経済産業省
文字サイズ変更

第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進

5.Connected Industries実現に向けた横断的課題への対応

(3)取組の面的広がり、エコシステム的な発展の必要性

冒頭の「総論」において我が国製造業を取り巻く危機感の1つとして記載したとおり、技術革新のスピード、課題の複雑化などが進む中、いわゆる「自前主義」の限界が露呈しており、すべてを「競争」領域として捉えることなく、「協調」領域の拡大により、真の「競争」分野への投入リソースの集中を行うことが求められてきている。Connected Industriesの実現に向けても、必要となるリソース(技術、人材、資金など)すべてを自前で獲得していくのは非効率的であり、企業同士がお互いのリソースを活用し合いwin-winの関係となるエコシステムをいかに構築できるか、エコシステムを活用しながら自らの強みの価値をいかに最大化できるかが鍵を握る。他者のリソースの活用という観点では多種多様な連携の在り方が存在するが、特に誰にも負けない技術や尖った人材を有し、かつ俊敏・柔軟な経営が可能であるスタートアップは、協業先としてのニーズは高く、Connected Industries実現の鍵を握る存在ともいえる。

この点において、俊敏・柔軟な経営に強みを持つスタートアップなどによる、自社の強みをうまく活かした異業種などとの連携事例も、近年では国内外で見られ始めているが、なかでも、製造業におけるこのようなイノベーションの担い手として近年注目を集めているのが、「ものづくりスタートアップ」である。ものづくりスタートアップとは、他者のリソースなども積極的に活用しながら自らの強みを核に短期間でものづくりを実現する存在であり、ものづくりにおいて比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓フェーズにある企業群である。

 

「ものづくりスタートアップ」は、通常既存の製造業と何らかの関わりを持つ(受発注・連携・競合関係)ことが多いが、Connected Industries実現の担い手として重要なのは、製造業の企業向けに製品やサービスを開発し提供する存在である点が挙げられる。つまり「製造業向けBtoBスタートアップ」であると考えられる。

そこで、以下では、スマート製造分野を例にとって、ものづくりスタートアップによるConnected Industries実現の道筋について整理する。

①スマート製造分野における「ものづくりスタートアップ」の役割

「スマート製造」とは、すなわち、情報技術などの活用によって製造プロセスに継続的にイノベーションが起こり、製造業全体の生産性が劇的に高まった姿、そして、企業をまたいだデータの利活用やその他経営資源の融通によって、製造業のバリューチェーン全体が最適化された姿だと理解できる。

このようなイノベーションや全体最適化の推進主体として通常考えられるのは、大手や中小の製造業企業、あるいはITベンダーなどの既存のIT企業である。しかし、例えば大手メーカーの技術開発の結果として生まれた製造プロセスのイノベーションは、当該企業の競争力の源泉となるため、営業秘密として厳重に管理され、その成果が製造業全体に伝播することはほとんどの場合ないと考えられる。また、ITベンダーの場合も、受託開発という形態を取る限り、その成果を活用できるのが顧客企業に限られるという点で同じ問題が起こる。

一方で、ものづくりスタートアップの場合、ベンチャーキャピタルなどから調達した資金をもとに「スマート製造」の実現に資するソリューションやプラットフォームを短期間で開発し、それを自社の商品として世界中の製造業企業向けに提供していくことで急成長を果たしていくことも可能である。

このように、ものづくりスタートアップは、大手メーカーやITベンダーと異なり、「製造プロセスのイノベーションそのもの」を「自社の商品」として、「短期間で事業化」していく存在にもなり得る。そうした意味ではConnected Industriesの担い手として他の主体には無い重要な役割を持っていると考えられる。

コラム:ものづくりスタートアップ、製造業企業、それを支援する行政が三位一体となって生み出したソリューション・・・(株)ロビット×(株)協豊製作所・小島プレス工業(株)×豊田市

(株)ロビット(東京都板橋区)は、「ハードとソフトで、新しい価値を生み出す」ことを掲げ、IoT機器やロボットなどの開発を行う、2014年創業のものづくりスタートアップである。同社は、2016年に初めての自社製品として、スマートフォンでカーテンの開閉を制御できる後付け型の機器「めざましカーテンmornin’」の販売を開始した。この製品は、年間数万台の販売台数を数えるヒット商品となり、同社が注目されるきっかけとなった。

