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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第2節 ものづくり人材を育む教育・文化基盤の充実

2.各学校段階における特色ある取組

(1)大学の人材育成の現状及び特色ある取組

①大学の人材育成の現状

ものづくりと関連が深い「工学関係学科」では、2017年度現在、38万4,724人(国立12万7,164人、公立1万9,221人、私立23万8,339人)の学生が在籍している。2016年度の卒業生8万7,542人のうち約58%が就職し、約37%が大学院等に進学している。職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野をはじめとする専門的・技術的職業従事者となる者が約78%を占めており、産業別では、製造業に就職する者が約27%を占めている(表322-1)。

表322-1 大学(工学関係学科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

また、工学系の大学院においては、職業別では、専門的・技術的職業従事者となる者が、修士課程(博士課程前期を含む)修了者で就職する者では約92%、博士課程修了者で就職する者では約92%を占めており、産業別では、製造業に就職する者は修士課程修了者で就職する者では約60%、博士課程修了者で就職する者では約33%を占めている。

②大学の人材育成の特色及び取組等

大学では、その自主性・主体性の下で多様な教育を展開しており、我が国のものづくりを支える高度な技術者等を多数輩出してきたところである。新たな社会的価値を創造するイノベーションを拡大させ、あらゆる分野を牽引していく人材の育成を目指し、2017年9月より「工学系教育改革制度設計等に関する懇談会」において議論し、重点的に講ずべき施策の具体的な制度設計について検討を行い、2018年3月に検討の取りまとめを行った(詳細は本章第1節1参照)。各大学においては、産業界と連携した実践的な工学教育など、工学教育の質的改善を不断に進めているところである。

図322-2 修士(理・工・農・保)の就職先 (職業別)

出典:2014年度 文部科学省 学校基本調査に基づき作成

資料:経済産業省「理工系人材育成に係る現状分析データ等」

図322-3 学士(理・工・農・保)の就職先 (職業別)

出典:2014年度 文部科学省 学校基本調査に基づき作成

資料:経済産業省「理工系人材育成に係る現状分析データ等」

例えば、実際の現場での体験授業やグループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習など教育内容や方法の改善に関する取組が進められているほか、教員の指導力を向上させるための取組などが進められている。また、工学英語プログラムの実施、海外大学との連携による交流プログラムなど、グローバル化に対応した工学系人材の育成に向けた取組が行われている。

また、教育再生実行会議「今後の学制等の在り方について(第五次提言)」(2014年7月3日)を受けた実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化については、2016年5月の中央教育審議会答申を踏まえ、大学制度の中に位置付けられ、専門職業人の養成を目的とする新たな高等教育機関として、専門職大学及び専門職短期大学の制度を設けることを内容とする「学校教育法の一部を改正する法律案」を2017年通常国会に提出し、5月24日に成立した(2019年4月1日施行)。

図322-4 専門職大学等の制度化

資料:文部科学省作成

コラム:大学(工学系)における取組

-東京工業大学-

東京工業大学では、「バイオものつくり」を開講し、1年次学生にバイオ関連教材開発等、生命の仕組みを活用し、社会貢献を目指した自主的な「ものつくり」教育を実施している。学生は半年かけて、課題をみつけ完成作品を公開コンテストで発表して成果を競う。2、3年次は、「先端バイオものつくり」を開講し、学生の一部は、毎年マサチューセッツ工科大学で開催される学生による合成生物学のコンテストiGEM(The International Genetically Engineered Machine Competition)に出場し、世界各国300以上のチームが参加する中、本学チームは、11年連続金賞受賞という快挙を達成している。一方で、「高校生バイオコン」(高校生による小中高生向けバイオ教材開発コンテスト)を10年間開催し、上位入賞した高校生チームを「先端バイオものつくり」の発表会に招待している。これらの成果は、地域の実験教室やサイエンスフェア等に活用され、大学と地域、教育関連企業、科学館等様々な新しい連携を生み出し「教えと学びのネットワーク形成」の取組として全学的に支援されている。

