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- 第1部第3章第3節 Society5.0を実現するための研究開発の推進
- 1.ものづくりに関する基盤技術の研究開発


第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発第3節 Society5.0を実現するための研究開発の推進
1.ものづくりに関する基盤技術の研究開発
(1)新たな計測分析技術・機器の研究開発
先端計測分析技術・機器は、世界最先端の独創的な研究開発成果の創出を支える共通的な基盤であると同時に、その研究開発の成果がノーベル賞の受賞につながることも多く、科学技術の進展に不可欠なキーテクノロジーである。このため、(国研)科学技術振興機構が実施する「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を通じて、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発などを産学連携で推進することで、研究開発基盤の強化に取り組んでいる。開発されたプロトタイプ機が製品化に至った事例は、2017年度末の時点で57件になる。
(2)最先端の大型研究施設の整備・活用の推進
①大型放射光施設(SPring-8)の整備・共用
大型放射光施設(SPring-8)は光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析可能な世界最高性能の研究基盤施設である。本施設は1997年から共用が開始されており、環境・エネルギーや創薬など、我が国の経済成長を

写真:SPring-8及びSACLA全景
提供:(国研)理化学研究所
②X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用
X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持った究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。第3期科学技術基本計画(2006年3月28日閣議決定)における国家基幹技術として、2006年度より国内の300以上の企業の技術を結集して開発・整備を進め、2011年6月に世界最短波長の光の発振に成功、2012年3月に共用を開始した。また、早期に利用研究を開拓していくことを目的として、文部科学省は、2012年度から2016年度まで「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」を実施した。画期的な成果も着実に生まれてきており、2017年度には、従来技術では観測できなかった材料が超高速で破壊される瞬間の動画撮影に、世界で初めて成功した。また、電子ビームの振り分け運転注6による2本の硬X線FELビームラインの同時共用が世界で初めて開始されるなど、利用環境の整備も着実に進められており、更なる利用拡大、研究加速や成果創出が期待される。

写真:2017年度に振り分け運転により同時共用を開始された2本の硬X線FELビームラインの全景
提供:(国研)理化学研究所
注6 線型加速器からの電子ビームをパルスごとに複数のビームラインに振り分けることで、複数のビームラインを同時に利用可能とした。これにより、更なる学術研究・産業利用成果の創出が期待される。
③大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用
大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子、ミュオン、ニュートリノ等の多彩な二次粒子を利用して、素粒子物理から革新的な新材料や新薬の開発につながる研究等、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献する施設である。特に中性子は、放射光と比較して軽元素をよく観測できること、ミクロな磁場が観測できること、物質への透過力が大きいこと等の特徴を有するため、他の量子ビームとの相補的な利用が期待されている。2017年には、堅牢性を高めた新たな中性子標的容器を製作し、定常的な1MWビームによる利用運転を目指している。中性子の特徴をいかした成果も多く出ており、例えば、新規太陽電池材料として注目を浴びているぺロブスカイト半導体における高い光-電気変換効率の仕組みを解明し、より高機能な材料設計の指針を明らかにするなど、材料から生命科学まで幅広い分野での研究開発に利用されている。

写真:大強度陽子加速器施設(J-PARC)の全景
提供:J-PARCセンター
④新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源
軟X線に強みを持つ高輝度3GeV級放射光源(次世代放射光施設)は、学術研究だけでなく触媒化学、生命科学、磁性・スピントロニクス材料、高分子材料などの産業利用も含めた広範な分野での利用が期待される。文部科学省では、2016年11月から科学技術・学術審議会 量子ビーム利用推進小委員会において、次世代放射光施設に関し、その科学技術イノベーション政策上の意義、求められる性能、整備・運用の基本的考え方と具体的方策等について審議検討を進めている。2018年1月には、「学術、産業共に高い利用が見込まれる次世代放射光施設を、官民地域パートナーシップにより早期に整備することが必要であり、量子科学技術研究開発機構を国の整備・運用主体として計画を進めていくことが適当である」との検討結果を「新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源の整備等について(報告)」として取りまとめた。

写真:次世代放射光施設(イメージ図)
⑤革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
HPCIは、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「

