文字サイズ変更

第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第3節 Society5.0を実現するための研究開発の推進

2.産学官連携を活用した研究開発の推進

(1)省庁横断的プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」

SIPは、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を発揮して、省庁の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーションを実現するため2014年度に創設したプログラムであり、国民にとって真に重要な社会的課題や日本経済再生に寄与し、世界を先導する11の課題に取り組んでいる。

本プログラムの特長は、課題ごとにプログラムディレクターを選定し、これを中心に省庁連携による分野横断的な取組を産学官連携で推進し、基礎研究から実用化・事業化の出口までを見据えて一気通貫で研究するものであり、社会実装を控えた成果が生み出され、産業界からの評価も高い。

一例として、自動走行システムで開発したダイナミックマップを農業用機械の自動走行やインフラの点検に用いるなど、省庁の壁を越えた成果の活用が見られる。

本プログラムは2018年度までの5年間を期限とするものであるが、2016年12月に取りまとめられた「科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」において、本プログラムの継続的な実施が必要とされており、内閣府において2017年度補正予算によって、次期SIPの予算を措置するとともに、CSTIにおいて2018年3月に新たに12の対象課題とプログラムディレクターを決定した。

図332-1 SIPの実施体制

写真:IT農業を推進する無人トラクターの走行実験

(2)官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)

日本経済の力強い再生を目指し、科学技術イノベーションの一層の活性化、効率化と、経済社会と科学技術イノベーションの有機的連携の強化を図る観点から、「科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」が2016年12月に取りまとめられ、これを踏まえ、2018年度に内閣府にPRISMを創設した。

本プログラムは、研究開発成果の活用による財政支出の効率化への貢献にも配慮しつつ、官民で民間研究開発投資誘発効果の高い領域を「研究開発投資ターゲット領域」に設定。当該領域に関連する施策の提案を各省庁施策から求め、CSTIと産業界で検討した上で対象施策を選定し、推進費を活用して対象施策の事業費の一部を内閣府からも拠出することによって、研究開発を加速するものである。

プログラムの実施に当たっては、ターゲット領域ごとに、予算の配分や評価等に強い権限を持った領域統括を置き、省庁を越えた施策の連携を促すなど、各施策の効率的・効果的実施を確保している。また、対象施策ごとに各省庁がプログラムディレクターを任命し、全体の研究計画の策定・変更、予算配分の権限を集中させることなどを必須要件としており、SIP型マネジメントの各省庁への拡大を図っている。

図332-2 PRISMに係るマネジメント体制

(3)産学共同研究等、技術移転のための研究開発、成果の活用促進

ものづくり基盤技術の高度化や新事業・新製品の開拓につながる多様な先端的・独創的研究成果を生み出す「知」の拠点である大学等と企業の効果的な協力関係の構築は、我が国のものづくりの効率化や高付加価値化に資するものである。

このような産学官連携活動はこれまで増加傾向にあり、大学等と民間企業との共同研究数は2016年度には2万3,021件、大学等における民間企業からの受託研究数は7,319件、大学等の特許権実施等件数は1万3,832件となっているなど、着実に進展している(図332-4)。

一方、1件当たりの共同研究の規模は200万円程度に留まり(図332-5)、未だ我が国の産学官連携は本格化していないという課題がある。

図332-3 オープンイノベーション促進システムの整備(大学)
図332-4 大学等における産学官連携活動

※国公私立大学(短期大学を含む)、国公私立高等専門学校、大学共同利用機関が対象。
※百万円未満の金額は四捨五入しているため、「総計」と「国公私立大学等の小計の合計」は、一致しない場合がある。
※2012年度より特許権実施等件数の集計方法を変更したため点線にしている。

資料:文部科学省「2016年度大学等における産学連携等実施状況について」(2018年2月16日)