写真:iGEMに出場した東京工業大学の学生

―熊本大学―

熊本大学では、新しい時代の国際的な連携によるものづくりに対応できる学生を育成するため、2010年より韓国釜山の東亜大学校との合同企画で「日韓合同Capstone Design Camp」を開始した。2016年度からは台湾の高雄第一科技大学も加わり、毎年8月、8日間にわたって開催している。日韓台の学生が2名ずつの混成グループを組み、毎年異なるテーマでコンテストを行う。最初は緊張して意思の疎通も難しく、考え方や実行力の違いに戸惑う場面も多いが、やがて共通の目的に向けて真剣に討論ができるようになる。限られた期間内で、3大学の学生が共に全力を尽くして作品を製作し、最終審査に臨むが、この過程で、異国の学生と交流し、異文化に触れ、大きな達成感を得ると共に各自の心の中も変化し、大きく成長する様子がうかがえる。この企画の目的である3大学の学生の友好は現在でも続いており、3大学の友好促進の役割を果たしている。

写真:日韓台合同Capstone Design Camp in プサン

(2)高等専門学校の人材育成の現状及び特色ある取組

①高等専門学校の人材育成の現状

高等専門学校は、中学校卒業後の早い年齢から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とする高等教育機関として、2017年度現在、57校(国立51校、公立3校、私立3校)が設置されており、5万4,358人(国立4万8,630人、公立3,556人、私立2,172人、専攻科生を除く)の学生が在籍している。

2016年度の卒業生10,086人のうち約6割が就職しており、就職率は毎年100%近く、極めて高い水準を維持している。産業別では、製造業に就職する者が約5割となっており、職業別では、ものづくりと関連が深い機械・電気分野をはじめとする専門的・技術的職業従事者となる者が9割を占めている。(表322-5)。

表322-5 高等専門学校の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」

②高等専門学校の人材育成の特色及び取組等

高等専門学校は、実験・実習を中心とする体験重視型の教育に特徴がある。具体的な取組としては、産業界や地域との連携による教育プログラムの開発や、長期インターンシップの実施、学生の創意工夫の成果を発揮するための課外活動を実施しているほか、教員の指導力を向上させる取組として、企業からの教員派遣や企業での教員研修などが実施されている。これらの取組を通じて、高等専門学校は社会から高く評価される実践的・創造的なものづくり人材の育成に成功している。

さらに、今後予想される様々な課題に的確に応え、より質の高い教育を展開するために、2015年5月に、文部科学省内に「高等専門学校の充実に関する調査研究協力者会議」(座長:三島良直東京工業大学長)を設置し、2016年3月に「今後の高等専門学校の充実について」を取りまとめた。本取りまとめでは、医療・農業等他分野との連携強化など「今後の高等専門学校教育の在り方と充実方策」、地域産業を支える人材の育成など「地域・産業界との連携」、国際的な技術者として活躍する能力の向上など「国際化への対応」といった、三つの観点からの具体的な方策が示されている。

文部科学省としても、本取りまとめを踏まえるとともに、社会的要請が高く、人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティ分野の人材育成など、高等専門学校教育の充実に向けた取組を進めている。

また、工業化による経済発展を進める開発途上国を中心として、高等専門学校教育における15歳という早期からの専門人材育成が高く評価されている。そのため、独立行政法人国立高等専門学校機構において、各国のニーズを踏まえた技術者教育の充実に向けて、教育カリキュラムの開発や教員研修などの支援を進めている。

コラム:高等専門学校における取組

-アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト-

「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(通称・高専ロボコン)は、高等専門学校の学生がチームを結成し、毎年異なるルールの下、自らの頭で考え、自らの手でロボットを作ることを通じて独創的な発想を実現化し、「ものづくり」を実践する課外活動である。

2017年度の第30回大会は「大江戸ロボット忍法帳」という競技課題の下、1チーム2台のロボットが様々なアイデアを駆使し、相手の風船を割り合う対戦形式の競技が行われた。

2017年12月には有明コロシアムにて地区大会を勝ち抜いた全国26チームによる決勝トーナメントが行われた。各高等専門学校の学生の独創的なアイデアに、約6,000人の観客から大きな声援と歓声が送られた。

