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訪日外国人旅行消費の蒸発の影響試算;年間で9割減少すると、GDPに0.8%の押し下げ効果

2019年の訪日外国人数は3,188万人で、その消費額は4兆8千億円

我が国を訪れる外国人の数は、年々増加し、2018年には初めて3千万人を超え、2019年は、3.188万人(日本政府観光局)となっています。世界各国ごとの外国人訪問者数では、第11位(同)となっているようです。

これだけ多くの外国人が我が国を訪れれば、その消費額も大きく、観光庁の調査によりますと、2019年の訪日外国人旅行消費額は、年間4兆8千億円に及びます。

この4兆8千億円にも及ぶ訪日外国人の旅行消費は、我が国経済に大きく貢献しています。一方、今回の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う入国制限等により、2月から大幅に減少し、3月には前年同月比93%減、4月以降は外国人の訪日はほぼゼロの状態が続いており、観光関連産業に大きなダメージとなっています。

そこで、訪日外国人旅行消費が我が国経済・産業にどの程度の影響があるのか分析してみたいと思います。

これらの消費額は、直接的な需要ですが、こうした新たな需要が生じたときに行われる生産は、需要が生じた産業だけでなく、原材料等の取引などのBtoBを通じて関連する他の産業にも波及します。例えば、ホテルは外国人客のために食材として魚や野菜などを仕入れますので、農業や漁業にも外国人旅行需要が波及します。このような波及効果は、産業連関分析によって求めることができます(参考)。

訪日外国人旅行消費の産業連関分析による生産波及効果;7兆8千億円で、消費額の1.75倍

今回、最も直近の産業連関表である2016年の延長産業連関表(経済産業省)を用いて、2019年の訪日外国人旅行消費額の生産波及効果を分析してみます。

生産波及効果とは、新たに需要が発生したときに、その需要を満たすために次々と新たな財貨・サービスの生産が誘発されていくことを言います。

なお、今回の分析は、訪日外国人の日本国内での消費をターゲットとしていますので、新型コロナウイルス感染症拡大での影響が深刻な国際航空、国際空港などは対象から外れることになります。

上述の分析により、2019年の訪日外国人旅行消費の生産波及効果(消費額を含む)を試算すると、7兆7,756億円で、消費額の1.75倍となりました。つまり、消費額の75%の新たな生産を生じさせることになります。

以下は、生産波及効果の大きい上位15部門を、訪日外国人旅行消費の多い主要な国・地域別に表したものです。これに沿って、特徴的なことをみていきたいと思います。

まず部門をみてみると、旅行消費ということで「飲食・宿泊サービス」が圧倒的に大きく、全体の約30%を占めます。特徴的なところでは、「その他の対事業所サービス」が第4位と波及が大きくなっています。これは、「商業」、「食料品たばこ」など比較的派遣労働者の利用率が高い業種が上位にあることから、この部門にある「労働者派遣サービス」の波及が大きくなっているものと考えられます。

次に、国・地域別にみてみましょう。波及効果が全世界の約35%を占める中国は、他の国・地域と異なり、1位の「宿泊・飲料サービス」と「商業」の波及額がほぼ同じ程度となっています。これは、実際の消費額のうち「買物代」が非常に大きく全体の50%以上を占めるため、商業への波及が大きくなっているものと思えます。また、中国では化学最終製品(医薬品を除く。)が4位になっています。この部門は中国人旅行者が化粧品類を大量に購入するためと考えられます。

一方で、米国は、買物代が他の国・地域と比べ非常に小さいことから商業への波及も小さく、中国の10分の1以下、台湾の3分の1程度となっています。「土産」に対する文化の違いもあると思われます。

生産波及効果の付加価値誘発額は4兆円で、GDPの0.7%相当

これまでは、生産誘発額を見てきましたが、生産誘発額はアウトプットの総額で、売上高に相当するものです。この生産誘発額がGDP(国内総生産)に対してどの程度のものか見るために、産業連関表の付加価値率を用いて、付加価値誘発額を計算することができます。

下表は、訪日外国人旅行消費額の生産波及効果に、延長産業連関表の付加価値率を乗じて求めた付加価値誘発額です。

付加価値誘発額は、4兆230億円となりました。2019年の名目GDPは553兆9,622億円(二次速報値:内閣府)ですので、GDPの0.7%に相当することとなります。名目GDPの成長率は、2018年が0.2%、2019年が1.2%などとここのところ低い成長率となっていますので、訪日外国人旅行消費はGDPを押し上げる重要なファクターであるといえます。

