経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 ものづくり人材の確保と育成
第1節 労働生産性の向上に向けた人材育成の取組と課題

2.人材育成で成果があがっていると回答した企業の傾向〈2〉

前ページより続き

コラム:人材育成と自社製品の投入による労働生産性の向上・・・(株)イイダモールド

茨城県筑西市にある(株)イイダモールド(従業員12名)は、金型の設計、製作を行っている。金型とは目的とする製品の成形加工用に使用され、金型の品質が製品の良否を決定づけるものである。

同社では、社員が社会人としての常識をいち早く身につけることが、長い目で見た取引先との円滑な関係や生産性の向上につながる一方で、個々の社員に細々とした注意をするだけでは効果が上がらないことに悩んでいた。このため、2014年に、あいさつ、言葉遣い、電話での応対、仕事への取組方など社会人としての常識について記載した「社内教育読本」を作成し、朝礼で社員が毎日1ページ読み上げるという取組を始めた。

飯田社長は、「小規模企業はワンマン企業になりがちだが、できれば社員が集ってみんなでお金を稼ぐ土俵を作りたい。社長、社員という立場の違いがあるにしても面と向かって『ああしなさい、こうしなさい』と指摘されることは社員にとって気分が良くないし、事細かく言うといくら社長の言葉であっても社員は反骨心が出ると思う。朝礼で1ページずつ読んでいくというルールさえ決めてしまえば、毎日、気持ちが新鮮な状態の朝礼の際に音読という形をとれば、必ず目にし、耳に入るので、社員にとっても『直さなくてはいけない』といった気持ちに自らなると思い、この取組を始めた。」と語る。

この取組によって、社長に言われる前に何とかしようと考えるようになり、社員が頻繁にミーティングをしている光景が多くなった。また、この取組を始めることで、社員が社会人としての当たり前の行動をとることや、会社の業績を上げるための努力をする社員が徐々に増え、営業部長を中心に毎月の売上ノルマを設定し、自主的に売上を伸ばす努力ができるようになった。この他、これらの取組がきっかけとなって、社員自ら、業務マニュアルを作成し、新人が入ってきてもある程度仕事ができるような準備をしたり、ミスを防ぐ為のチェックリスト等を作成するようになったことも効果となって現れている。

なお、同社では金型を運搬する際の梱包についても自社製品を投入し、労働生産性を上げる計画がある。同社では金型をベトナムにある子会社で製作しているが、この取組は子会社から到着する金型を開梱するのが重労働で、開梱後の木材処理にも困っているとの話が社員からあり、樹脂梱包材である「Fastcarry」の商品開発を飯田社長のアイデアで行った。発明後は試作品を作り、社員が使い勝手を調査し、数箇所の改善点が発見された。

通常、金型を運搬する際、木枠にいれる。例えば、100キロの金型を運搬するときの木枠の重量は13キロだが、同社で開発した「Fastcarry」は1.3キロと軽い。ベトナムにある子会社からの空輸費も安くなり、コスト削減につながる。また、日本に金型が届いてから木枠を解体するが、解体には1時間程度の時間がかかり、木枠の解体は重労働で木枠は産廃になる。そこで同社で樹脂による梱包である「Fastcarry」を開発した。バンドで止めるだけなので安定性は弱いが、軽量で格安、軽作業でけがの心配はなく、繰り返し利用することができる。環境、森林などの環境保全にもいい。これであれば金型出荷作業が楽にできて、当日中に出荷ができる。現在、特許出願中で、これを世界中に販売するという戦略を練っており、「Fastcarry」による売上高の15%程度を見込んでいる。

写真:朝礼風景

写真:「Fastcarry」と木枠との違い

コラム:独自技術による新商品の開発と自発的な学びに対する環境整備・・・キリンビール(株)横浜工場

神奈川県横浜市にあるキリンビール(株)横浜工場(従業員約260名)では、ビール製造だけでなく、多様化する現代人の嗜好に合わせてチューハイなど多様な製品を製造している。

