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- 第1部第1章第3節
- 5.Connected Industries 実現に向けた横断的課題への対応
- (4)Connected Industriesの地域・中小製造業への普及、担い手の専門人材不足
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望第3節 価値創出に向けたConnected Industriesの推進
5.Connected Industries実現に向けた横断的課題への対応
(4)Connected Industriesの地域・中小製造業への普及、担い手の専門人材不足
地域企業や中小製造業は、Connected Industries実現に向けた担い手として重要な存在であり、これらの企業がリアルデータやデジタル技術を利活用することを通して生産性向上やビジネスモデル転換を図っていく取組が地域でも多く生まれてくることが期待される。また、Connected Industries推進による効果を最大化するには、サプライチェーン全体でのデータのやりとりを行うなど全体が“つながる”ことが鍵を握っており、中小企業における的確な対応などが特に重要となる。
地域企業や中小製造業においてもConnected Industriesを推進するメリットとして、例えば、IoT・ロボットなどの導入によって単純作業や重労働を省力化し、労務費を削減することによる人手不足解消の実現、人工知能などによって「匠の技」を見える化し、若い社員のスキル習得を支援することによる技能継承の実現、さらには、職人の技能や創造性をデータ化し、それを生産設備につなぐことで多品種・単品・短納期加工を実現し、新規顧客の獲得及び利益拡大の実現につなげるなどが想定される。
しかし、地域企業や中小製造業がデジタル技術を活用していくには、企業内で担い手となる人材が確保できるかという点やハード・ソフトウェアへの投資が可能かという点などにおいてハードルが存在する。特に、デジタル技術を実際に活用していく上で必要となるスキルを有する人材は日本各地、さらに言えば世界中で取り合いの状態であり、地域企業や中小製造業において質・量ともに十分に確保することは困難な状況にあるといえる。
そのような状況下においては、地域の中小製造業などに対してIT、ロボットやIoTなどのデジタル技術導入を教える専門人材の育成及びその活用などが鍵を握る。まず、この点、ITシステムやソフトウェアなどの導入支援などを生業とするIT企業などが中心となって中小製造業へのITシステム導入を支援することが考えられるが、IT企業におけるIT人材についても、第1節の図114-12のとおり、質的にも量的にも不足しているというのが現状である。また、IT企業におけるIT人材の数の地域での偏在性を経済産業省「平成27年特定サービス産業実態調査(確報)」を活用して算出すると、東京都を含めた関東圏や大阪府・愛知県などの大都市圏にはIT企業においてIT業務に従事する人材の数が多いのに対して、地方においては少ないことが見て取れる(図135-24・25)。
図135-24 IT企業におけるIT人材の地域偏在性(IT人材の総数)

備考:同調査の対象業種(全28業種)のうち、「01 ソフトウェア業」「02 情報処理・提供サービス業」「03 インターネット附随サービス業」の3つの業務の事業従事者数を都道府県ごとに足しあげた数を記載。
資料:経済産業省「平成27年特定サービス産業実態調査(確報)」より作成
図135-25 IT企業におけるIT人材の地域偏在性(人口1,000人当たりのIT人材の数)

備考:同調査の対象業種(全28業種)のうち、「01 ソフトウェア業」「02 情報処理・提供サービス業」「03 インターネット附随サービス業」の3つの業務の事業従事者数を都道府県ごとに足しあげた数を記載。
資料:経済産業省「平成27年特定サービス産業実態調査(確報)」より作成
また、第1節の図114-2や図114-8・9でも述べているとおり、我が国製造業においては人材確保の課題が顕在化しており、特に中小製造業においては自動機やロボットなどによる自動化・省力化が今後の対応策としてはニーズが高い。しかし、ロボットメーカーが販売する「産業用ロボット」は、ロボット単体だけでは作業の自動化という目的を果たすことはできず、ロボットの先端にハンドを取り付け、動き方をプログラムし、センサーや周辺設備と組み合わせた自動化システムとして構築することで初めて機能するため、中小製造業が単独で自社の生産ラインに適合するようにロボットシステムを構築することは難しい場合が多い。そこで、ロボットの導入を検討する企業の現場課題を分析し、最適なロボットシステムを構築するために様々な機械装置や部品などから必要なものを選別してシステムとして統合する業務を担う「ロボットシステムインテグレータ」(以下、ロボットSIerと呼称)と呼ばれる企業の存在が、地域企業や中小製造業が円滑にロボットなどを導入していくうえで重要となってくる(図135-26)。
図135-26 「ロボットシステムインテグレータ」(ロボットSIer)の役割

資料:経済産業省作成
ただし、我が国においては、地域・地方の中小製造業まで万遍なくロボットの導入支援ができるほどの規模感でロボットSIerが存在しておらず、東京都・愛知県・大阪府・静岡県・広島県の5都府県などを中心とした太平洋ベルト地域に偏在している傾向がある(図135-27)。より全国大でロボットの導入を促進していくためには、地域・地方も含めて一層ロボットSIerの創出・育成が急務となっている。
図135-27 ロボットSIerの地域偏在性

