国際機関によるALPS処理水海洋放出の安全性確認

国際原子力機関IAEAから、ALPS処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致していること等を結論付ける「包括報告書」が2023年7月4日に公表されました。
本ページでは、このIAEAの包括報告書の内容について解説します。

ポイント

○IAEAは原子力分野について専門的な知識を持った権威ある国連の関連機関(安全基準を策定・適用する権限を保有)であり、専門的な立場から第三者としてレビュー(検証)を実施

○レビューの結果として、ALPS処理水の海洋放出は、「国際安全基準に合致」し、「人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである」といった結論が盛り込まれた包括報告書を2023年7月4日に公表

○IAEAは、放出前のレビューだけではなく、放出中・放出後についても長年にわたってALPS処理水の海洋放出の安全性確保にコミット

○グロッシーIAEA事務局長は「この包括報告書は、国際社会に対し、処理水放出についての科学的知識を明確にした」、「処理水の最後の1滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる」とコメント

ALPS処理水って何?
トリチウム濃度の比較

東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、ALPS※によって安全基準を満たすまで浄化した水のことです。

トリチウムについても、安全基準の40分の1 (WHO飲料水基準の約7分の1) 未満になるまで、処分する前に海水で大幅に薄めます。

詳しくは本WEBサイトの解説ページや解説動画をご覧ください。

※ALPS:様々な放射性物質を取り除いて浄化する設備の名称

トリチウム濃度の比較
IAEAってどんな組織?
IAEAってどんな組織?

レビューをおこなった国際原子力機関(IAEA)とは、どんな組織なのでしょう?包括報告書の内容を見ていく前に、あらためておさらいしましょう。

IAEAは、国際連合(国連)の後援のもと、1957年に自治機関として設立されました。原子力に関する国を越えた協力を進めている国際機関です。

IAEAは、査察官を世界各国の現場に派遣して原子力が平和利用されているかを検証したり、原子力の安全に関する国際的な基準をつくったり、原子力をこれから導入しようと検討している国などに専門知識を提供するなどの取組をおこなっています。最近では、ウクライナでの原子力発電所の安全確保をサポートする活動も注目されていましたから、「そういえば国際ニュースでIAEAの名前を聞いたな」という人も多いことでしょう。つまり、原子力に関する世界の専門家で構成された組織なのです。

IAEAってどんな組織?

今回実施されたIAEAのレビューは、「徹底した安全対策による安心の醸成」を目的とした対策のひとつで、国際機関など第三者による監視および透明性の確保の一環として、日本からIAEAに厳しく安全性をレビューしてもらうことを依頼したものです。2021年4月の方針決定直後に、梶山経済産業大臣(当時)がIAEAのグロッシー事務局長とテレビ会議を実施し、厳密で透明性のあるレビューを要請しました。

これを受けて、2021年9月にIAEAの幹部が訪日し、レビューが開始されました(参考:ニュースリリース)。

IAEAが公表した包括報告書の内容は?

ALPS処理水の海洋放出の安全性について、
これまでの約2年間のレビューを総括する報告書(包括報告書)が2023年7月4日に公表されました。
ALPS処理水の海洋放出は「国際安全基準に合致している」といった結論が述べられており、国際安全基準に合致していると評価されたポイントは主に以下のとおりです。

IAEAはいつどんなレビューをしたの?

