経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第1節 労働生産性の向上に向けた人材育成の取組と課題

我が国経済は、緩やかな景気回復基調が続く中で、完全失業率は低下、有効求人倍率は上昇しており、雇用情勢は改善が続いている。その一方で、人口減少・少子高齢化が進展する中、人手不足感は強まり続けており、ものづくり産業においても不足感は高くなっている。

そのような状況下で、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2017~人材への投資を通じた生産性向上~」(平成29年6月9日閣議決定)に基づき、働き方改革と人材投資を通じた生涯現役社会の実現、成長戦略の加速等の取組等を行っているところである。また、同方針の「第1章1(3)人材への投資による生産性の向上」の中で、「今後本格化する人口減少・少子高齢化は必ずしもピンチや重荷でなく、イノベーションのチャンスとして捉えるべきである。労働力の減少は、生産性、創造性の向上の機会でもある。Society5.0(超スマート社会)の実現に欠かせない投資が起き、経済社会の生産性向上に向けた好循環が生じることが期待される。」としている。

しかし、「平成29年度能力開発基本調査」(厚生労働省)によると、製造業で能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は78.6%であり、その問題点として、「指導する人材が不足している」(62.0%)、「人材育成を行う時間がない」(55.5%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(37.2%)が上位にあげられている(図210-1)。人材育成は投資ともいわれるが、人材育成の担当者からは、人材育成がどのように労働生産性の向上につながるかについて経営陣を説得することに苦労しているとの声も聞かれている。

図210-1 人材育成に関する問題点(製造業)

資料:厚生労働省「平成29年度能力開発基本調査」

こうした問題認識の下、本節では、我が国GDPの2割を占める基幹産業であるものづくり産業において、労働生産性の向上に向けた人材育成の取組がどのように成果をあげているのか、その成果をもたらした取組の特徴は何かについてみた上で、ものづくり人材の育成における課題を分析する。さらに、企業で実際に行われている、人材育成の取組事例を紹介する。本節の内容が、ものづくり企業の人材育成の検討に活用されれば幸いである。

本節においては、独立行政法人 労働政策研究・研修機構(以下、「JILPT」という。)「ものづくり産業における労働生産性向上に向けた人材育成と能力開発に関する調査注1」(調査時点2017年11月1日)、厚生労働省「平成29年度能力開発基本調査」(調査時点2017年10月1日)の結果を活用した。

なお、JILPT調査では、労働生産性は「従業員一人当たりの付加価値」と定義した。売上・利益の向上や組織力の向上などに結びつく、生産工程の効率化や製品の高付加価値など自社の「強み」を伸ばす取組を実施することを「労働生産性を向上させる」と捉えることとして、調査を実施した。

注1 調査対象は、全国の日本標準産業分類(平成25(2013)年10月改訂)による項目「E 製造業」に分類される企業のうち、プラスチック製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械機具製造業、業務用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、輸送用機械器具製造業に属する従業員数30人以上の企業20,000社。郵送による調査票の配布・回収を行い、有効回収数は5,094社で、有効回答率は25.5%である。なお、従業員数(正社員+直接雇用の非正社員の人数)は、100人未満の企業が全体の約7割を占めている。

1.人材育成の取組の成果と労働生産性

(1)人材育成の取組と成果

まずは人材育成の取組状況について確認すると、日常業務における人材育成の取組(OJT)では、95.0%の企業が何らかのOJTの取組を選択しており、「何も行っていない」と回答した企業は0.7%となっている(表211-1)。また、人材育成を促進させるために実施している取組状況では、93.4%の企業が何らかの促進策を選択しており、「特に何も行っていない」と回答した企業は6.1%となっている(表211-2)。これらのことから、ものづくり産業においては、ほとんどの企業が何らかの人材育成の取組を行っているものと考えられる。

表211-1 日常業務における人材育成の取組(OJT)の状況(単位:%)

備考:「何らかのOJTの取組を行っている」は、「日常業務の中で上司や先輩が指導する」、「作業標準書や作業手順書を活用する」、「身につけるべき知識や技能を示す」などの17械の選択肢をいずれか1つ以上選択した企業の合計(選択肢の詳細は図212-5を参照)。

資料:JILPT「ものづくり産業における労働生産性向上に向けた人材育成と能力開発に関する調査」(2017年)

表211-2 人材育成を促進させるために実施している取組の状況(単位:%)

備考:「何らかの促進策を実施している」は、「改善提案の奨励」、「資格や技能検定などの取得の奨励」、「研修などのOFF-JTの実施」などの12の選択肢をいずれか1つ以上選択した企業の合計(選択肢の詳細は図212-6を参照)。