写真:スーパーコンピュータ「京」(兵庫県神戸市)
提供:(国研)理化学研究所
⑥ポスト「京」の開発
最先端のスーパーコンピュータは、科学技術や産業の発展などで国の競争力を左右するものであり、各国が開発にしのぎを削っている。文部科学省では、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、2021年から2022年の運用開始を目標に、「京」の後継機であるポスト「京」を開発するプロジェクトを推進している。その際、ポスト「京」を活用する重点分野として、ものづくり・創薬・エネルギー分野など計9課題が指定されており、そうした分野で用いるアプリケーションについても、システムと協調的に開発が進められている。
(3)未来社会の実現に向けた先端研究の抜本的強化
①次世代の人工知能に関する研究開発
社会・経済の様々な場面において人工知能の役割への関心が大きく高まっており、人工知能技術の研究開発と社会実装に向けて、2016年4月に創設された「人工知能技術戦略会議」を司令塔として、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の関係府省が連携して取組を進めている。2017年3月に取りまとめた「人工知能技術戦略」において重点分野として特定した「生産性」、「健康、医療・介護」、「空間の移動」分野における人工知能技術に関する研究開発・社会実装について、府省が連携を強化し、一体的に推進している。
3省の具体的な取組として、まず、総務省においては、(国研)情報通信研究機構(NICT) と連携しながら、ビッグデータ処理に基づく人工知能技術や、脳科学の知見に学ぶ人工知能技術の研究開発に取り組んでおり、NICTユニバーサルコミュニケーション研究所において主にビッグデータ解析技術や多言語音声翻訳技術等の研究開発を、また、NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)では脳の仕組みを解明し、その仕組みを活用したネットワーク制御技術、脳機能計測技術等の研究開発を行っている。なお、2017年7月には、情報通信審議会において、「自然言語処理技術」及び「脳情報通信技術」の今後の研究開発及び社会実装に向けた推進方策等に関する「次世代人工知能社会実装戦略」を取りまとめた。
次に、文部科学省においては、「AIP(Advanced Integrated Intelligence Platform Project):人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」として、(国研)理化学研究所に設置した革新知能統合研究センター(AIPセンター)において、革新的な人工知能基盤技術の構築や、再生医療、ものづくりなどの日本が強みを持つ分野を更に発展させるため、また高齢者ヘルスケア、防災・減災、インフラの保守・管理技術などの我が国固有の社会的課題を解決するための人工知能等の基盤技術を実装した解析システムの研究開発を実施するとともに、(国研)科学技術振興機構(JST)において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援を一体的に推進している。
経済産業省においては、先進的な人工知能の開発・実用化と基礎研究の進展の好循環(エコシステム)を形成するため、2015年5月1日に(国研)産業技術総合研究所に「人工知能研究センター」を設立した。人工知能研究センターでは、脳型人工知能やデータ・知識融合型人工知能の大規模目的研究や、人工知能技術の標準的評価手法等の共通基盤技術の整備をすることで、基礎研究を社会実装につなげるための研究開発を実施している。また、海外の研究機関・大学と協力関係を構築しており、国内外問わず活動を進めている。
②ナノテクノロジー・材料科学技術の推進
ナノテクノロジー・材料科学技術分野は我が国が高い競争力を有する分野であるとともに、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤である、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資するとともに、未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術である。
文部科学省では、これらの重要性を踏まえつつ、ナノテクノロジー・材料科学技術に係る、基礎的・先導的な研究から実用化を展望した技術開発までを戦略的に推進している。具体的には、我が国の資源制約を克服し、産業競争力を強化するため、材料の高性能化に不可欠な希少元素(レアアース・レアメタル等)の革新的な代替材料開発を目指し、四つの材料領域(磁石材料、触媒・電池材料、電子材料、構造材料)を特定して、物質中の元素機能の理論的解明から新材料の創製、特性評価までを密接な連携・協働の下で一体的に推進する「元素戦略プロジェクト」等の研究開発プロジェクトや最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学官の利用者に対して最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供する「ナノテクノロジープラットフォーム」を実施している。
(国研)物質・材料研究機構においては、新物質・新材料の創製に向けたブレークスルーを目指し、計測・評価技術、シミュレーション技術、材料の設計手法や新規作製プロセスの開拓、物質の無機、有機の垣根を越えたナノスケール特有の現象・機能の探索など、物質・材料の基礎研究及び基盤的研究開発を行っている。また、環境・エネルギー・資源問題の解決や安心・安全な社会基盤の構築という人類共通の課題に対応した研究開発として、超耐熱合金や白色LED照明用蛍光材料、次世代太陽電池材料等の環境・エネルギー材料の高度化等に向けた研究開発や、機構に設置した構造材料研究拠点において、構造材料の信頼性や安全性を確保するための研究開発を実施している。
さらに、計算科学・データ科学を活用し未知なる革新的機能を有する材料を短期間に開発する「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」を推進している。加えて、ナノテク・材料分野のイノベーション創出を強力に推進するため、基礎研究と産業界のニーズの融合による革新的材料創出の場や、世界中の研究者が集うグローバル拠点を構築するとともに、これらの活動を最大化するための研究基盤の整備を行う事業として「革新的材料開発力強化プログラム~M3(M-Cube)」を開始した。
図331-1 革新的材料開発力強化プログラム~M3(M-Cube)プログラム

