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- 第1部第2章第1節
- 2.人材育成で成果があがっていると回答した企業の傾向〈1〉
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成第1節 労働生産性の向上に向けた人材育成の取組と課題
2.人材育成で成果があがっていると回答した企業の傾向〈1〉
1では、企業の意識調査によると、ほとんどの企業が何らかの人材育成の取組を行っているにも関わらず、半数の企業がその成果があがっていないと考えていること、3年前と比べて「生産性が向上した」、他社と比べて「生産性が高い」と回答した企業では、人材育成の「成果があがっている」と回答した企業の割合が高いことを確認した。さらに、生産性の向上につながっていると考えられる人材育成の具体的な成果についても確認した。
ここからは、人材育成の「成果があがっている」、「ある程度成果があがっている」と回答した企業群(以下、「成果あり企業」という。)と、「成果があがっていない」、「あまり成果があがっていない」と回答した企業群(以下、「成果なし企業」という。)に分けて、ものづくり人材の特徴、人材の定着、人材育成の取組などにおいてどのような差がみられるのか分析を行い、人材育成で成果があがっていると回答した企業の傾向を確認する。
(1)ものづくり人材の基本的な特徴
自社のものづくり人材の基本的な特徴について、人材育成の「成果あり企業」では、「ベテランの技能者が多く、熟練技能者集団に近い」と回答した割合が最も高い(図212-1)。一方、人材育成の「成果なし企業」では、「比較的単純な作業をこなす労働集約的な作業者集団に近い」と回答した割合が最も高くなっている。
図212-1 ものづくり人材の基本的な特徴

備考:「人材育成成果あり企業」は、人材育成の「成果があがっている」、「ある程度成果があがっている」と回答した企業の合計。また、「人材育成成果なし企業」は人材育成の「成果があがっていない」、「あまり成果があがっていない」と回答した企業の合計。以下同様。
資料:JILPT前掲調査
(2)人材の定着状況
過去5年間の人材の定着状況をみると、人材育成の「成果あり企業」では、「成果なし企業」に比べて、人材の定着状況が「よくなった」と回答した割合が高い(図212-2)。一方、「成果なし企業」では、「成果あり企業」に比べて、「悪くなった」と回答した割合が高い。
(1)と合わせてみると、人材育成の「成果あり企業」においては、人材の定着が進み、熟練技能の蓄積がみられることが分かる。
図212-2 過去5年間の人材の定着状況

資料:JILPT前掲調査
(3)人材育成の取組
ここでは、人材育成の取組について、人材育成の成果との関係をみる。
まず、人材育成方針について確認する。人材育成の「成果あり企業」では、「今いる人材を前提にその能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」、「数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている」と回答した割合が高い(図212-3)。一方、「成果なし企業」では、「個々の従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身につけることを目的に能力開発を行っている」、「人材育成・能力開発について特に方針を定めていない」と回答した割合が高い。
人材育成の「成果あり企業」では、中長期的な視野を持ち計画的、段階的に人材育成を進めていることがうかがえる。
図212-3 人材育成方針

資料:JILPT前掲調査
さらに、人材育成方針の社内での浸透度をみると、人材育成の「成果あり企業」では、「浸透している」、「ある程度浸透している」の割合が86.1%と極めて高いのに対し、「成果なし企業」では、「あまり浸透していない」、「浸透していない」の割合が46.4%となっている(図212-4)。
図212-4 人材育成方針の社内での浸透度

資料:JILPT前掲調査
また、日常業務における人材育成の取組(OJT)(複数回答)についてみると、人材育成の「成果あり企業」、「成果なし企業」ともに「日常業務の中で上司や先輩が指導する」が最も高く、「作業標準書や作業手順書を活用する」、「身につけるべき知識や技能を示す」と続いており、上位は同様の順位となっている。「何も行っていない」は、人材育成の「成果あり企業」では該当がなく、「成果なし企業」においても極めて低くなっている(図212-5)。
それぞれの取組ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「現場での課題について解決策を検討させる」、「個々の従業員の教育訓練の計画をつくる」、「身につけるべき知識や技能を示す」といった取組を挙げる割合がより高い。
図212-5 日常業務における人材育成の取組(OJT)(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。
資料:JILPT前掲調査
また、人材育成を促進させるために実施している取組(複数回答)をみると、人材育成の「成果あり企業」、「成果なし企業」ともに、「改善提案の奨励」が最も高く、「資格や技能検定などの取得の奨励」、「研修などのOFF-JT(会社の指示による職場を離れた教育訓練)の実施」と続く(図212-6)。「特に何も行っていない」は、「成果あり企業」に比べて「成果なし企業」の割合が高くなっているものの、ほとんどの企業が人材育成を促進させるために、何らかの取組を行っていることが分かる。
図212-6 人材育成を促進させるために実施している取組(複数回答)

備考:1.技能マップ:自社の各技能者が保有する技能を種類・水準ごとに整理したもの
2.チューター制度:新入社員に先輩社員がマンツーマンでついてOJTなどを行う新人育成のための制度。
3.メンター制度:上司とは別に指導・相談役となる先輩社員が新入社員をサポートする制度。
4.( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。
資料:JILPT前掲調査
それぞれの取組ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「研修などのOFF-JTの実施」、「資格や技能検定などの取得の奨励」、「熟練技能者による専任指導や勉強会開催など技能伝承のための仕組みの整備」といった取組を挙げる割合がより高い。
なお、厚生労働省では、ものづくり分野で優れた技能、豊富な経験等を有する熟練技能者を「ものづくりマイスター」として認定し、企業・業界団体・教育訓練機関に派遣して若年技能者に対する実技指導を行っている(詳細は第2章第2節5(2)に後述)。