同社は人材育成にも積極的で、「ドイツのマイスターのような課長や副工場長に相当するリーダーが現場メンバーから育ってほしい」という当時の技術トップの想いの実現のため、「ものづくり人材開発センター」の前身である「技術研修センター」を約30年前に設立した。「ものづくり人材開発センター」は酒類・清涼飲料の製造に関わる専門知識、技術・技能(実技)を学ぶ場として、施設での集合研修(講義・実習)をメインに、講師が工場に出向いて開催する研修やeラーニングも提供している。

具体的には、「体験で学ぶビールづくり講座」など100以上のものづくり人材に対する育成プログラム、講座を設定している。中には、若年者向け、中堅向け、リーダー育成向けなど段階に応じて受講が必須の講座だけでなく、ものづくり人材が自主的に技術を学びたい場合に利用できる講座も設置しており、社員からの要望に応えて設定した「業務の教え方講座」という講座もあり、社員の自主的な取組を積極的に支援している。このような取組の結果、「業務の幅を拡げたい」、「技術をもっと深く理解したい」といった社員の要望に応える講座を整備し、かつ講座においては工場間の情報交換も促すことで、製造現場がより主体的・自発的に動くことができるようになった。その結果、品質や生産性向上等の様々な成果につながっている。

また、多様な製品の1つとして、通信販売において、専用のビールサーバーにビールの入ったペットボトルをセットすることによって自宅で本格的な生ビールを楽しむことができる製品を発売したが、これも多様な講座を通して工場メンバーの新商品対応力が向上したことで、ペットボトルビールの立ち上げをスムーズに行うことができた。近年、消費者に「日常を少しだけ特別にしてくれる少量生産品や個性的な商品が欲しい。」といった価値観があったことがこの製品の開発のきっかけとなった。この製品を発売するに当たり、神崎工場長は「ビールは酸化や日光に弱い。また、ペットボトルの自主設計ガイドラインにおいて、ペットボトルは着色しない旨が定められており、着色ボトルの国内生産は行っていない。よって、酸化や日光を防ぐためにバリア性を高めたキリン独自の特殊コーティング技術を開発して実現した。日本の大手ビール会社では初めての試みであり、新しい技術である。この技術は日本酒、ワイン、調味料等の会社でも採用されている。」と語る。

また、会社が人材育成の環境を作ることで、例えば、2016年に導入したeラーニングのメニューに対して多くの自発的な応募があったように、社員自らが自己啓発に取り組む気持ちが生まれて、自ら学ぶという気持ちが会社全体に広がっている。神崎工場長は「我々は積極的に学ぼうという姿勢を大切にしており、会社は学ぶための環境を整え、支援するというスタンスである。単純にスキルを身に着けるだけではなくて、自主的に学ぶことで、人間としての成長、社会人としての成長がある。」と語る。

写真:ものづくり人材開発センターが駐在しているキリンビール横浜工場

さらに、企業が実施しているOFF-JTの内容(複数回答)についてみると、人材育成の「成果あり企業」では、「主任、課長、部長など各階層に求められる知識・技能を習得させるもの」が最も高く、「加工など製造技術に関する専門的知識・技能を習得させるもの」、「仕事に関連した資格の取得を目指すもの」が続く(図212-7)。

OFF-JTの内容ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「加工など製造技術に関する専門的知識・技能を習得させるもの」、「機械の保全に関する専門的知識・技能を習得させるもの」、「新たに導入された(あるいは導入予定の)設備機器等の操作方法に関する知識・技能を習得させるもの」といった内容を挙げる割合がより高い。

図212-7 実施しているOFF-JTの内容(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

コラム:ものづくり経営改善インストラクターの活用による労働生産性の向上・・・(株)ダイニチ

滋賀県愛知郡にある(株)ダイニチ(従業員55名)は、ポリウレタンフィルムの製造、ラミネート加工、コーテイング加工等を行っている。様々な加工技術を保有しており、透湿・防水・抗菌・消臭機能を付加したフィルムは、おむつカバーや防水シーツなどの介護関連用品や衣料用品などに取り入れられている。

同社の特色のある取組として、2015年より滋賀ものづくり経営改善センター((公財)滋賀県産業支援プラザ主催)から派遣された滋賀ものづくり経営改善インストラクターによる人材育成の支援を活用しているということがある。