同社が、次の事業として開発を進めているのが、製造プロセスのイノベーション、具体的には「製造業における外観検査工程の自動化」である。同社は「めざましカーテン mornin’」の開発と量産に当たり、部品の発注や組立などで多くの工場との接点を持ち、そこで外観検査工程が製造業全体の大きな課題となっていることに気付いた。製造業における外観検査工程は製品の品質を左右する重要な工程だが、形状や色彩の多様さから自動化が難しく、熟練検査員による目視検査が中心となっている。しかし、近年では熟練検査員の高齢化が進み、かつ、人手不足で新規雇用も困難になっているなど、課題が深刻化している。外観検査工程にかかっているコストは国内だけで数千億円以上と言われ、この課題を解決することができれば、製造業の生産性を飛躍的に高めることができるとともに、同社にとっても大きなビジネスチャンスとなる。

法人向けの製品・サービスを開発していくうえで重要なのは、ユーザー企業の抱える課題を正確に把握して、その課題にフィットした解決方法を実現していくことである。そして、そのためには潜在的なユーザー企業と深く連携しながら開発していくことが効果的である。そこで同社では、豊田市役所が実施しているスタートアップと製造業企業のマッチング事業に参加。そこで出会った豊田市内の大手自動車部品メーカー2社、(株)協豊製作所と小島プレス工業(株)と連携しながら開発を進め、2018年2月には、専用のロボットとAI技術を組み合わせた外観検査の自動化ソリューション「AIVIS(アイビス)」を発表した。このソリューションは、既存の外観検査ソリューションと比べても少ないサンプルで高い精度を出すことができ、検査員と同程度の不良品検出率を達成している。

この事例は、ものづくりスタートアップが潜在的なユーザー企業である大手自動車部品メーカーと連携しながらソリューションを開発しているという点、そして、豊田市役所という行政が間に入ることで両者のマッチングがスムーズになり、受発注関係とは異なる対等な連携が実現しているという点が特徴的である。大企業側は、有望なスタートアップの持つ技術をいち早く自社の製造プロセスに取り入れたいというニーズがあり、行政側も産業政策として地域企業の生産性向上を支援する動機がある。このように、ものづくりスタートアップ、製造業企業、行政の3者は全員がメリットのある関係を築くことができ、この連携が製造プロセスのイノベーションを起こしていくうえで重要だと考えられる。

図 AI技術を活用した外観検査の自動化ソリューション「AIVIS」(デモ版)

出所:(株)ロビットより提供

コラム:大手化学メーカーとの提携によって技術プラットフォームを高めることで化学産業を底上げするスタートアップ・・・マイクロ波化学(株)×大手化学メーカー

マイクロ波化学(株)(大阪府吹田市)は、マイクロ波を活用した製品製造プロセスの独自開発や、従来技術では製造困難な新素材開発に取り組む研究開発型スタートアップである。医薬、化学材料、食品など様々な分野への応用展開が可能であることから、国内外の様々なメーカーとの提携を進め、マイクロ波技術のトータルソリューションを提供している。社員数約40名という規模であるが、大手化学メーカーとの提携によるプロジェクト案件を20件近く推進している。

同社のビジネスの源泉となっているのが、「技術プラットフォーム」である。技術プラットフォームは、マイクロ波技術をプロセスイノベーションにつなげるために必要な様々な要素で構成される。具体的には、化学反応・触媒化学・プラントエンジニアリング・製造システムといった基盤技術、基盤技術を支える物理・化学・エンジニアリングの専門性を有する研究開発人材、さらには、マイクロ波に特化した実証プラントや分野横断的シミュレーション技術といった開発インフラなどである。これらを、顧客の技術課題に合わせて、同社のノウハウを駆使して技術ソリューションとして提供し、マイクロ波だからこそ実現できる新素材の製造プロセスにイノベーションを起こしている。

