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経済解析室ひと言解説集
- 新型コロナウイルス感染拡大の鉱工業生産への影響-リーマンショック、東日本大震災の事例との対比―
新型コロナウイルス感染拡大の鉱工業生産への影響-リーマンショック、東日本大震災の事例との対比―
- 鉱工業生産への影響は急速に拡大
- リーマンショック時は上昇過程に入るまでに6か月を要した
- 東日本大震災時は、発生月の翌月から上昇に転じる
- 鉱工業生産は、需給両面の制約に直面しており、回復は長引く可能性に注意
鉱工業生産への影響は急速に拡大
新型コロナウイルス感染症の世界規模での感染拡大や、国内でも緊急事態宣言の発出等による感染拡大防止への取組により、4月の鉱工業生産はマイナス9.1%(速報値)と大幅に低下し、現行2015年基準で最低水準となりました。製造工業生産予測指数によれば、5月もマイナス4.1%(例年のバイアスを補正した試算値ではマイナス5.7%)と大幅低下となっており、生産は今後も低下局面が続くかが危惧されています。
下のグラフのように、鉱工業生産への新型コロナウイルス感染拡大の影響は、本年2月から現れ始め、急速に拡大しています。
そこで、過去の急激なリスクが鉱工業生産にどのような影響を与えたのか、リーマンショックと東日本大震災を例にみてみます。

リーマンショック時は上昇過程に入るまでに6か月を要した
2008年9月のリーマンショック時は、翌月の10月には我が国鉱工業生産にも影響が出始め、翌年2月まで5か月連続で低下し、3月に6か月振りに上昇に転じました。
この間、鉱工業生産は、2008年9月から翌年2月までの間に季節調整済指数でマイナス30.4%と、3割も水準を低下させました。

リーマンショックの際は、米国を中心とする金融不安などもあり、我が国の景気も弱まりを見せていた時期に、2008年9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻を契機に世界的な金融危機へと発展し、世界同時不況と呼ぶべき状況になりました。こうしたなかで、日本でも、外需の大幅な減少から影響は広がっていきました。
以下は、鉱工業出荷を輸出向け・国内向けに分けた鉱工業出荷内訳表に基づく当時のデータです。2008年11月から輸出向け出荷は急速に低下し、その影響は国内向けを含めた鉱工業全体に波及しました。

業種ごとの生産動向をみると、輸出の割合の大きい自動車を含む輸送機械工業や電子部品・デバイス工業が半分近く低下しています。また、素材系の鉄鋼業や非鉄金属工業も大幅に低下しています。
なお、この間、ほとんどの業種が大幅低下となっている中、石油・石炭製品工業(3.9%)、食料品・たばこ工業(3.5%)の2業種は上昇しており、ライフライン的な産業は不況の影響が小さかったことがうかがえます。
鉱工業生産は、2009年3月に上昇に転じた後、V字回復となり、翌10年4月まで上昇し続けました。ただ、その後も鉱工業生産はリーマンショック前の水準には戻っていません。

東日本大震災時は、発生月の翌月から上昇に転じる
東日本大震災時は、鉱工業生産は地震が発生した2011年3月にマイナス16.5%と今回の4月より大きなマイナスを記録しました。一方、翌月には上昇に転じ、その後5か月連続で上昇し、概ね震災前の水準に戻しています。
これは、景気も持ち直し過程にあったなか、震災により供給制約が生じたものの、西日本に生産体制を集中できたこと、消費や設備投資の回復等で需要が戻ったことが持ち直しを主導したことなどによるものと思われます。
よって、今回の新型コロナウイルス感染拡大による影響とは異質なものと思われます。

鉱工業生産は、需給両面の制約に直面しており、回復は長引く可能性に注意
今回の新型コロナウイルス感染症による「危機」が、リーマンショック時と大きく異なるのは、諸外国でも我が国でも外出禁止令や外出自粛要請などの社会的制約が生じたことで、海外・国内とも需要・供給の双方が抑えられていることにあります。
5月中には、諸外国でも経済活動再開の動きがあり、我が国でも感染症をめぐる緊急事態宣言は解除されましたが、各種自粛等の要請は残っており、またサプライチェーンの混乱も続くなど、需給両面での制約は続いています。
鉱工業生産の回復には、国内外での実需が戻ってくることとともに、供給面での制約が解消されていくことが重要ですが、感染拡大防止のための生活様式が国内外で求められ、感染の第2波等への懸念もあるなか、今後一旦底を打った後も、生産水準の回復には時間を要する可能性があることにも注意してみていく必要があります。
問合せ先
経済産業省 大臣官房 調査統計グループ 経済解析室
電話: 03-3501-1511(代表)(内線2851)、03-3501-1644(直通)
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