インストラクター派遣前の同社は、多能工を推進し、資格取得支援や改善提案活動などを行っているものの、生産性の向上に苦労しており、売上げ・利益とも上がらない状態が続いていた。また、工場内は足の踏み場もないほどにものが溢れていた。インストラクター派遣を受け入れる直接のきっかけは、県のアンケートで同取組を知り、興味があると回答したことだった。

第1回目の派遣では、生産性向上のための重要な手段の1つである5Sに関しての支援を受けた。まず5Sの意義について学んだ後に、手をかければ現場が変わる実感を社員に体感させることを目的として、工場内の不要な物品に赤札を貼り、処分と整理・整頓・清掃まで行う「赤札作戦」を開始し、最終的には工場全体のラインの見える化を実施した。「それまでは整理等の方法を知らず、必要性も感じていなかったが、整理をし、その状態を維持するためには、生産の流れを把握し、原材料や工具等、あるいは社員の工場内での動き方などを合理的に再配置する必要があった。その結果、製品の歩留まりも上がり、従前より、いいものが作れるようになった。本来仕事とは作業ではなく、いいものを作ることであり、そのために整理が必要だと社員はもちろん自分も認識することができた」と若松代表取締役は語る。始めた当初は現場の反発もあったが、インストラクターからの提案を受け、担当課長を中心に若手など新しい取組に抵抗感がない社員の担当ラインから始め、少しずつ取組を広げていった。その結果、他の社員も成果が目に見える形で実感できた。最後は、社員自ら前向きに対応するようになり、工場全体がきれいになった。今ではきれいな工場で品質が良ければ、それが一番の営業活動となるとして、顧客から信頼性を得られる「魅せる工場」を目指して取組をさらに深化しているという。

同社では、インストラクターの活用を始めた結果、年々売上げが10%伸びており、顧客からも工場がきれいだと評価をいただくようになった。インストラクターの指導は理解がしやすく、また、自社にインストラクターを派遣するため、社員の移動時間が短縮できるという利点もあるとのこと。

現在は第二回目の派遣事業として、作業標準書の整備を実施している。作業が標準化されて作業標準書が策定されていなければ、作業の引継も作業を改善する余地を発見することも難しい。これまでは先輩の指導中心で詳しいマニュアルがなく、作業の標準化ができない弱みを抱えていたが、今後は担当者が変わっても同じ失敗が起きないようにしたいという。

【ものづくり経営改善インストラクター(ものづくりインストラクター)とは】

東京大学ものづくり経営研究センターと全国各地の地域スクールでは、地元企業の中核人材と地元在住のものづくり企業OBを対象に、ものづくり企業の現場改善・生産性向上の指導ができる「ものづくりインストラクター」の養成を行っている。同取組は、2005年に経済産業省産学連携中核人材育成事業として、「東京大学ものづくりインストラクター養成スクール」開講後、地域に広まり、全国13校の地域スクールが開校している。滋賀県では地域スクール「滋賀ものづくり経営改善インストラクター養成スクール」が開校しており、修了生は「滋賀ものづくり経営改善インストラクター」として活躍している。当スクールでは、座学と現場実習を通じて、自社の経験だけでなく、他社の現場、異業種でも指導ができる汎用性のある「ものづくりのよい流れ」を教えている。また、研修では生産性向上を目指して楽しく改善することを大切にしているという。修了生のうち、企業の中核人材は自社の現場リーダーとして、企業OBは地元企業の現場改善コンサルタントとして、ものづくり能力の向上に取り組んでいる。

写真:5Sと通路の確保をした後の工場

コラム:大型設備の導入と5S活動の推進による労働生産性の向上・・・神埼工業(株)

佐賀県神埼市にある神埼工業(株)(従業員61名)は、ベンディングロール、アングルベンダ-、プレス等の造船用の鉄板等を曲げるためのまげ加工機の製造販売を行っている。

同社では、製造機械の性能向上による部品点数の多品種増加に伴い、従来スピードで製造したのでは納期短縮の実現が難しくなっていた。従来の機械では人の手を介した段取り作業のスピードを上げるのは限界があり、また機械の加工スピードを上げるには品質上極端にはできないからである。そのような中で段取り作業の工程数を減らして納期短縮を図れないかという考えから「テーブル形横中ぐりフライス盤」を導入した。中ぐりフライス盤とは、ドリルや鋳抜きなどで開けられた穴の精度を向上させる、穴寸法を大きくする中ぐり加工を行ったり、円筒の外周や円板の端面に切刃を持ち、回転により切削する工作機である。