技術ソリューションを提供するにあたっては、三井化学(株)や太陽化学(株)などの大手化学メーカーと提携していることも特徴の1つである。新素材の実用化を目指す化学メーカーと対等な提携を締結し、基礎研究から応用開発、実証開発までのスケールアップに、一貫して伴走している。ものづくりの実用化には長い年月を要するのが一般的だが、研究開発段階では共同開発費用を受け取り、実用化後はライセンスフィーを受け取るビジネスモデルを構築している。その際、最もポイントになるのは「対等な関係性」であり、基本的には受託契約は結ばない。これは知財契約においても同様であり、将来的に同社の技術プラットフォームの基盤となる技術や知財、ノウハウが蓄積されるよう仕組みを構築している。この考え方の根底にあるのは「ものづくりの競争力の源泉はノウハウである」という思想であり、吉野社長は「当社にノウハウが蓄積されることで技術プラットフォームが高まれば、多くの困難な課題を解決することが可能となり、ひいてはこれを利用する顧客にもメリットを提供することができ、最終的に化学産業全体が一緒に高まっていく好循環につながる」と語っており、多くの大手化学メーカーからも理解を得られている。

化学分野は、少量で高付加価値な医薬品から大量生産の化石燃料までを含む、非常に幅広い産業である。スタートアップはニッチトップの市場を確立することがセオリーと言われているが、同社では様々な業種の顧客との提携を増やすことで、技術プラットフォームを高めてソリューションとしての魅力度を、より高めることができると考えている。同社の将来のビジョンについて、吉野社長は「まだまだマイクロ波は特殊な技術だと捉えられているが、製造技術の選択肢として当然のように選択される、一般的な技術になることを目指したい」と語っている。

図 マイクロ波化学の技術トータルソリューション

資料:マイクロ波化学(株)より提供

②ものづくりスタートアップと製造業企業との連携

ものづくりスタートアップによるConnected Industriesの推進にあたっては、優れたものづくりスタートアップをいかに増やし成長させていくか、そして、ものづくりスタートアップが生み出すイノベーションをいかに製造業全体で活用していくかが特に重要となる。

スタートアップは単独で成長していくものではなく、ユーザーや既存企業、大学、金融機関、公的機関などの多くの主体との関係性の中で育まれていくものである。スタートアップを中心として多様な主体が有機的につながっている様を、生態系になぞらえて「スタートアップ・エコシステム」と呼ぶこともある。スタートアップが生まれやすく成長しやすいエコシステムを構築することは、その国・地域の経済・産業の発展に直結するため、世界中の国・地域がエコシステムの構築・強化に取り組んでおり、今や世界規模での「スタートアップ・エコシステムの構築競争」が起こっている。

日本のスタートアップ・エコシステムは、シリコンバレーや中国深圳と比べて脆弱であると言われることも多い。特に、ハードウェアイノベーションのゆりかごとしての深圳の成長ぶりは目覚ましく、「中国全土から集まる若手エンジニア」「オープン・モジュール化(モノ、知財)」「成熟したサプライチェーン」「顧客ニーズを反映する大市場」「溢れるマネー」などをキーワードに、深圳の地で多くのハードウェア・スタートアップが生まれ、世界に向けて製品・技術が発信されている。

コラム:深圳の製造業エコシステムを活用した小ロット製造、スタートアップ支援・・・(株)ジェネシスホールディングス

(株)ジェネシスホールディングス(以下、ジェネシスと表記)は広東省深圳市のサプライチェーンを活用したEMS(電子機器受託製造)工場を子会社に持つ企業である。創業経営者の藤岡淳一氏は2000年代前半から深圳のEMS企業を活用した電子機器製造に従事し、格安のデジカメ、DVDレコーダーなどのヒット商品を生み出してきた。2011年に香港・深圳ジェネシスを創設、発注側からEMS経営者へと転進した。イオンのスマートフォンなどの数万台規模の大型案件からスタートアップ向けの小ロット案件まで、多様な電子機器製造を手がける企業として評価を高めている。

「深圳の優位性はサプライチェーンの集中にある」と藤岡氏は言う。深圳には基板、金型、部品、梱包、物流、税関、検査・認証などの各種企業、機関が集中的に立地しており、地域全体として見た場合の製造の効率性が高い。個々の企業単体の強さではなく、総体として生み出される強さはエコシステム(生態系)との表現がぴったりだと藤岡氏は強調する。