今大会は高専ロボコンの30回目となり、優勝チームには内閣総理大臣杯が授与された。

写真:競技の様子(北九州工業高等専門学校(チーム名:ReVictor))

写真:10年ぶりの優勝に喜ぶ北九州工業高等専門学校チーム
(ロボット名:ReVictor)

-東京工業高等専門学校-

東京工業高等専門学校では、選手目線の360度映像、VR(バーチャルリアリティ)及びモーションシミュレータを使用して、スポーツ現場の臨場感あふれる体験を実現するスポーツ観戦システムを開発。リアルタイムにアスリートとシンクロすることができるスポーツ観戦システムというアイデアが評価され、全国高等専門学校第27回プログラミングコンテスト(2016年度)課題部門において、文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞するとともに、2017年度第7回ものづくり日本大賞(内閣総理大臣賞)を受賞した。

写真:ものづくり日本大賞授賞式
(東京工業高等専門学校)

写真:デモンストレーションの様子

(3)専門高校の人材育成の現状及び特色ある取組

①専門高校の人材育成の現状

高等学校における産業教育に関する専門学科(農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉の各学科)を設置する学校(専門高校)は、2017年度現在、1,522校設置されており、60万1,354人の生徒が在籍している。2016年度の卒業生19万8,228人のうち、約53%が就職している。そのうち、2017年度現在、ものづくりと関連が深い工業に関する学科は531校に設置されており、24万9,930人の生徒が在籍している。2016年度の卒業生8万811人のうち約68%が就職しており、2017年3月末現在の就職率(就職を希望する生徒の就職決定率)は約99%となっている。職業別では、生産工程に従事する者が約58%を占めており、産業別では、製造業に就職する者が約56%を占めている(表322-6)。

表322-6 専門高校(工業に関する学科)の人材育成の状況

資料:文部科学省「学校基本調査」(就職率は「高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況調査」。就職を希望する生徒の就職決定率を表している。)

②専門高校の人材育成の特色及び取組等

経済のグローバル化や国際競争の激化、産業構造の変化、IoTやAIをはじめとする技術革新や情報化の進展等から、職業人として必要とされる専門的な知識や技術及び技能はより一層高度化している。また、熟練技能者の高齢化や若年ものづくり人材の不足などが深刻化する中で、ものづくりの将来を担う人材の育成が喫緊の課題となっている。

このような中で、専門高校は、ものづくりに携わる有為な職業人を育成し、職業人として必要な豊かな人間性、生涯学び続ける力や社会の中で自らのキャリア形成を計画・実行できる力等を身に付けていく教育機関として大きな役割を果たしている。また、地元企業等での就業体験活動や技術指導など、地域や産業界との連携・交流を通じた実践的な学習活動を行っており、地域産業を担う専門的職業人を育成している。

文部科学省では、2014年度から、社会の変化や産業の動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成することを目的として、先進的な卓越した取組を行う専門高校(専攻科を含む)を指定して実践研究を行う「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)」事業を行っている。

2017年度現在、32校の指定校においては、育成を目指す人材像を明確にして、大学・高等専門学校・研究機関・企業等と連携した講義の実施、最先端の研究指導、実践的な技術指導なども含め、高度な人材を育成するために開発すべき人材育成プログラムについて実践研究が行われており、事業終了後は、それらの成果の活用及び全国への普及を図ることとしている。

工業科を設置する高等学校の指定校では、我が国のものづくり産業の発展に寄与し、第一線で活躍できる専門的職業人を育成している。産学官の連携を一層図り、工業に関する諸課題を解決するための高いレベルの研究指導や技術指導により、生徒が主体的、協働的に学習し、ものづくりの高度な知識や技術及び技能を身に付けることにつながる人材育成プログラムに取り組んでいる。例えば、指定校が設置されている県の基幹産業である機械電子産業をけん引する「数値制御ロボット技術」を通して、地域産業を支え、地域創生に結びつく、新たな価値を創造できるような人材を育成するため、企業技術者等から指導を受けるなど、産業労働政策等とも連動した実践的な学習活動が行われている。