このフライス盤を操作するために、同社ではフライス盤の導入前に1週間、メーカーの研修を受講し、受講後に社内において4~5回、伝達研修を行った。

鶴社長は「従来であれば6面体部品の機械加工を行う際に正面の一面しか削れない為、その面を削った後に段取り替えを行い、6面削るのに6回の段取り作業が必要となっていた。同フライス盤によって加工部品を載せるテーブルを正確な角度で回転させることで、一度の段取り作業で4面の加工が可能となり、面のフライス加工で従来1週間かかる部品も約3日になり、約半分の時間という大幅な段取り時間の短縮ができるようになった。また、従来の機械施工では1個の部品の機械加工の社内工数に時間がかかるため、社内で施工が間に合わない部品を外注に依存していた。このフライス盤の導入によって工数が短縮され、社内で施工可能になったため、外注費の節約となった。従来は外注加工費の割合が支出額の15%程あったが、同フライス盤を導入することにより約8%程に抑えることができた。」と語る。

さらに、同社では5S活動の推進による労働生産性の向上に取り組んでいる。そのきっかけは、佐賀県地域において、同業他業種問わず、様々な意見交換、また相互の見学会等の交流を行う中、5S活動がどの現場においても非常に重要で、それを積極的に行うことで、生産性及び安全性の向上を図ることができたという実績、経験を聞いたからである。

鶴社長は「労働生産性の向上のためにも、危険な作業が伴う製造業では5S活動の推進が第一である。」と語る。具体的には、ラインの情報円滑化の為、現場用掲示板設置を行い、工程情報の円滑な共有化等の労働生産性の向上のための取組も並行的に行った上で、普段から一日の作業終了時は工具や器具の片付け、清掃、また、床の美化運動としてコンクリートの露出部は床面の塗装コーティング等を励行している。さらに大型連休前には半日程度の時間を取り、普段は時間の取れない機械全体の清掃を行い、衛生的な職場を創出できるようになった。さらに随時月に4~5回は大掃除を行い、環境維持に努めている。これらの取組の結果、従来は、社員が共通で使用する工具や部品を雑多に一カ所に収納し、作業者はそこから必要な工具、部品を探すための時間が多かったが、5S活動により、工具を種類ごとに分けて収納し、どこに工具、部品があるのかわかりやすくし、工具を探す手間が省かれることにより、工具や部品の段取りの時間が約40%削減されるなど、生産性の向上につながった。また、従来はコンクリートがむき出しであり、コンクリートの凹凸により清掃に時間がかかり、コンクリートの劣化を早めて作業環境の悪化を起こすおそれがあったが、床面を塗装することで、清掃がスムーズに行え、コンクリートの保護も行うことができ、作業環境の保持はもちろん、週平均2.5時間の掃除時間の削減につながったほか、従来は5年後に行っていたコンクリートの張り替えが7年に延びるなど修繕費用の削減にもつながった。

写真: テーブル形横中ぐりフライス盤

写真:工具を1箇所に収納している風景

コラム:ものづくり産業で働く女性のスキルアップを目的とした岐阜県の研修「モノづくり女子塾」

岐阜県庁では、県の基幹産業である製造業の経営層・工場長・部門長などを対象とした、階層別研修に10年前から取り組んでいる。そして、2014年より、対象を女性に限定した研修「モノづくり女子塾」を新たに開始した。当時岐阜県には、県内の人口の減少によって、今後製造業においてもリーダーとなる人材の不足が発生し、それが製造業の衰退につながりかねないとの危機感があった。それを防ぐためには、リーダー人材として男性だけでなく女性も育てる必要があるが、研修に参加する女性が0~1名と少なく、なかなか増えなかったため、女性が参加しやすいように、女性を対象とする研修を始めた。