資料・備考:一般社団法人 日本ロボット工業会が運営する「ロボット活用ナビ」において2018年4月時点で登録されているロボットSIerの所在地の累積数を都道府県別に集計。
このようにロボットSIerが全国的に少なく特に地方で不足している原因としては、そもそもロボットSIerという存在の認知度が圧倒的に不足しており、そのことに起因してロボットSIer内でエンジニア人材が不足しているという点が挙げられる。関東経済産業局が実施した調査(図135-28・29)では、ロボットSIerにおけるロボットシステムエンジニアの過不足感について、90%以上の企業が不足と感じているとともに、採用状況には6割程度の企業が不満を感じており、募集をしても応募者が集まらないという点が最もボトルネックになっている。
図135-28 ロボットシステムエンジニアの過不足感

備考:ロボットシステムインテグレーション(ロボットSI)業務を行う企業374社に、アンケート調査を実施し、回答があった144社の結果を集計。
資料:「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)業界の人材確保に関する調査報告書」(平成29年度「関東経済産業局における地域企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」)より抜粋
図135-29 ロボットシステムエンジニアの採用状況の満足度と不満である理由

備考:ロボットシステムインテグレーション(ロボットSI)業務を行う企業374社に、アンケート調査を実施し、回答があった144社の結果を集計。
資料:「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)業界の人材確保に関する調査報告書」(平成29年度「関東経済産業局における地域企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」)より抜粋
この原因として、ロボットSIerの認知度不足が大きな要因ではないかと考える声も多く、これは、ロボットSIer業界の活性化・魅力向上のために必要だと思われるものとして、「業界の認知向上」が最優先事項として挙がっている点からも見て取れる(図135-30)。
図135-30 業界活性化・魅力向上のために、必要だと思われるもの(複数選択可)

備考:ロボットシステムインテグレーション(ロボットSI)業務を行う企業374社に、アンケート調査を実施し、回答があった144社の結果を集計。
資料:「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)業界の人材確保に関する調査報告書」(平成29年度「関東経済産業局における地域企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」)より抜粋
上記のような状況を受けて、経済産業省と日本ロボット工業会では、認知度向上に向けた取組として、ロボット活用に関するポータルサイト「ロボット活用ナビ」上にロボットSIerの特設ページを開設するとともに、ロボットSIerの業務内容や仕事の様子を紹介した動画の作成や、ロボットSIerへのインタビューをまとめたパンフレットを通じた広報などを行うなど、ロボットSIerが就職先として認識されるべく普及・啓発に取り組んでいる(図135-31・32・33)。
図135-31 ロボットSIerに関する特設ページ

備考:(一社)日本ロボット工業会 ウェブサイト
出所:(一社)日本ロボット工業会 ウェブサイト
図135-32 ロボットSIer業務紹介ビデオ


出所:(一社)日本ロボット工業会 ウェブサイト
図135-33 ロボットSIerインタビュー紹介パンフレット


出所:(一社)日本ロボット工業会 ウェブサイト
また、経済産業省ではこの他にも、ロボットSIerに共通して求められるスキル項目を抽出し、それぞれの項目について能力の高さに応じたレベルを設定して一覧形式にまとめた、「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)スキル標準(第一版)」を、ロボット革命イニシアティブ協議会・ロボット利活用推進WGでの検討・承認を経て制定した。これは複数のロボットSIerが実務的な見地から議論を重ね、機械・電気・制御といったロボットエンジニアリング系の能力だけでなく、生産技術や営業技術、組織体制など多面的な観点からロボットSIerとして備えるべき能力を規定したもので、これによりロボットSIerの能力の見える化を図っている。さらに、ロボットシステムを構築していくプロセスに関しては、これまで管理する標準的な手法が存在していなかったため、顧客との合意形成が曖昧なまま契約を結んでしまい、工程後半で認識の食い違い、変更・追加改修などの手戻り、工数増による追加の費用発生や納期遅れといった問題がたびたび発生するという課題があった。それを克服するため、ロボットシステムの構築プロセスを最適化する工程管理手法を「ロボットシステムインテグレーション導入プロセス標準(RIPS)」という形で定め、これを活用していくことにより、作業の見える化や顧客との確実な合意形成の実現及びロボットシステム構築プロセスの最適化を支援することとしている(図135-34)。
図135-34 ロボットシステムインテグレーション導入プロセス標準(RIPS)

資料:経済産業省作成
ロボット導入と同様に、IoTやAIなどのデジタル技術を現場カイゼンノウハウとともに中小製造業に指導できる専門人材も必要となってくるが、ITとOT(生産技術)双方のスキルを習得し実際の企業課題を解決できる指導者は我が国には多くはない。これは、IT・ソフトウェア側の知識・スキルとOT・現場側の知識・スキルとでは、そもそもの考え方や体系自体が大きく異なることから、両方を十分に習得することのハードルが高いことによる。経済産業省では、第2節でも記載しているとおり、このような専門人材を指導者として育成し、実際に中小製造業の経営課題を解決するために伴走型でコンサル支援する事業を実施している(スマートものづくり応援隊)。2016年度から開始して以降、2017年度には指導者を育成及び派遣する25拠点を全国に設けており、2018年度は40拠点への拡大を目指している。さらに、日本商工会議所、IVI、ロボット革命イニシアティブ協議会といった各民間団体や、よろず支援拠点、地方版IoT推進ラボ、さらには金融機関などとも連携をして、地域や中小製造業におけるデジタル技術活用の普及を幅広く横断的に実施していくことが必要となってくる(図135-35)。
図135-35 地域・中小企業へのさらなる展開

資料:経済産業省作成