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経済解析室ひと言解説集
- 日系製造業の海外現地法人の研究開発費の動向;研究開発のグローバル化は進むのか?
日系製造業の海外現地法人の研究開発費の動向;研究開発のグローバル化は進むのか?
- 日系製造業の海外での研究開発費はリーマンショック前と比較して1.6倍に
- アジアの輸送機械工業、北米の化学工業・輸送機械工業などで研究開発費が増加
- 1社当たりの研究開発費は北米が圧倒的に高いがアジアなども増加
あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットなど、技術の進展が社会のあり方を大きく変えると見込まれている一方、企業活動のグローバル化も様々な形で進みつつありますが、こうした中、日本企業の研究開発活動はどのように変わってきているのでしょうか。
今回は、日系製造業の海外現地法人(注)の研究開発費の動向について見ていきたいと思います。
(注)ここでは海外現地法人とは、海外子会社(日本側出資比率が10%以上の外国法人)と、海外孫会社(日本側出資比率が50%超の海外子会社が50%超の出資を行っている外国法人)を総称して指しています(経済産業省「海外事業活動基本調査」)。
日系製造業の海外での研究開発費はリーマンショック前と比較して1.6倍に
研究開発費について、国内企業分(国内)を「科学技術研究調査報告」(総務省)、海外現地法人分(海外)を「海外事業活動基本調査」でみてみると、国内、海外ともに2009年度に大幅に減少しています。しかし海外の研究開発費は2010年度から5年度連続で増加し、その後2015年度以降は連続で前年度比マイナスとはなったものの、リーマンショック前の2007年度と2016年度で比較すれば1.6倍と大幅に増加しています。

海外研究開発費比率をみてみると2007年度の3.1%から2016年度では5.1%と2.0ポイント上昇しています。他方、売上高比率でみると、2016年度では製造業の海外現地法人の売上高比率は2割程度ありますので、これからすれば海外の研究開発費の比率は近年上昇しているとはいえ、今後まだまだ伸びる余地があるのかもしれません。
アジアの輸送機械工業、北米の化学工業・輸送機械工業などで研究開発費が増加
では海外での研究開発費の動きを地域別にみてみましょう。リーマンショック後の海外での研究開発費の増加を牽引したのは主にアジアと北米です。製造業の海外進出の加速から海外現地法人数は大幅に増加しましたが、その中でアジアにおいては法人数も研究開発費も増加しているのに対し、北米では法人数に大幅な変動はないものの研究開発費のみ増加しているという違いがみられます。

増加に寄与したアジアでの研究開発費を2007年度と2016年度で比較すると、2.2倍になっています。ASEAN4、NIEs3も増加しているものの、アジアの増加分の7割近くは中国によるものです。この中国での研究開発費の業種別構成比をみてみると、輸送機械工業が30%から46%と拡大しており、これがアジアの研究開発費の増加を牽引したことがわかります。

次に北米での研究開発費ですが、2007年度と2016年度で比較すると1.6倍になっています。業種別構成比の比較では化学工業、輸送機械工業が構成比を上昇させており、この2業種が北米の増加を牽引したことがわかります。なお北米の研究開発費の98%程度はアメリカが占めています。
1社当たりの研究開発費は北米が圧倒的に高いがアジアなども増加
では研究開発費を支出している海外現地法人の1社当たりの研究開発費はどうなっているのでしょう。これを2007年度と2016年度で比較してみましょう。

全地域では2016年度で1社当たり4億28百万円と2007年度の1.4倍となっています。
アジアでは1社当たりの研究開発費は北米や欧州と比較してまだまだ低いものの、中国は2.0倍、NIEs3は1.4倍、ASEAN4は2.2倍(対2006年度)などと増加しています。中国の1社当たりの研究開発費を業種別にみると、輸送機械工業をはじめどの業種も増加しています。
北米では2007年度時点でも1社当たりの研究開発費は他の地域と比較して高かったのですが、その後、化学工業、輸送機械工業などが更にこれを押し上げ、2016年度では2007年度との比較で1.8倍の1社当たり10億82百万円と、他の地域を引き離して高い水準の研究開発費となっています。
このように海外現地法人の研究開発費は、リーマンショック前と比較すれば増加しています。これは海外現地法人の担う役割が「現地生産」や「販売」、「調達」などに加え、「研究開発」にも重きを置きつつあることの表れなのかもしれません。2015・2016年度では海外研究開発費は減少、海外研究開発費比率もわずかではありますが低下していますが、業種別にみると電気機械工業、業務用機械工業などの業種は海外研究開発費比率も高まってきています。
海外現地法人の研究開発費の中には、自社で立ち上げた現地法人が行う研究開発によるもののみならず、研究開発を行う現地企業への出資や買収などによるものもあると考えられますが、今後、日本企業の研究開発のグローバル化はさらに進んでいくのでしょうか?興味深いところです。
<海外事業活動基本調査のページ>
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result-1.html
問合せ先
経済産業省 大臣官房 調査統計グループ 経済解析室
電話: 03-3501-1511(代表)(内線2851)、03-3501-1644(直通)
FAX : 03-3501-7775
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