研修は、多くの方の参加が容易になるように、1日または2日間の短期間の構成で、県内各地域をまわりながら無料開催している。開催案内については、過去の階層別研修の参加企業への連絡や、メールマガジンへの掲載、関係団体の協力を経て、可能な限り県内の全企業に知ってもらうことを目的に周知している。研修内容は、女性に特化した内容ではなく、ものづくり現場の改善手法(5Sと品質)、コミュニケーション力の向上、チームビルディング、リーダーシップなどリーダー人材に必要な内容を網羅しており、講義とグループワークを通して学ぶ形式だ。「これまでの研修だと参加者は男性中心で、女性はいても1名程度だったため、男性中心にグループワークが進む傾向にあった。女性同士のグループであれば、役割が平等に回り、発言や発表に挑戦がしやすい。女性に対する研修を開催することで、参加しやすく取り組みやすい環境を作ることが大切だと考えている。」と、岐阜県の担当者は語る。

また、「モノづくり女子塾」は、知識の向上だけでなく、女性社員の意識の向上も目指しているため、どのコースも職種は技術職に限らず事務職も含めて受講対象としている。当初、対象はリーダーとして活躍する女性社員及びその候補者としていたが、2016年より若手の女性社員を対象とした基礎コースを新設している。その理由は、定員を超える応募があり好評である一方で、外部研修の参加は初めての方が多く知識やレベル感にバラツキがあったため、長期的な目線で若手のうちから育てる必要があると感じたことによる。

これらの取組が想定する女性管理職の増加などの直接の効果については、取組を開始して間もないことから、現時点ではまだ目に見えるものとはなっていない。しかしながら、研修の参加企業からは、「参加者が研修内容を業務に活用するようになった。」「研修で他社の女性社員と交流したことが刺激になっている。」「受講者のやる気・モチベーションがアップした。」など、好評である。すでに受講した先輩社員からの推薦で参加する受講者も少なくない。また、受講者からは、「女性限定のため申し込みがしやすい。」「色々な職種の人と交流ができた。」「お互いの悩みを共有して新鮮な気持ちになれた。」といった声がでている。受講者は、日常業務から離れて、同じような立場にある他社の社員と交流することで、知識の習得だけでなく、自身の仕事・役割の再認識や、意識の向上にもつながっている。

岐阜県では、製造業の担い手として活躍できる女性の増加を目指しており、今後も「モノづくり女子塾」の研修を通して、若手女性社員やリーダーとして活躍する女性及びその候補者を育てていきたいとしている。

写真:モノづくり女子塾

次に、自己啓発の支援の状況(複数回答)をみると、人材育成の「成果あり企業」では、「受講料などの金銭的支援」が最も高く、「資格等を取得した際の手当や一時金の支給」、「教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供」と続く(図212-8)。一方で、「成果なし企業」では、上位2つの順位は同様だが、3番目に「特に支援を行っていない」が挙げられている。

支援内容ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「資格等を取得した際の手当や一時金の支給」、「受講料等の金銭的支援」、「個々の自己啓発実績を人事部で把握・記録」といった支援を行っているとする割合がより高い。

図212-8 自己啓発の支援の状況(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

なお、「平成29年度能力開発基本調査」の個人調査の結果によると、製造業において、自己啓発に問題を感じる労働者は79.9%となっている(図212-9)。自己啓発を行う上での問題点(複数回答)としては、「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が最も高く、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」、「費用がかかりすぎる」と続いている。

前述のように、企業において、金銭的支援は比較的多く取組がみられるが、労働者が多く問題を感じている時間に係る支援については、「就業時間の配慮」を行っているとする割合は、人材育成の「成果あり企業」においても2割程度と、取組割合が相対的に低い。

図212-9 個人が自己啓発を行う上での問題点(製造業)(正社員)

資料:厚生労働省「平成29年度能力開発基本調査」

(4)IT人材の確保と育成

第四次産業革命に対応する中で、IT人材の不足が懸念される。ここでは、ものづくり産業におけるIT人材の確保と育成について、人材育成の成果との関係を確認する。

IT人材の過不足状況をみると、人材育成の「成果あり企業」、「成果なし企業」のいずれにおいても4分の3以上の企業が不足しているとしている(図212-10)。

図212-10 社内におけるIT人材の過不足状況

備考:1.調査にあたり、「IT人材」を「ICT(情報通信技術)に精通し、ICT化を進める際に担当となりうる正社員」と定義した。
2.「IT人材不足企業」は、IT人材は「不足している」、「やや不足している」と回答した企業の合計。「IT人材不足なし企業」は、IT人材は「不足していない・必要としていない」と回答した企業の合計。

