認識や効率運行に対する機械学習などのAI活用の在り方、自動運転技術開発に必要な人材育成などに関して新たな検討を進めた。

<モビリティサービス>

海外の状況をベンチマークしつつ、コネクテッドカーやシェアードサービスといったトータルモビリティサービスの提供の在り方についても検討を進めた(図116-5)。

図116-5 MaaS(Mobility as a Service)の広がり

資料:経済産業省作成

(イ)「ものづくり・ロボティクス」

デジタル革新や人手不足が進む中で、先進欧米企業などへ対抗していく観点からも、我が国の強みを生かした価値創出(現場に近いところで処理を行うエッジ側の強みを活かしたソリューションの提供など)が必要となってくる。個社における取組の深化とともに、ものづくり業界全体でのデジタル化に向けた取組を進めるべく、2015年にロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)が設立され、2016年から開始した日独連携などを積極的に活用して、国際標準化・産業セキュリティ・中小企業支援・人材育成などの横断的課題への対応を政府とともに進めてきた。

具体的には、国際標準化については、データの記述ルール作成及びその国際提案活動の実施、産業セキュリティについては、製造業向けのサイバーセキュリティガイドライン作成の検討、中小企業支援については、デジタル技術やロボットが積極導入されるための支援、人材育成については、ものづくりとITの双方が分かる人材育成のためのカリキュラム開発支援などに関して、検討及び政策を推進しているところである。

そうした中、我が国の現場の良質なリアルデータの強みを活かすべく、データ協調を図るための仕組みなどを中心に検討を進めた。

(ウ)「バイオ・素材」

近年、ゲノム解読などのコストの低減・短時間化が進み、すべての生物情報を安価にデジタル化することが可能となった。加えて、ディープラーニングなどのAI技術の発展により、生物機能を最大限に活用するためのゲノム解析・編集技術が登場している。このような技術革新により、バイオ分野は、医療・ヘルスケア産業のみならず、ものづくり産業や食品産業など幅広い産業と融合し、イノベーションによる新たな産業や市場(バイオエコノミー)を生み出す鍵として期待されており、米国ではIT企業を中心として多額の研究開発資金を投入している。このような動きを踏まえ、我が国でも企業や関係機関などが保有する生物資源を戦略的に蓄積・データ化し、利活用を進めるなど、欧米企業などへの対抗策を構築していくことが重要である。また、素材分野では、デジタル革命により経営環境が大きく変化し、顧客や市場ニーズのさらなる多様化・短期化、日本が強みを有する素材開発もサービス産業化する懸念が生じている。

このような取組の促進に向けて、データ協調、国際標準、人材育成などの分野横断的に行っていくべきものについて議論を開始した。例えば、バイオ分野では、生物資源の統合データベースの構築、生物機能設計や機能性素材創出の実現、生産スケールアップの実現、世界的に不足しているバイオインフォ人材育成などについて検討を進めた。また、素材分野では、①新事業領域の創出(製品・未活用技術データの共有プラットフォームの構築など)、②素材開発力強化(データフォーマット整備や構造化のためのAIツール開発など)、③次世代生産システム転換、④ケミカル×デジタル人材の育成・確保、の各論点について検討結果をとりまとめた。

(エ)「プラント・インフラ保安」

石油精製、石油化学業界では、プラントの老朽化や保守・安全管理の実務を担ってきたベテラン従業員の引退が進むなど、今後、重大事故リスクが増大するおそれがある構造的な課題を抱えている。そのため、IoT、ビッグデータなどを効果的かつ効率的に活用することで、重大事故のリスクを回避するとともに現場の自主保安力を高め、更には企業の「稼ぐ力」の向上にもつなげる取組を進めることが重要である。

このような取組を進めるため、プラント・インフラ保安分野に特化したデータ契約ガイドラインやIoTセキュリティ対応マニュアルの作成、センサー・ビッグデータなどを活用した高度な保安技術の実証を実施するとともに、現場におけるIoTなどの活用人材の育成や高度な保安技術を活用したメンテナンスサービスなどの海外展開などについて検討を進めた。

(オ)「スマートライフ」

生産労働人口の減少が進む中で、家事などの負担を軽減することで、働き手を創出していくこと求められている。また、高齢化の進展に伴い、介護の負担軽減などのニーズも顕在化している。 こうしたニーズに対し、生活環境にある機器などを通じて収集できる個人の生活データを活用することで、新しいサービスを提供していくことが期待されている。

そこで、セキュリティ・製品安全に関するリスクベースアプローチや、プライバシーデータの取扱いなど個人の生活データの連携を促進する環境の整備に向けた論点に関して検討を進めた。