指定校以外の工業科を設置する高等学校では、企業技術者や高度熟練技能者を招いて、担当教員とティーム・ティーチングでの指導による高度な技術・技能の習得や、身に付けた知識・技術及び技能を踏まえた難関資格取得への挑戦などの取組を行っている。また、産業現場における長期の就業体験活動や、先端的な技術を取り入れた自動車やロボットなどの高度なものづくり、地域の伝統産業を支える技術者・技能者の育成、温暖化防止など環境保全に関する技術の研究等、特色ある様々な取組を産業界や関係諸機関等との連携を深めながら実施している。さらに、各地域で開催されるものづくりイベントにおいては、生徒がものづくり体験学習の講師を務めたり、地元企業の技術者等と交流したりすることを通じて、地域のものづくり産業が培ってきた技術力の高さや職業人としての誇りを理解させるなど、ものづくりへの興味・関心を高めている。

また、将来、起業や会社経営を目指す生徒はもちろんのこと、それ以外の生徒においても社会の変化に対応したビジネスアイデアを提案して製品化することができるような、アントレプレナーシップの育成を図るため、生徒の日頃の学習成果や高校生の視点で見た気づきをいかした製品の開発に地元企業と連携して取り組み、試作品の製作や製品企画のプレゼンテーション等を通じて、製品の開発から販売までを体験させる実践的な学習活動も行われている。

工業科以外の農業、水産、家庭等の学科においても、地域産業をいかしたものづくりのスペシャリスト育成に関する教育が展開されている。例えば、農業科においては、規格外農産物などの未利用資源を有効活用した商品開発に向けた研究や、地域の女性起業家と連携したブランド品の共同開発が行われている。水産科においては、未利用資源を貴重な水産資源として有効活用する方法を研究し、地域の特産品を開発するなどの取組や、水産教育と環境教育、起業家教育を融合させた学習活動が行われている。家庭科においては、地場産業の織物技術を活用して、新たな織物やアパレル商品を企画・提案したり、製作したりして地域活性化につながるものづくり教育を進めている。

「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」の取組

-岐阜県立岐阜工業高等学校-

地域の産業労働政策等とも連動した人材育成プログラム

2016年に「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」に指定された岐阜県立岐阜工業高等学校では、指定校が設置されている地域の産業労働政策等とも連動した人材育成プログラムを立案した。このプログラムでは、企業技術者等から指導を受けるなどして、航空機部品の製造や加工に必要な高度な知識及び技術を身に付けた人材の育成や感情認識ロボットのプログラミングができる技術者の育成について、県や地元企業等と連携して様々な実践的な学習活動が行われている。

機械科では、航空宇宙産業への関心を高め、航空機の製作工程に必要な専門的な知識や技術を習得することにより、航空宇宙産業の発展を支えることができる技術者を育成している。また、生徒が自ら、JAXAエアロスペーススクールに応募し選出されるなど、学習成果をより深化させようとする主体的な態度を育成することにもつながった。

電子科では、感情認識機能を有するロボットの制御プログラム開発技法を習得し、医療・福祉・教育の分野で活用できるロボットのプログラム開発を行うとともに、インターネットに接続して相互に通信させることにより、自動認識や自動制御が行えるようにする技術を習得するなど、情報通信産業の振興を担うことができる技術者を育成している。2017年度は、地元の小学生や特別養護老人ホームの入居者などを「顧客」として選定し、ニーズに応じたロボットのプログラム開発を行った。

地元企業や地域の関係機関等と連携した様々な学習活動を通じて、生徒は地域の産業界で必要とされる技術や専門科目の授業と実社会との関連性をより明確に理解するとともに、自分自身の将来を見据えた目標を持つことができ、学習意欲の向上にもつながっている。

写真:地域の企業技術者による航空機部品のリベット止めに関する技術指導
(岐阜県立岐阜工業高等学校)

写真:地域の企業技術者による航空機部品の表面処理に関する技術指導
(岐阜県立岐阜工業高等学校)