人と環境への
放射線影響

○ALPS処理水の放出は、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響になる。

- 放射線環境影響評価は国際基準に適合して実施されている(食物連鎖や生物濃縮等も考慮)。

- ソースターム(放出前に評価するALPS処理水中の放射性物質の種類)は、十分に保守的でかつ現実的。

- 海洋拡散モデルに基づき、国際水域は、海洋放出の影響を受けないため、越境影響は無視できるほど。

放出制御の設備・プロセスの健全性

○ALPS処理水の放出を制御するシステムとプロセスは堅固である。

○緊急遮断弁や放射線検出器などが重層的にシステムに組み込まれている。

規制による
管理と認可

○規制委員会は日本国内の独立した規制機関として、安全に関する適切な法的・規制の枠組みを制定・実施している。

分析/ソース・
環境モニタリング

○政府と東京電力のモニタリングに関する活動は、国際安全基準に適合している。

○IAEAと第三国分析機関が行った分析結果によれば、東京電力はALPS処理水の放出にあたり、適切で精密な分析を実施する能力と持続可能で堅固な分析体制を有する。

○IAEAと第三国分析機関のいずれも、有意に存在する追加の放射性核種(すなわち、ソースタームに含まれている以外の放射性核種)を検出しなかった。

IAEAはいつどんなレビューをしたの?
IAEAはいつどんなレビューをしたの?

IAEAによるレビューは、①ALPS処理水の安全性、②規制プロセスの妥当性、③独立したサンプリング・裏付け分析 の大きく3つに分かれていて、それぞれ以下のタイムラインでレビューが実施され各報告書が公表されました。

2023年7月4日に公表された「包括報告書」はこの3つのレビューを総括したものになっています。

なお、レビューのチームには、IAEAの専門家に加え、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、マーシャル諸島、韓国、ロシア、英国、米国、ベトナムからの国際専門家も参加しています。

IAEAはいつどんなレビューをしたの?

①ALPS処理水の安全性:
ALPS処理水の性状や放出計画などについて、「安全性」の面に特化して集中的に評価。(東京電力、経済産業省が対応)

2022年 2月14日~18日 第1回レビューミッション
4月29日 第1回報告書公表(第1報告書)(参考:ニュースリリース
11月14日~18日 第2回レビューミッション
2023年 4月5日 第2回報告書公表(第4報告書)(参考:ニュースリリース

(第1回報告書の指摘が適切に反映されていること、IAEA側の理解が深まったこと、追加ミッションは必要ないことが明記)

②規制プロセスの妥当性:
安全規制をおこなう主体である「原子力規制委員会」の対応を評価。(原子力規制委員会が対応)

2022年 3月21日~25日 第1回レビューミッション
6月16日 第1回報告書公表(第2報告書)(参考:原子力規制庁資料
2023年 1月16日~20日 第2回レビューミッション
5月4日 第2回報告書公表(第5報告書)(参考:原子力規制庁資料

(第1回報告書の指摘が適切に反映されていること、IAEA側の理解が深まったこと、追加ミッションは必要ないことが明記)

③独立したサンプリング・裏付け分析:
ALPS処理水と環境中の放射性物質のモニタリングを独立した立場において実施することで、日本の公表データを検証。(東京電力、関係省庁が対応)

2022年 3月 第1回 分析機関間比較(Interlaboratory Comparison :ILC)(2022年3月採取)には、韓国・フランス・米国・スイスの分析機関が参加

※IAEAからはIAEA海洋環境研究所(モナコ)、陸域環境放射化学研究所(サイバーズドルフ)、同位体水文学研究所(ウィーン)の3つの研究所が参加

10月 第2回・第3回 ILC(2022年10月採取)には韓国の分析機関が参加

※IAEAからは第1回と同様の3つの研究所が参加

12月29日 分析手法に関する報告書公表(第3報告書)(参考:ニュースリリース
2023年 5月31日 第1回分析結果に関する報告書公表(参考:ニュースリリース

(東京電力によるALPS処理水の放射性物質の分析結果及び分析能力について、IAEAの独立した立場からデータの裏付けがなされ、高水準の正確性と能力を持つと証明)

IAEAの今後の関与

○今まで実施してきた放出前のレビューだけではなく、放出中・放出後についても長年にわたってALPS処理水の海洋放出の安全性確保にコミットする。

- 東京電力福島第一原子力発電所での活動を継続し、放出に関するデータをリアルタイムで国際社会に提供していく。

- 追加のレビューやモニタリングを継続し、国際社会に透明性と安心を提供する。

と包括報告書で言及しており、

グロッシー事務局長も「処理水の最後の1滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる。ただとどまるだけではなく、実施状況をレビューし、点検・確認をしていく。」とコメントしています。

ページのトップに戻る