資料:JILPT前掲調査

一方、人材育成の取組について成果があがっているか否かについてみたところ、「成果があがっている」または「ある程度成果があがっている」と回答した企業の合計は49.3%、「成果があがっていない」または「あまり成果があがっていない」と回答した企業の合計は48.1%と、ほぼ二分化していることが分かる(図211-1)。以上のことから、ほとんどの企業が何らかの人材育成の取組を行っているにも関わらず、半数の企業がその成果があがっていないと考えていることとなる。このため、本節では、人材育成の取組で成果があがっている企業の特徴やその取組等を中心に、ものづくり産業における人材育成の取組と課題をみていく。

図211-1 人材育成の取組の成果

備考:「成果があがっている」は、「成果があがっている」及び「ある程度成果があがっている」の合計。また、「成果があがっていない」は「成果があがっていない」及び「あまり成果があがっていない」の合計。

資料:JILPT前掲調査

(2)人材育成の成果と労働生産性

ここでは、人材育成の取組の成果と労働生産性の関係について確認する。

自社の労働生産性について、3年前と比べて「生産性が向上した」と回答した企業では、人材育成の「成果があがっている」、「ある程度成果があがっている」と回答した割合が高くなっている(図211-2)。

図211-2 3年前と比べた労働生産性と人材育成の成果

資料:JILPT前掲調査

次に、同業同規模の他社と比べた労働生産性について、他社と比べて「生産性が高い」と回答した企業では、人材育成の「成果があがっている」、「ある程度成果があがっている」と回答した割合が高くなっている(図211-3)。

図211-3 他社と比べた労働生産性と人材育成の成果

資料:JILPT前掲調査

これらのことから、人材育成の取組による成果を労働生産性の向上として捉えている企業が多く、人材育成が労働生産性の向上につながることが期待できる。

(3)人材育成の具体的な成果と労働生産性

次に、人材育成について「成果があがっている」または「ある程度成果があがっている」と回答した企業における、具体的な成果の内容(複数回答)についてみると、「技術や技能に関する理解・知識が深まった」が最も高く、「自社の製品に関する理解・知識が深まった」、「改善提案が増えた」と続く(図211-4)。

それぞれの成果について内容ごとに分類したところ、「技術・技能の向上」が最も高く、次に「組織力の向上」が続く。人材育成を行った成果として、労働者個人の理解・知識の深まりや、作業スピードの向上といった「技術・技能の向上」などの直接的な成果だけではなく、社員同士の教え合いやチームワークの改善などの「組織力の向上」につながる間接的な成果もみられている。

図211-4 人材育成の具体的な成果(複数回答)

資料:JILPT前掲調査

さらに、人材育成の具体的な成果と労働生産性の関係を確認する。

3年前と比べて「生産性が向上した」と回答した企業における、人材育成の具体的な成果は、「技術や技能に関する理解・知識が深まった」が最も高く、「自社の製品に関する理解・知識が深まった」、「改善提案が増えた」と続く。上位2つの順位は、「生産性が低下した」と回答した企業と同様である(図211-5)。

それぞれの具体的な成果ごとに、「生産性が向上した」企業と、「生産性が低下した」企業を比較すると、「生産性が向上した」企業の方が、「生産性が低下した」企業に比べて、「一人ひとりの作業スピードが上がった」 、「改善提案が増えた」、「社員同士で教え合うことが多くなった」といった成果を挙げる割合がより高い。

図211-5 3年前と比べた労働生産性と人材育成の具体的な成果(複数回答)

備考:( )内の数字は生産性が「向上した」と回答した企業と、「低下した」と回答した企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

次に、同業同規模の他社と比べて「生産性が高い」と回答した企業における、人材育成の具体的な成果をみると、「技術や技能に関する理解・知識が深まった」が最も高く、「自社の製品に関する理解・知識が深まった」、「改善提案が増えた」と続く(図211-6)。上位の順位は「生産性が低い」と回答した企業と同様である。

それぞれの具体的な成果ごとに、「生産性が高い」企業と、「生産性が低い」企業を比較すると、「生産性が高い」企業の方が、「生産性が低い」企業に比べて、「社員同士で教え合うことが多くなった」、「チームワークが良くなった」、「一人ひとりの作業スピードが上がった」といった成果を挙げる割合がより高い。

図211-6 他社と比べた労働生産性と人材育成の具体的な成果(複数回答)

備考:( )内の数字は生産性が「向上した」と回答した企業と、「低下した」と回答した企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

このように、「生産性が向上した」、または「生産性が高い」とする企業においては、人材育成の成果が、社員一人ひとりの生産性の向上や、組織全体としての生産性の向上に、より多くつながっているものと考えられる。

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