コラム:「全国産業教育フェア」における「全国高等学校ロボット競技大会」での取組

発想力と創造力を発揮してロボットを製作し、次世代を担う技術者としての資質を向上

2017年10月21日から22日、「第27回全国産業教育フェア秋田大会」において、「第25回全国高等学校ロボット競技大会」が、「黄金の実り 竿燈に灯し 技と工夫が 今きらめく」のテーマのもと秋田県で開催された。

本競技大会は、全国産業教育フェアの中でも人気の高いプログラムの一つであり、「全国の専門高校等で学ぶ生徒が、ロボット競技大会への参加を目指し、仲間と協力しながら新鮮な発想で工夫を凝らし、創造力を発揮してロボットを製作する。また、その取組の過程を通して、ものづくりへの技術・技能を習得し、次世代を担う技術者としての資質を向上させる」ことを趣旨として開催された。

第25回大会では、開催地である秋田県の特色をいかしたストーリーと課題のもとに競技が行われた。

競技時間は3分間で、リモコン型ロボット「スギッチ」(秋田県マスコット)と自立型ロボット「んだッチ」(大会キャラクター)を巧みに操作して、きりたんぽと稲穂をモチーフにしたアイテムを竿燈に取り付け、その竿燈を竿燈妙技エリアへ運ぶまでを競う難易度の高い競技である。ロボットを製作し、的確に操作する高度な知識・技術はもちろんのこと、豊かな発想力や創造力、仲間とのチームワークが求められる。

全国各地の厳しい予選を勝ち抜いた128チームが出場し、熱戦が繰り広げられた。
(優勝:新潟県立新潟工業高等学校)

写真:文部科学大臣賞を受賞したロボット
(新潟県立新潟工業高等学校)

写真:技術奨励賞(経済産業大臣賞)を受賞したロボット
(宮崎県立佐土原高等学校)

コラム:専門高校の特色ある取組

-福岡県立福岡工業高等学校の取組-

知的財産教育を活用して、創造力や実践力を身に付けた技術者を育成

福岡県立福岡工業高等学校は、工業技術者に必要な専門的な知識やものづくりに関わる技術の習得に加え、知的財産教育を機軸とした、創造力や実践力を高める教育にも積極的に取り組んでいる。

例えば、染織デザイン科では学校近隣の商店の暖簾や幟の製作や、環境化学科では生ごみの堆肥化活動に取り組んでいる。電子工学科では企業と連携してLEDを組み合わせた工作キットを製作するなど、各学科の特色をいかしたものづくり教育を推進している。

また、創造力や発想カを高める教育の一環として、「工業技術基礎」の授業において、特許権などを学習した後に実習を通して創造力や発想力を発揮して製品化し、全員が各自のアイデアを基に高校生パテントコンテストへの応募書類を作成している。さらに「課題研究」では起業家精神の育成にも取り組み、これらの学習活動を通じて複数の生徒が自らのアイデアを製品化して特許権を取得するなど、大きな成果を上げている。

このように、単にものをつくるだけでなく、利便性や付加価値を高めるなどの工夫を凝らしながら、製品の開発から販売までの一連の過程を見据えたものづくりを考えることができる人材の育成を目指して、企業や地域と連携したものづくりや、ビジネスプランの考案などの活動に熱心に取り組んでいる。

また、創造的・実践的な技術者を育成するためには、ものづくりのセンスを高めることも重要であるため、日常生活においても「考えてものを見る」ことを意識するよう日頃から指導している。

このように継続したものづくり人材育成に関する功績が認められ、2017年度第7回ものづくり日本大賞 ものづくりの将来を担う高度な技術・技能分野 青少年支援部門 文部科学大臣賞を受賞した。

工業科を設置する高等学校でのものづくりを通した知的財産教育は、授業の活性化はもちろんのこと、生徒の豊かな創造力や実践力、学習意欲の向上にも役立っている。

写真:学校近隣の商店に寄贈する暖簾等の織り物製作
(福岡県立福岡工業高等学校)

写真:企業との連携による工作キットの製品化
(福岡県立福岡工業高等学校)