④横断的分野の支援措置などの進捗

Connected Industriesの実現に向けては、データを介してあらゆるものがつながることが重要であり、他者と共有可能な協調データと秘匿しておくべき競争データとをすみ分けて、協調データを共有・相互利活用することで、付加価値を獲得していくことがものづくり企業には求められている。しかし、協調データを円滑に共有・利活用する取組を促進していくためには、共有することによるメリットをデータ提供者にも与えるなど、政策的にも後押しをすることが不可欠である。また、付加価値につながるようなデータの利活用をセキュアかつ円滑に実施することも重要であり、そのためには担い手となる人材や組織として対応が可能な体制が不可欠である。このように、データの共有や利活用の取組を後押しし、利活用基盤整備を行うための取組の進捗を以下概観する。

(ア) データ契約ガイドラインの改訂

データの利用権限が明確となっていないが故に事業者間でのデータ流通が進まないという課題を解決すべく、経済産業省では、事業者間の取引に関連して創出、取得又は収集されるデータの利用権限を契約で適正かつ公平に定めるための手法や考え方を整理した「データの利用権限に関する契約ガイドラインver1.0」を作成し、2017年5月に公表した。

その後、同ガイドラインに対する産業界からの意見も踏まえ、データの利用に関する契約類型の整理・深掘りやユースケースの充実などを図るとともに、新たにAI開発や利用に係る権利関係・責任関係などの考え方を整理し、さらには関連する知的財産制度や国際的なデータ流通制度も調査の上、同ガイドラインの抜本改訂を実施することとした。そこで、「AI・データ契約ガイドライン検討会」(座長:渡部俊也東大教授)を開催するとともに、その下に設置した「AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会」においてユースケースの検討と改訂作業を進めた。

(イ) データ共有促進の支援(データ共有補助金、データ認定制度(提供制度、IoT税制))

上述のとおり、リアルデータの活用は、自前主義への固執や過剰な囲い込みなどによって、なかなか日本においては進んでこなかった。そこで、経済産業省は、これらの障壁を打破し、社会課題解決に向けた利活用を促進するため、協調領域におけるデータ共有を行う民間事業者の取組を主務大臣が認定し支援する仕組みを構築した(図116-7)。具体的には、生産性向上特別措置法において、一定のサイバーセキュリティ対策が講じられたデータ連携・利活用により、生産性を向上させる取組について、それに必要となるシステムや、センサー・ロボットなどの導入に対して税制措置を講じる。さらに今回設ける制度では、一定基準を満たす特定の認定事業者については、国や独立行政法人などが保有するデータの提供を求めることができる措置を講じる。また、本認定制度に合わせ、事業者などが保有するデータのさらなる活用(共有・共用)のため、その基盤となるシステムの構築や実証運用、システム構築に向けたデータ標準・互換性、API連携などの検証調査を、幅広く支援している。

図116-7 産業データ活用計画の認定スキーム(案)

資料:経済産業省作成

(ウ) リアルデータをもつ大手・中堅企業とAIベンチャー連携によるAIシステム開発

第四次産業革命下のグローバルビジネスで勝つには、先端的なAI技術を有するベンチャーと、現場のリアルデータを保有する大手・中堅企業とのデータ連携が重要である。しかし、AIベンチャーと大手・中堅企業との共同事業は「具体的なテーマが絞り込めない」「技術力やビジネスモデルの評価ができない」「過度な作り込みで、労働集約化・下請け化する」「検討に時間がかかりすぎる」などの課題がある。

そこで、経済産業省では、日本が強みを持つエッジ側でのデータ処理及びその活用を促進しつつ、AIベンチャーの潜在力を発揮した形でのグローバル展開を見据えたAIシステム開発および横展開を加速するための支援事業を開始している(図116-8)。

図116-8 AIシステム開発支援の概要

資料:経済産業省作成

(エ)Connected Industries推進に向けた国際連携の更なる加速

IoT推進コンソーシアムにおいて、我が国の優れた技術やICTインフラの海外展開について、産官学を挙げた重点的な支援を検討するため、2017年10月、国際連携ワーキンググループを設置するとともに、重点分野についてはサブワーキンググループを設置して検討するなど、取り組んでいる。

(オ)Connected Industries推進に向けた国際標準化戦略の強化

世界市場では、欧州を中心とした他国が、製品やインフラなどが優れているだけでは市場は拡大できず、国際標準を市場獲得のツールとして戦略的に活用してきている中で、第四次産業革命を始めとしたグローバルな環境変化も相俟って、我が国の標準化活動の活動領域や方法、制度設計は大きな転換期を迎えている。ICTなど技術の進展の早い分野では、米国市場における有力企業やコンソーシアム主導でデファクト/コンソーシアム標準が決定しており、その中に入り込まなければ先行者メリットが無い状態が形成されている。一方、安全性などの技術規格は、ISO、IECなどの国際標準化機関におけるデジュール標準として一国一票で決まることが多く、欧州の得意分野となっており、いずれにしても、オールジャパンを超えた欧米アジアとの仲間作りを遂行していくとともにそのための官民を挙げた戦略、国際標準化を担う人材の質的・量的拡充が不可欠となっている。このようなグローバルなフォーラムやコンソーシアムへの早期参加などルール・インテリジェンスを強化する企業の動きへの支援や、研修制度・大学講義などによる標準化人材の裾野拡大や国際機関の要職で活躍できるプロフェッショナル人材の育成(ヤンプロなど)、そのような人材の世代を越えたネットワーク化などの施策の強化などを通じた国際標準化人材の拡充への支援などに取り組んでいる(図116-9)。