二次波及効果も加えた総効果は9兆4千億円、付加価値誘発額ではGDPの0.9%相当

付加価値誘発額の一部である雇用者所得誘発額は、一部が消費に回ることにより、さらに生産が誘発されます。この二次波及効果は、1兆6,742億円となりました。一次の生産誘発額を加えた総効果は、9兆4,498億円にのぼります。

また、一次の生産波及効果と二次波及効果を合わせた総効果の付加価値誘発額は、5兆円となり、GDPの0.9%に相当することとなります。

観光関連産業を中心に様々な分野に影響、年間旅行消費9割減ではGDPに0.8%の押し下げ効果

現在、我が国の入国制限については、ビジネス目的に限り、一部の国とは制限緩和の動きがでていますが、観光目的については、制限緩和は当分先になるものと考えられます。ビジネス目的の入国であっても、公共交通機関不使用、14日間の自宅等待機(待機期間中のビジネス活動を望む場合には、「本邦活動計画書」(滞在場所、移動先等を記載)の提出)等といった追加的な防疫措置を条件に試行することとなっています。訪日外国人の自由な観光が可能となるのは、今後の感染症の状況次第ですが、まだ先になり、また制限緩和も段階的になると考えられます。

訪日外客数の約9割が観光客(日本政府観光局の発表値(2019年)より試算)ですので、仮に1年間分の訪日外国人旅行消費を9割喪失するとすれば、GDPの0.8%が剥落するものと試算されます。今後、観光目的の入国も徐々に緩和されていったとしても、観光関連産業を中心に経済への影響は小さなものではありません。

期待される日本人国内旅行の活性化

一方、2019年の日本人の国内旅行消費額は、21兆9千億円(旅行・観光消費動向調査:観光庁)となっており、外国人旅行消費額の4.6倍となっています。日本人の国内旅行については、感染防止策を徹底しつつ実施されることが重要ですが、既に可能となっています。

同調査によれば、2019年の日本人国内延べ旅行者数(頻度)は5億8千万人、1人1回当たりの消費額(単価)は37,355円となっています。本年は日本人の国内旅行消費も大きく落ち込んでおり、政府においても国内旅行支援のための施策を講じていますが、今回の感染症を契機に、テレワークの拡大等による新たな滞在需要の発生も考えられ、これらによる日本人国内旅行の頻度や単価の向上を通じて、少しでも訪日外国人が途絶えた分を今後取り戻していくことが期待されます。

(参考)産業連関分析について

産業連関分析の基となる産業連関表は、産業相互間及び産業・最終消費者間の取引を一覧表にまとめたもので、表の縦が投入(費用)構成を、横が産出構成を示し、その表から導き出される逆行列係数を用いて、経済波及効果を分析することができます。

モデル式

X=(I −A)−1F

X=国内生産額の列ベクトル

(I −A)−1=(I −A)の逆行列

F=最終需要の列ベクトル

https://www.soumu.go.jp/main_content/000666727.pdf

今回の分析の手順は、以下のとおりです。

①2019年訪日外国人旅行消費額の費目別を延長産業連関表の96部門に対応させる

②訪日外国人旅行消費額は「購入者価格」のため、平成27年産業連関表(基本表:総務省等)の運賃・マージン率を用いて「生産者価格」に転換する(購入者価格では、卸売・小売や運輸に対応しないため)

更に、これから延長産業連関表の部門ごとの国産自給率を乗じて、国産品の消費額に転換する

③延長産業連関表の逆行列(非競争輸入型)に②の列ベクトルを乗じて、生産波及効果を求める

④③の結果に、延長産業連関表の部門別付加価値率を乗じて、付加価値誘発額を求める

⑤同じく、③の結果に、延長産業連関表の部門別雇用所得率を乗じて、雇用者所得誘発額を求め、それに平均消費性向(2019年の家計調査の消費支出/実収入(注))を乗じて、消費に回る分を求める

(注)産業連関表は雇用者所得のため、可処分所得ではなく、実収入を用いて計算

問合せ先

経済産業省 大臣官房 調査統計グループ 経済解析室
電話: 03-3501-1511(代表)(内線2851)、03-3501-1644(直通)
FAX : 03-3501-7775
E-MAIL : bzl-qqcebc■meti.go.jp (■を@に置き換えてください)

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最終更新日:2020年8月4日
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