図332-5 大学等における民間企業との1件当たりの共同研究受入額の推移

資料:文部科学省「2016年度大学等における産学連携等実施状況について」

このような課題を踏まえ、「日本再興戦略2016」(2016年6月2日閣議決定)においては、これまでお付き合いの連携に留まってきた産学官連携を、大学・研究開発法人・企業のトップが関与する、「組織」対「組織」の本格的産学官連携へと発展させるため、産学官連携の体制を強化し、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を2025年までに3倍に増やすこととされ、「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)においても、引き続き位置づけられた。

これを踏まえ、文部科学省及び経済産業省は、「イノベーション促進産学官対話会議」を共同で開催し、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化する上での課題とそれに対する処方箋を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定し、その普及に努めている。

また、本格的な産学官連携の実現に向けて、(国研)科学技術振興機構では、産学官が集う大規模産学連携拠点を構築し、基礎研究段階から実用化までの研究開発を集中的に実施し、革新的なイノベーションの創出を目指す取組として、2013年度より「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」を実施している。トライアル拠点として採択された中から正式拠点に昇格した拠点を含め、18のCOI拠点が活動を推進している。

さらに、2016年度より「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業からなるコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生等の人材育成、大学の産学連携システム改革等とを一体的に推進することで、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーション注7の本格的駆動を図ることを目指している。

加えて、2018年度より、文部科学省では、大学において、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究を集中的にマネジメントする体制を整備するため、高度なマネジメント機能の構築を支援する「オープンイノベーション機構の整備」を開始する。

注7 単独では解決できない研究開発上の課題に対して、他機関との連携など、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、それを自らの技術として取り込むことによって課題を解決するもの。

大学発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあったが、近年は回復基調にあり、2016年度の実績は127件となった。ベンチャー・エコシステムの形成を目指す上で、今後は、真に市場ニーズを捉え、強くグローバルに成長することのできる質の高い大学発ベンチャーの創出に向けて、創業後の販路開拓などのビジネス面を含め、持続的な経営に資する環境を整備していく必要がある。

このため、(国研)科学技術振興機構では、起業前の段階から、公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、成長性のある大学等発ベンチャーの創出を目指した支援を行う「大学発新産業創出プログラム(START)」を実施している。さらに、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」を実施し、(国研)科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業の設立・増資に際して、出資、人的・技術的援助を行うことにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。

また、文部科学省では、学部学生や大学院生、若手研究者等に対するアントレプレナー育成プログラムの実施により、我が国のベンチャー創出力を強化する「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を2017年度から実施している。

図332-6 大学等発ベンチャーの設立数累計

※本調査における大学等発ベンチャーとは、大学等の教職員・学生等を発明者とする特許を基に起業した場合、関係する教職員等が設立者となった場合等における企業を指す。

資料:文部科学省「2016年度大学等における産学連携等実施状況について」(2018年2月16日)

図332-7 各国の起業活動率

資料:経済産業省「2016年起業家精神に関する調査(GEM)」に基づき文部科学省作成

その他の取組として、(国研)科学技術振興機構においては、産学連携により大学等の研究成果の実用化を促進するため、大学等の成果を活用した産学による共同研究開発(「研究成果最適展開支援プログラム」)、大学等における研究成果の戦略的な海外特許取得の支援や、大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進、大学等の特許情報のインターネットでの無料提供(J-STORE)等を通じて、大学等の知的財産活動の総合的活用を支援する「知財活用支援事業」を実施している。

また、研究開発税制について、共同研究などを通じた試験研究を促進するため、民間企業等が大学等と行う試験研究のために支出した試験研究費について、一般の試験研究費よりも高い税額控除率を適用できる措置を設けている。

(4)大学等における研究成果の戦略的な創出・管理・活用のための体制整備

大学等の優れた研究成果をいかすためには、成果を統合発展させ、国際競争力のある製品・サービスとするための産業界との協力の推進が不可欠であり、これはものづくり産業の活性化にも資するものである。そのため、大学等において、研究成果の民間企業への移転を促進し、それらを効果的にイノベーションに結びつける観点から、戦略的な産学官連携機能の強化を図っている。

