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- 新型コロナウイルス感染症による輸出の変化と日本経済へのインパクト
新型コロナウイルス感染症による輸出の変化と日本経済へのインパクト
2020年に入り、世界的大流行となった新型コロナウイルス感染症ですが、世界各国で同時多発的に発生したため、各国の貿易に大きな影響を及ぼし、日本でも貿易に大きな変化が生じています。今回は、日本からの輸出の変化とそれによる日本経済へのインパクトについてみてみたいと思います。
輸出は2020年3月から大幅続落
貿易統計(財務省)で日本の輸出額の直近の動きをみると、2月下旬以降、新型コロナウイルス感染症の影響が世界的に拡大したことにより、2020年3月から同年5月にかけて約2.1兆円輸出額が減少しました。6月以降は持ち直しに転じ、12月には前年同月比で新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前の水準まで回復しています。

感染症の影響により、特に軽油と乗用車の輸出が減少。食料品の輸出は増加
2020年の輸出額の減少率を品目別に比べて見ると、「鉱物性燃料」と「輸送用機器」が特に落ち込んだことがわかります。
石炭や石油製品といった「鉱物性燃料」についてみると、中でもトラックなどのディーゼルエンジンに使用される「軽油」の減少が大きく、特にオーストラリア向けの減少が大きくなっています。ただ、2020年はオーストラリアの軽油輸入量自体は前年比で増えており、他方、日本の原油処理量と軽油生産量は前年比で大幅に減少していますので、日本での石油製品の減産が主な要因ではないかと考えられます 。
また、「輸送用機器」の落ち込みも大きく、中でも「乗用車」が減少しており、米国向け乗用車の輸出減少の影響が大きくなっています。ただ6月には回復に転じ、9月以降、「輸送用機器」の輸出は徐々に感染症拡大前の状況に戻りつつあります。
一方、「食料品」は多少ながら前年同月比で増加しています。特に醤油や味噌といった「その他の調整食品」が増加しているほか、「酪農品及び鳥卵」や「穀物及び同調整品」も増加しています。2020年後半に入り、主に香港を始めアジア向けの輸出が上昇したようです。

感染症による輸出額の変化が国内生産にもたらした影響
上記のように、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年3月から11月まで輸出額の水準は前年比で低下していましたが、この間の輸出額の変化が国内産業の生産活動に与えた影響について、2017年延長産業連関表を用いて試算してみました。
2020年3月から11月までの輸出額の落ち込みは、国内産業全体の年間の生産を前年比で約マイナス16.4兆円減少する結果となりました。産業別に見ると、「乗用車」が含まれる「輸送機械」においては、まず直接の輸出品生産額が約マイナス3.5兆円の減少、また各輸出品の生産に使用するための間接生産誘発額が約マイナス2.3兆円の減少で、合計約マイナス5.8兆円の減少、次いで「鉄鋼」については、輸出品生産額が約マイナス0.5兆円の減少、間接生産誘発額が約マイナス1.5兆円の減少で合計約マイナス2.0兆円の減少となりました。直接の輸出品生産額の減少が最も大きく、加えて部品産業の裾野も広い「輸送機械」の生産への影響が一番大きくなっており、次いで、様々な業種で原材料として使われる「鉄鋼」の生産への影響が二番目に大きくなっていました。
その他、同期間の輸出額の減少により国内生産額が大きく減少した業種としては、はん用機械、電気機械、石油製品と続いていますが、これらと比較すると、先に述べた輸送機械と鉄鋼については、輸出額の減少そのものだけでなく、輸出品生産のために行われる間接的な生産の減少効果も大きかったことがわかります。
なお、この感染症の影響による輸出減少の生産への影響規模を試算すると、特に生産額の減少が大きかった輸送機械では生産額58.0兆円(2017年延長産業連関表)に対してマイナス10.2%の減少、鉄鋼では生産額26.2兆円(同上)に対してマイナス7.7%の減少、はん用機械では生産額10.9兆円(同上)に対してマイナス9.5%の減少となります。今回の感染症の世界的大流行により、直接の輸出減少のみならずサプライチェーンを通じた間接的な影響も加わり、これらの産業では生産に特に大きな影響が表れたと考えられます。

なお、上でも述べたように、2020年12月以降、輸出額全体の水準は前年同月比でプラスとなりつつあるものの、今なお感染症の影響は続いています。2021年は、WTO(世界貿易機関)の見通しでは世界の財貿易量は2020年比で回復に向かうものの2019年の水準には至らず 、また、日本政府の経済見通しでも2021年度の輸出額は回復に向かうものの2019年度の水準には達しないとされていますが、今後の輸出の動向も注視したいと思います。
問合せ先
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