図331-2 ナノテクノロジープラットフォームの推進体制(2017年度)

③量子科学技術(光・量子技術)分野における研究開発の推進
経済・社会の様々な課題が複雑化し、資本や競争優位が激しく動く社会の中で、量子科学技術は、先端レーザーによる量子状態制御や、量子情報処理を可能とする物理素子の要素技術等が生み出され始め、サイエンスの進展のみならず、Society 5.0実現に向けた社会課題の解決と産業応用を視野に入れた新しい技術体系が急速に発展する兆しがある。
文部科学省では、2008年度から「光・量子科学拠点形成に向けた基盤技術開発」を実施し、我が国の光・量子技術分野のポテンシャルと他分野のニーズとをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子技術の研究開発を推進し、主な研究開発として、宇宙年齢138億年で1秒も狂わないという極めて高い精度を持つ光格子時計の開発や、加工機市場を塗り替える可能性を持つフォトニック結晶レーザーの開発を進めてきた。
図331-3

光格子時計の原理(左)提供:東京大学・(国研)理化学研究所 香取秀俊教授
フォトニック結晶レーザーの構造(右)
提供:京都大学 野田進教授
上記状況に鑑み、科学技術・学術審議会 量子科学技術委員会において、2016年3月より、量子科学技術の最新の研究動向を俯瞰的に総覧し、量子科学技術が経済・社会に与え得るインパクトや我が国の強み・課題について調査検討を開始した。さらに、時間軸とともに研究・技術がどう進展して何が実現され得るのか等を示すロードマップを、量子情報処理、量子計測・センシング、極短パルスレーザー、次世代レーザー加工の研究・技術領域において策定した。これらを踏まえて今後の推進方策の方向性について「量子科学技術(光・量子技術)の新たな推進方策 報告書」を取りまとめ、2017年8月に公表した。
図331-4

量子シミュレーション(左)提供:自然科学研究機構 分子科学研究所 大森賢治教授
固体量子センサ(中)提供:京都大学 水落憲和教授
レーザー加工(右)提供:東京大学 小林洋平准教授
(4)その他のものづくり基盤技術開発
①ロボット研究に関する取組
文部科学省では、ロボット新戦略の三つの柱のうち[日本を世界のロボットイノベーション拠点とする「ロボット創出力の抜本強化」]の柱における、「次世代に向けた技術開発」に基づき、人とロボットの協働を実現するため、産業や社会に実装され、大きなインパクトを与えるような要素技術となるAI、センシング・認識技術、機構・駆動(アクチュエーター)・制御技術、超寿命の小型軽量蓄電池技術等(特にロボットに新たなモジュールを搭載する場合に重要となるヒューマンロボットインタラクション等)の開発を推進することとしている。経済産業省では、「ロボット新戦略」に基づき、未だ実現していない次世代のAI・ロボット技術のうち中核的な技術の開発を、産学官の連携で2015年度から開始した。これにより、ロボットが場面や人の行動を理解する技術や、柔軟に行動する技術等を開発し、ロボットが日常的に人と協働する、あるいは人を支援するIoT社会の実現に貢献することにより、少子高齢化の中で人手不足やサービス部門の生産性の向上等の課題の解決を図っていく。