その一方で中国独特の商慣習、品質のばらつきなどの問題もあり、単に深圳企業に委託するだけでは日本市場が要求する品質基準を満たすことは難しい。ジェネシスは主要部品の全数検品、自社工場での組立と品質管理、日本国内のアフターサービス拠点という三重のセーフティネットを用意することで、日本の顧客基準を満たすクオリティを実現している。その力が認められ、主力製品であるタブレット型端末の生産台数では日本国内シェア10位と企業規模を上回る存在感を発揮している。

さらに、近年、IoT(モノのインターネット)機器のニーズが高まるにつれ、深圳は新たな役割を担うようになっている。新たな事業ジャンルを切り開くスタートアップはこれまでウェブサービスの分野に偏重していたが、スマートセンサー、監視カメラ、電子看板など物理的デバイスを伴うハードウェア・スタートアップへとトレンドは移行しつつある。また、AI(人工知能)によるビッグデータ処理が現実的になった今、素材となるデータの確保が急務であり、各種IoT機器のニーズが高まっている。ニッチな製品も多く、いかに低価格かつ小ロットで製造するかが鍵となる。

深圳では「公板公模」と呼ばれる共用基板、共用金型成型部品を使うことにより、企画から製造までの期間を大幅に短縮できる上に、MOQ(最少発注数量)1,000個という小ロットでの製造が可能となる。「スタートアップは資金がない。また、フィードバックを得てこまめに改良する必要がある。そのため、小ロット製造が可能な深圳は世界中のスタートアップが活用する“聖地”になっている」と藤岡氏は指摘する。深圳のエコシステムを活かした小ロット製造、日本市場向けの品質を担保する仕組みによって、ジェネシスはコミュニケーションロボット「ユニボ」、VR接客端末「CREWL」など日本スタートアップの量産を支援している。

このような状況下において、こと「ものづくりスタートアップのエコシステム」という視点に立てば、本来、日本は世界トップレベルの潜在力を有しているとも考えられる。その大きな理由として挙げられるのが、ものづくりスタートアップにとっての連携先・ユーザーとなる既存の製造業の層の厚さである。

コラム:IoTデバイスのデザインと少量製造を強みに、世界やスタートアップと日本の技能をつなぐエコシステムを構築・・・(株)テクノラボ

(株)テクノラボ(神奈川県横浜市)は「カタチを提案する」「少量で提供する」ことを強みに、プラスチック新製品の試作設計から製造、量産まで一貫してサポートする企業である。

ものづくりで新市場開拓を目指す、スタートアップや中小企業、サービス系大手企業が主な顧客であり、「IoTが人間社会に溶け込むサポートをしたい」という想いで、製品の上流設計段階から製品仕様・デザインの提案を積極的に行っている。特に最近では、プラスチック・樹脂製外装を使用するIoTデバイスに注力しており、新製品開発のデザインと試作・少量(200~300個)製造を、顧客と一緒になって「手探りな中での市場・顧客との対話」によって試行錯誤する、ものづくりの伴走役としてのポジションを高めている。

例えば、中小工務店の相談を受けて、施工住宅の断熱性能評価のための室温センサーを開発したケースでは、床面で室温を測定する必要があったが、室温センサーを試作して設置したところ、顧客から「何だか分からない気味の悪さがある」というフィードバックを得て、温度を表示するディスプレイを追加した。さらに、壁からの輻射熱を考慮する必要があることが分かり、壁掛け輻射熱センサーを追加で開発し、所望のデータを得られるようになった。このように、新たな製品開発・ものづくりにおいては、この「一度カタチにして市場・顧客のリアクションを得る」ことが欠かせないが、同社は試行錯誤を通じてこれまでにない製品に仕上げていく経験を多数蓄積している。

同社のデザインと少量製造の支援に対する関心は、国内のみならず海外からも高まってきている。既に台湾大手メーカーの新製品開発を手掛けた実績がある他、米国シリコンバレー発スタートアップからの引き合いも増えてきている。昨今では、シリコンバレー発スタートアップが中国で製品試作・製造を行うケースが多いが、製品デザイン自体は米国内で行っているため、コストが非常に高い。また、試作段階では必ず出戻りが発生するため、想定以上の工数を要するという。一方同社は、デザインと少量試作を一体的に行えるため、価格とスピードの両面から非常に高く評価されており、シリコンバレー拠点の設立に向けた準備を急ピッチで進めている。