図116-9 ヤングプロフェッショナル(ヤンプロ)研修の概要

資料:経済産業省作成

(カ)Connected Industries実現の鍵を握るベンチャー企業創出・連携などの促進

大企業や大学などに眠る資源を解き放ち富につなげる原動力であり、資金・人材・技術などの経営資源をつなげて付加価値を生み出すベンチャー企業は、”Connected Industries”を実施する上で重要かつ不可欠な存在である。2017年12月8日に閣議決定した経済対策パッケージにおいて、「今年度中にStartup Japan(仮称)を開始し、①グローバルに勝てるベンチャー企業を選定して集中支援を行うとともに、②量産化に向けた設計・試作の試行錯誤ができる場の提供や、③海外展開支援を行う。また、④海外ベンチャーの国内への呼び込みを強化する。」との方針が示されたところであり、我が国でグローバルなベンチャーが成長するためのエコシステム作りを更に強化していく。

(キ)ネット×リアルのハイブリッド人材、AI人材などの育成強化

あらゆる政策の根幹には“人材”が不可欠である。実際にConnected Industriesの実現に向けて、データを媒体にあらゆるものがつながり、デジタル技術を活用して付加価値を創出していくためには、データが眠る現場を理解して質の高いデータを見極め、IoTやAIなどのデジタル技術を活用してそのデータから価値を見出すことが必要であり、現場サイドの知識(OT=Operation Technology)とデジタルの知識(IT=Information Technology)双方が不可欠である。ITとOT双方に精通した人材、つまりAIやビッグデータなどの技術をリアルな現場を有する産業分野で活用していくことができる人材の育成が特に急がれている。

このような人材を育成していくためには、OTを理解している人材、もしくはITを理解している人材に対して、それぞれリカレント教育を図っていくことが効率的である。とりわけ、現場が強いと言われる日本においては、OTを理解している人材が多数存在していることから、OTを理解している人材に対してITのスキルを習得させていくことが望まれる。

このような中、経済産業省が2017年7月に、IT・データ分野を中心とした専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を創設した。同制度は、働きながら第四次産業革命を見据えた新たな能力・スキルを獲得できる職業訓練の充実を図って、一定の要件を満たす教育内容を有する講座を「Reスキル講座」として経済産業大臣が認定する制度である。さらに認定された教育訓練講座のうち、厚生労働省が定める一定の要件を満たし、厚生労働大臣が指定した講座は、「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」の対象となる。同制度の認定対象分野には、IT分野(AI、IoT、データサイエンス、クラウド、高度なセキュリティやネットワーク)やIT利活用(自動車分野のモデルベース開発、生産システムデジタル設計 ※今後順次分野追加)が存在し、OT側の知識を有する人材がIT分野での認定講座でITスキルを身につけたり、IT利活用分野の認定講座においてITとOT双方のスキルを習得したりすることなどを目指している(図116-10)。

図116-10 「第四次産業革命スキル習得講座」について

資料:経済産業省作成

⑤「Connected Industries」の広報

「Connected Industries」を国内外で普及していく活動も盛んに実施している。2017年6、7月には、本概念の国内での普及を図るべく、ロボット革命イニシアティブ協議会やIoT推進ラボ主催の公開シンポジウムを開催した。また、10月のCEATEC JAPANの前日、「Connected Industries カンファレンス」で「東京イニシアティブ2017」を発表、CEATEC JAPANの一部で「Connected Industries シンポジウム」を開催し、同概念の発信を行った。その際にコンセプトムービーも作成し、国内外に向けて発信した(http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/index.html)。さらに、世界に向けても発信していくべく、2017年11月末に、経済産業省がロボット革命イニシアティブ協議会との共催にて「Connected Industries国際シンポジウム」を開催し、世界がこの時代のフロンティアを追いかける中、日本の「Connected Industries」に加え、世界経済フォーラムの「第四次産業革命」、ドイツの「Industries 4.0」、中国の「中国製造2025」、米国の「Industrial Internet Consortium」など、主要諸国などの取組において活躍するトップランナーを招いて、講演や製造業のこれからの姿に関してディスカッションを実施した。

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