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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第2節 ものづくり人材を育む教育・文化基盤の充実

1.ものづくりへの関心・素養を高める理数教育の充実等

(1)小・中・高等学校の各教科におけるものづくり教育

我が国の競争力を支えているものづくりの次代を担う人材を育成するためには、ものづくりに関する教育を充実させることが重要である。文部科学省では、中央教育審議会の答申(2016年12月)を踏まえ、2017年に小・中学校学習指導要領を、2018年に高等学校学習指導要領を改訂した。小学校の「理科」「図画工作」「家庭」、中学校の「理科」「美術」「技術・家庭」、高等学校「芸術」の工芸や「家庭」など関係する教科を中心に、それぞれの教科の特質を踏まえ、ものづくりに関する教育を行うこととしている。

例えば、小学校の「図画工作」では、造形遊びをする活動や絵や立体、工作に表す活動、鑑賞の活動を通して、生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を育成することとしている。その際、技能の習得に当たっては、手や体全体の感覚などを働かせ、材料や用具の特徴を生かしながら、材料や用具を使い、表し方などを工夫して、創造的につくったり表したりすることができるようにすることとしている。

中学校の「理科」では、原理や法則の理解を深めるためのものづくりなど、科学的な体験を重視することとしている。中学校の「技術・家庭(技術分野)」では、身近にある不便さや既存の製品の改善の余地を考えたりして、利便性、環境負荷、安全性などの観点から製品の設計・製作や既存の製品の強度の向上などの課題を設定し、その解決に取り組ませるなど、ものづくりなどの技術に関する実践的・体験的な活動を通して、技術によってよりよい生活や持続可能な社会を構築する資質・能力を育成することとしている。

また、材料の製造技術や加工技術、法隆寺などの建築技術、たたら製鉄などの製鉄技術、高層建築物の免震構造や防災の技術等について、開発の経緯を調べる学習や、材料を改良したり構造を変えたりするなどの、開発者が設計に込めた意図を読み取らせる学習などを通して、技術が生活の向上や産業の継承と発展等に貢献していること、緻密なものづくりの技などが我が国の伝統や文化を支えてきたことに気付かせることなどを新たに明記したところである。

高等学校の専門教科「工業」では、安全・安心な社会の構築、職業人としての倫理観、環境保全やエネルギーの有効な活用、産業のグローバル競争の激化、情報技術の技術革新の開発が加速化することなどを踏まえ、ものづくりを通して、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、教科目標に「ものづくり」を明記するとともに、実践的・体験的な学習活動を通じた資質・能力の育成を一層重視するなどの教育内容の充実を図っている。

(2)科学技術を支える理数教育の充実

ものづくりの関心・素養を高めるためには、科学技術の土台となる理数教育の充実を図ることは重要である。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS 2015)の結果では、我が国の理数に関する学力は、1995年以降の調査において最も良好な結果(小学校算数:5位/49か国、小学校理科:3位/47か国、中学校数学:5位/39か国、中学校理科:2位/39か国)となるなど世界トップレベルである。

また、小学校の「理科が楽しい」と思う児童の割合は引き続き、国際平均を上回っている一方で、小学校の算数、中学校の数学、理科において、「教科が楽しい」と思う児童生徒の割合は、国際平均を下回っている状況にある。

新学習指導要領の「理科」や「算数・数学」では、理数教育の充実を図る観点から、

①日常生活等から問題を見いだす活動や見通しをもった観察・実験などの充実による学習の質の向上

②必要なデータを収集・分析し、その傾向を踏まえて課題を解決するための統計教育の充実

などの改善を図っている。

さらに、理科教育における観察・実験や指導の充実に向けた指導体制を整えるための理科観察・実験アシスタントの配置支援や「理科教育振興法」に基づき、観察・実験に係る実験用機器を始めとした理科、算数・数学教育に使用する設備の計画的な整備を進めている。

図321-1 国際数学・理科教育動向調査

小学校において、「理科は楽しい」と回答している児童が約9割となっており、国際平均を上回っており、中学校においては、「理科は楽しい」と回答している生徒の割合が増加し、国際平均との差が縮まっている傾向が見られる。また、小学校においては、理科が得意だと回答している児童の割合が増加している傾向が見られる。

小学校、中学校共に、「算数・数学は楽しい」と思う児童生徒の割合は増加し、中学校においては、国際平均との差が縮まっている傾向が見られるが、「算数・数学は得意だ」と思う児童生徒の割合は横ばい。

数値は「強くそう思う」「そう思う」と回答した児童生徒の割合を合計し、小数点第1位を四捨五入したものである。
 また、丸めの誤差のため、いくつかの結果は一致しないことがある。
 国際平均については、調査参加国・地域が毎回異なる点に留意する必要がある。

資料:国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)に基づき文部科学省作成

コラム:アクティブラーニングの事例

ー東京都足立区立弘道小学校における取組ー

小学校理科では、「問題解決」を大切にしている。自分たちで見いだした問題を、観察、実験やものづくりなどを通して自分たちで解決していく授業では、「知識及び技能」はもちろん、「問題解決の力」や主体的に学習に取り組む態度や多様性を尊重する態度などといった「学びに向かう力、人間性等」が育まれている。

「車をゴールにピタッと止めるのは難しいぞ。」「ゴムを強く引っ張りすぎだよ。」

小学校理科第3学年「風とゴムの力の働き」の学習での子供たちの会話である。教師が提示したゴムで走る車を手に取ると、子供たちは、遠くまで車を走らせようと夢中になった。そこで、教師は、車を止めるゴールを設定した。この教師の手立てによって、子供たちの思考が活性化する。各々が、個人の考えを述べるが、ここで大切なのは、「実験で確かめることができるか」という視点である。子供たちは、その視点を基に話し合い、「ゴムの力の大きさを変えると、車の動きはどのように変わるのか。」という問題を共有した。この問題について、一人一人が実験を行い、全員の結果をグラフに整理し考察し、結論を導き出したのである。

車をゴールに止めるという場の設定で、目的が明確になった。車の進み方を計測しながら、ゴムの力を制御した子供たちは、「風の力はコントロールが難しいけど、ゴムの力は少し簡単だね」と振り返った。

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