そんな中、製造拠点を日本に置いている理由は、射出成形を行う職人の圧倒的な技能があるためである。少量で生産する場合、金型に時間と費用をかけることができず、完成度の高い金型を作成することは難しい。そこを成形技能や周辺知識で補う必要があるが、問題は常に特定できないところから発生するため、シミュレーションなどの計算科学だけでは解決できない。一方、日本の職人は、現場での長い経験から培われた勘によって、この問題を瞬時に解決できる。このような技能は、日々の単純作業の繰り返しの中で芽生えるものであり、「以前から技能が適正に評価されていないと感じていた」と林社長は語る。海外進出を検討する中で、日本の高い技能に対する潜在的なニーズが非常に高いことを実感しており、「高い技能を評価できる当社が顧客との間に入ることで、これまで日の当たらなかった技能が、顧客からより評価されるようになれば良い」と、市場と職人の技能に精通した林社長ならではのグローバル・エコシステムの構築を急ピッチで進めている。

図1 開発支援を行った室温センサー
図2 設計を支援した水耕栽培機foop

出所:(株)テクノラボより提供

特に、製造プロセスや製造業のバリューチェーンにおける課題を発見し、それを解決するための製品・サービスを開発して事業化していく存在として、ものづくりスタートアップは大きな潜在力を有しており、また、その活躍が期待される。その潜在力の発揮のためには、ユーザーとなる製造業企業から詳細なニーズを把握し、試作品を用いた実証実験への協力などを得て、さらにそれを実際に販売し製造現場に実装していく必要があり、製造業企業との連携や協力が重要となっている。また、製造業側にとっても、「脱・自前主義」、「オープンイノベーション」の観点から、スタートアップへの期待が高まっており、スタートアップとの連携やスタートアップの技術・製品の導入に対して意欲的な企業が増えてきている。

長期的には、我が国の製造業がものづくりスタートアップの「ゆりかご」となり、世界で戦えるものづくりスタートアップを多数輩出し、それによってConnected Industriesが実現していくという青写真が絵空事ではなく、その実現可能性を少しでも高めるような取組が官民には求められている。

コラム:めっきメーカーなどとの連携の中で作り上げ、多くの製造業企業に利用される、革新的手法によるフレキシブル基板の製造サービス・・・エレファンテック(株)×製造業企業

エレファンテック(株)(東京都中央区)は、「新たな製造技術を作り、グローバルスタンダードとし、世界を前進させる」というミッションを掲げる、2014年創業のスタートアップである。現在は独自製法によるフレキシブル基板(柔らかく曲げられるプリント基板)の製造サービスを、主に業務用途に展開しており、既存のフレキシブル基板に比べて「型が不要で初期コストがかからない」、「工程数が少なく生産スピードが速い」、「環境負荷が低い」などを訴求して、小ロット品や試作用途を皮切りに、マスカスタマイゼーションで恩恵を受ける分野での活用が進んでいる。

従来の電子回路は「基板の全面に金属を貼った上で、不要な部分を溶かす」という手法で作られているのに対し、エレファンテックの独自製法「ピュアアディティブ™法」は、「必要な部分にのみインクジェットで金属を印刷し、さらにめっき技術で金属を成長させる」という手法であり、これによって上述の特徴を生み出している。

なお、同社の技術のベースとなっている「金属を含むインクで電子回路を描く」というアイデア自体は同社の登場前から存在しており、海外のスタートアップを始め、似た事業に取り組む企業もいくつか見られるが、いずれも決め手に欠け、本格的な普及には至っていない。その意味で、同社はこのアイデアの本格的な事業化に初めて成功したスタートアップだといえる。それを可能にしたのは、同社の内部的な要因に加えて、ユーザーや連携先となる製造業側の要因も強く影響しているという。