資料:JILPT前掲調査

次に、IT人材の確保の方法(複数回答)についてみると、人材育成の「成果あり企業」では、「自社の既存の人材をIT人材に育成する」が最も高く、「成果なし企業」では、「ICTに精通した人材を中途採用する」が最も高い(図212-11)。

図212-11 IT人材の確保の方法(複数回答)

資料:JILPT前掲調査

さらに、「自社の既存の人材をIT人材に育成する」、「ICT専攻の人材を新卒採用する」と回答した企業に確認した、IT人材の育成に向けた取組(複数回答)をみると、人材育成の「成果あり企業」では、「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」が最も高い(図212-12)。

図212-12 IT人材の育成に向けた取組(複数回答)

備考:1.IT人材の確保について、「自社の既存の人材をIT人材に育成する」、「ICT専攻の人材を新卒採用する」と回答した企業を対象に調査した結果。
2.( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

それぞれの取組ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、「成果あり企業」の方が、「会社の指示による社外機関での研修・講習会への参加」、「ICT化方針の策定や明確化」、「ICT化に向けた経営層の理解の促進」、「社内での自主的な勉強会などの奨励」といった取組を挙げる割合がより高い。

これらのことから、IT人材に関しては、過不足状況は人材育成の成果の有無で差はないものの、IT人材の確保と育成については、人材育成の成果の有無によって対応に差があることが分かる。

(5)労働生産性を向上させるために行っている取組

労働生産性を向上させるために行っている取組(複数回答)をみると、人材育成の「成果あり企業」、「成果なし企業」ともに、「改善の積み重ねによるコスト削減」が最も高く、「改善の積み重ねによる納期の短縮」、「新しい生産設備の導入」が続く(図212-13)。

図212-13 労働生産性を向上させるために行っている取組(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

改善に代表される効率化に関する取組が最も多く行われていることが分かる。人材育成の「成果なし企業」では、改善の取組において、「成果あり企業」の割合を上回るものがなく、労働生産性の向上に向けた取組が比較的低調であるといえる。

それぞれの取組ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「改善の積み重ねによる納期の短縮」、「他社にはできない加工技術の確立」、「新しい生産設備の導入」、「工場のデジタル化(見える化、状況の一元把握等)の促進」といった取組を挙げる割合がより高い。

(6)労働生産性が向上した具体的な事象と向上分の配分

次に、「労働生産性が向上した」と回答した企業に対して、労働生産性が向上した具体的な事象としてどのようなものがあるかを聞いてみたところ(複数回答)、人材育成の「成果あり企業」、「成果なし企業」いずれにおいても「売上・利益の向上」が最も高く、次いで「生産・加工にかかる作業時間の短縮」となっている(図212-14)。

図212-14 労働生産性が向上した具体的な事象(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

具体的な事象ごとに、「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、人材育成の「成果あり企業」の方が、「技術水準や品質の向上」、「不良率の低下」、「製品やサービスに対する顧客満足度の向上」といった事象を挙げる割合がより高い。

さらに、「労働生産性が向上した」と回答した企業における労働生産性の向上分の配分先(複数回答)をみると、人材育成の「成果あり企業」では、「賃金などの処遇の改善」 が最も高く、「設備投資の増強」、「作業環境の整備」、「採用・人材育成の強化」と続く(図212-15)。一方、「成果なし企業」では、「設備投資の増強」が最も高く、次に「賃金など処遇の改善」が続いている。

配分先ごとに、人材育成の「成果あり企業」と「成果なし企業」を比較すると、「成果あり企業」の方が、「採用・人材育成の強化」、「作業環境の整備」、「賃金など処遇の改善」といった分野に配分したとする割合がより高い。人材育成の「成果あり企業」では、労働生産性の向上分が「採用・人材育成の強化」や「賃金など処遇の改善」といった人材への投資により配分されている傾向がうかがえる。

図212-15 労働生産性の向上分の配分先(複数回答)

備考:( )内の数字は人材育成成果あり企業と、人材育成成果なし企業の%ポイント差。

資料:JILPT前掲調査

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