1998年に制定された「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(大学等技術移転促進法)」は、上記のような研究成果移転の促進により、我が国の産業の技術の向上と大学等における研究活動の活性化を図ることを目的とした法律である。本法に基づき実施計画を承認されたTLO(Technology Licensing Organization)注8は、2017年度末で35機関に上り、これらの機関の特許実施許諾件数は9,120件(2016年度)となっている。

注8 大学等の研究成果に基づく特許権等について企業に実施許諾を与え、その対価として企業から実施料収入を受け取り、大学等や研究者(発明者)に研究資金として還元することなどを事業内容とする機関。

(5)地域科学技術イノベーション創出のための取組

地域における科学技術の振興は、地域産業の活性化や地域住民の生活の質の向上に貢献するものであり、ひいては我が国全体の科学技術の高度化・多様化につながるものとして、国として積極的に推進している。一方、地域イノベーション・エコシステムの形成と地方創生の実現に向けては、イノベーション実現のきっかけ・仕組みづくりの量的拡大を図る段階から、具体的に地域の技術シーズ等をいかし、地域からグローバル展開を前提とした社会的なインパクトの大きい事業化の成功モデルを創出する段階へと転換が求められている。

このため、文部科学省では、2016年度より開始した「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」により、地域の成長に貢献しようとする地域大学に事業プロデュースチームを創設し、地域の競争力の源泉(コア技術等)を核に、地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、リスクは高いが社会的インパクトが大きい事業化プロジェクトを支援している。2017年度までに全14地域が採択されている(図332-8)。

図332-8 地域イノベーション・エコシステム形成プログラム支援地域一覧

さらに、これまでにも文部科学省、経済産業省、農林水産省及び総務省では、地域イノベーションの創出に向けて、地方公共団体、大学等研究機関、産業界及び金融機関の連携・協力により策定した主体的かつ優れた構想を持つ地域を「地域イノベーション戦略推進地域」として共同で選定を行い、2013年度以降、関係府省の施策を総動員して、大学における基礎研究から企業における事業化までを切れ目なく支援してきている。特に、文部科学省では、当該選定地域のうち、地域イノベーション戦略の実現に大きく貢献するとみられる地域に対し、研究者の集積、知的財産の形成、人材育成等のソフト・ヒューマンを重視した取組を支援する「地域イノベーション戦略支援プログラム」を実施してきている(図332-9)。

また、(国研)科学技術振興機構において「地域産学バリュープログラム」により、マッチングプランナーが各地の企業の開発ニーズを把握し、その解決に向けて、全国の大学等発シーズと戦略的に結び付け、共同研究から事業化に係る展開等を支援するなど、高付加価値・競争力のある地域科学技術イノベーション創出を図っている。

なお、都道府県等においても、科学技術振興策を審議する審議会等を設置するとともに、独自の科学技術政策大綱や指針等を策定するなど科学技術振興への積極的な取組がなされているところである。

図332-9 地域イノベーション戦略支援プログラム支援地域一覧

資料:JILPT前掲調査

コラム:光の尖端都市「浜松」が創成するメディカルフォトニクスの新技術

浜松地域では、大学・企業等が連携し光・電子技術の研究開発や産業応用を推進し、「光の尖端都市浜松」を目指した取組が行われている。静岡大学では、顕微鏡手術のようなマイクロ手術が可能な低侵襲立体内視鏡開発に係るプロジェクトや、高性能なイメージセンサを用いた周辺機器に係るプロジェクトを進めている。

地域におけるイノベーション・エコシステム形成のためのプロデューサー人材を静岡大学内に配置し、浜松医科大学等との連携による医工連携の推進と人材育成を展開するとともに、浜松市が取り組む中小企業等を対象として成長分野への研究開発費の補助等を行う新産業創出支援事業とも連動し、地域ものづくり企業の成長戦略に寄与している。

写真:新しい立体内視鏡の開発

<<前ページへ | 目次 | 次ページへ>>

経済産業省 〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1代表電話03-3501-1511
CopyrightMinistryofEconomy,TradeandIndustry.AllRightsReserved.