例えば、「ピュアアディティブ™法」において重要なめっき技術は、金属を成長させる条件の設定や制御に職人的なノウハウが必要なものであり、それをもともと有していなかった同社は、自社でのラピッドプロトタイピング的な試行錯誤に加え、めっきメーカーなどとの連携のなかでこの技術を確立していった。また、多くの製造業企業が同社の技術に関心を寄せて、早い段階から積極的に活用を進めていったことも、この技術を事業化するうえで大きなプラスとなった。現在では、海外の企業からの引き合いも増え、ミッションとして掲げた「グローバルスタンダード化」に向けて歩みを進めている。

日本で生まれたものづくりスタートアップが、多様な製造業との関係性の中で成長し、その技術がグローバルスタンダードとなって大きな付加価値を生み出していく。このような流れは、日本の製造業が目指すべき方向性の一つだと言えそうだ。

図 エレファンテックの電子回路製造技術「ピュアアディティブ™法」

出所:エレファンテック(株)より提供

コラム:中小製造現場の課題とともにIT/IoTによる課題解決力を高め続けるスタートアップ・・・フリックケア(株)×日進精機(株)

フリックケア(株)(東京都台東区)は、中小製造業のものづくり支援と通信事業での経験をもつ工藤社長が、2015年2月に創業したスタートアップである。当初はIoTセンサーによる介護系見守りサービス(月額定額制)を提供していたが、現在は中小製造業の現場の課題をベースとしたIT/IoTソリューションの開発・提供を行っている。

製造業に参入したのは、以前から付き合いのあった日進精機(株)から、「熟練職人はプレス機の音の変化で異常を予見できるが、貴社の音センサーを使って異常の予知ができないか」という相談を受けたことがきっかけである。日進精機と他1社を加えた3社で連携し、1年かけて音センサーによってデータを収集。音の信号パターンと現場の業務日誌を突き合わせて、異常時の音信号パターンを地道に蓄積していった。

音センサーは既製品を組み合わせた簡易なものであることもあり、初期費用無料、月額10,000円(当初は5,000円)という手軽さがサービスの特徴であり、中小製造業を中心に社長や生産技術のトップから多くの引き合いが舞い込んだ。しかし、現場に入り込んでいくと、実装が難しい現実に直面した。多くの現場は、業務日誌の一部または全部が電子化されていないため、実証試験でデータは得られても、現実に何が起こっているかが特定できない課題があった。さらに、実証試験のために手書きした業務日誌情報をデータ化するには、現場の社員に追加業務を強いる必要があるため、なかなか理解や協力を得ることが難しかった。

そこで工藤社長は「中小製造現場の課題ありきでIT/IoTサービスを提供する」方針に転換した。例えば、同社が提供している代表的なITソリューションに業務日誌の音声入力システムがある。従来の業務日誌電子システムではカバーしきれない部分があり、紙と併用している実態を目の当たりにしたのがきっかけで開発したサービスで、微細な内容も含めたすべての情報を音声で手軽に電子入力できる。また、ネットワークにつなぐことができず、追加アプリケーションをインストールできない検査機械においては、外部ディスプレイを接続して、その画面のピクセルデータから必要な情報を自動で読み取るRPAソリューションも開発している。その他にも、工作機械見守りセンサー、金型生産ショットカウンターのネットワーク化、パトライトのネットワーク監視といった、様々なソリューションを現場の課題に応じて開発している。ただ、いずれのソリューションも決して高度な技術は使わず、ありもののセンサーや製品を顧客の課題に合わせて組み合わせることで、ソリューションとしての手軽さを特徴にしている。工藤社長は「顧客の課題を発掘して解決するほど、同社のソリューション力が高まる好循環が生まれている」と語る。さらに今後の展開として、中小製造業の多くにIT部門がなく、業務上必要なIT以外のことは全く分からないという現状がある一方、ITも製造現場も分かる人材が不足していることを中小製造業全体の課題と感じており、「他社と連携しながら中小製造業に外部CIOサービスを提供したい」と新たなソリューションを計画している。

図1 プレス機見守りサービス
図2 業務日誌の音声入力アプリ

出所:フリックケア(株)より提供

<<前ページへ | 目次 | 次ページへ>>

経済産業省 〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1代表電話03-3501-1511
CopyrightMinistryofEconomy,TradeandIndustry.AllRightsReserved.