(4)専修学校の人材育成の現状及び特色ある取組

①専修学校の人材育成の現状

高等学校卒業者を対象とする専修学校の専門課程(専門学校)では、2017年度現在、工業分野の学科を設置する学校は496校(公立2校、私立494校)となっており、8万6,254人(公立130人、私立8万6,124人)の生徒が在籍している。2016年度の卒業生3万1,833人のうち約81%が就職しており、そのうち関連する職業分野への就職率は約91%を占めている(表322-7)。

表322-7 専修学校の工業分野における人材育成の状況 

資料:文部科学省作成

②専修学校の人材育成の特色及び取組等

人口減少、少子・高齢化社会を迎える我が国にとって、経済成長を支える専門人材の確保は重要な課題である。専修学校は、職業や実際生活に必要な能力の育成や、教養の向上を図ることを目的としており、地域の産業を支える専門的な職業人材を養成する機関として、ものづくり分野においても、地域の産業界等と連携した実践的で専門的な知識・技術を向上させる取組を各地で行っている。このような取組は、ものづくり人材の養成はもとより、地域産業の振興にも大きな影響を与えている。

また、グローバル化や産業構造の変化、技術革新など、社会の高度化・複雑化が進展していく中、専修学校においても、就業者の職業能力の向上やキャリアチェンジに向けた学び直しなど、多様化する社会人の学習ニーズに対する積極的な対応が期待されている。

図322-8 社会人の在学生数の推移(私立専修学校)

私立専修学校における社会人の在学生数は、特に専門学校において多く、また、2016年度においては、約12万7千人の社会人が私立専修学校に在学している(職業訓練等の附帯事業を含む)。

資料:文部科学省 私立高等学校等実態調査 (調査対象:私立の専修学校)

※「社会人」とは、当該年度の5月1日現在において、職に就いている者、すなわち給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いている者、企業等を退職した者、又は主婦等をいう。

文部科学省では、専修学校を始めとした教育機関が産業界等と協働して、地域や産業界の人材ニーズに対応した、社会人が学びやすい教育プログラムの開発・実証を行う取組を推進している。

さらに、企業等との密接な連携により、最新の実務の知識等を身に付けられるよう教育課程を編成し、より実践的な職業教育の質の確保に組織的に取り組む課程を「職業実践専門課程」として文部科学大臣が認定している(学校数954校、学科数2,885学科(2018年2月27日現在))。

本制度は、厚生労働省の教育訓練給付金制度と連携しており、「職業実践専門課程」のうち、就職・在職率等、実績から見て十分な効果があるとみられるものとして厚生労働大臣から専門実践教育訓練の指定を受けた講座は、「専門実践教育訓練給付金」の支給対象としている。

表322-9 職業実践専門課程 認定学校数・学科数

※( )内の数字は全専門学校数(2,822校)、修業年限2年以上の全学科数(7,417学科)に占める割合(修業年限2年未満の学科のみを設置している専門学校数は不明のため全専門学校数に占める認定学科を有する学校数の割合を記載)。2018年2月27日現在

コラム:専修学校における取組

-学校法人第一平田学園中国デザイン専門学校- 

中国デザイン専門学校では、文部科学省から「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の委託を受け、他の専修学校や企業等との産学連携体制を構築し、国内デニム・ジーンズの生産拠点である岡山県をモデルに産業界の求める中核的デニム・ジーンズクリエイターを養成するための学び直し教育プログラムの調査研究・開発・実証に取り組んだ。

具体的には、ジャパンデニム・ジーンズを国外のマーケットに展開するためのマーケティング能力・企画提案力を持った人材を養成するためのカリキュラムや教材等の開発を行うこととし、事業最終年度である2017年度には、これまでの取組の総仕上げとしてアパレル企業就業者を対象にした実証講座を開催し、開発したカリキュラム等の教育効果を検証・反映することで、産業界の求めるカリキュラムとして完成させた。

本事業の成果は、今後、中国デザイン専門学校や参画校における教育実践に活用するとともに、岡山県、岡山県アパレル工業組合、日本ジーンズ協会、各企業等が実施する研修会等においても導入・活用を促進し、普及していく予定である。

写真:デニム・ジーンズ素材における日本の技術の優位性について学んでいる実証講座風景

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