CONTENTS
1.正常価格の算出について2.正常価格の算出に係る当室へのご質問・相談事例
3.本年度の当室の取組内容について(動画解説付き!)
4.特殊関税等調査室長 平林孝之よりメッセージ
5.FAQ
- 相談窓口(アンチダンピング申請のご相談はこちら)
2020年12月号のニュースレターに引続き、アンチダンピング(AD)の申請書作成に向けた具体的な解説を行います。
前回は輸出価格の算出についての解説でしたが、本号ではダンピングマージンの算出方法のうち、AD調査の対象貨物の正常価格の算出方法について解説します。
AD調査の申請には、(a)ダンピング、(b)損害、(c)因果関係に関する情報・証拠が含まれている必要があり(AD協定5.2条)ダンピングマージンとは輸出価格が正常価格を下回る差額分に相当するものです。(AD協定2.1条)
あわせて、正常価格の算出方法に係る当室へのご質問・相談事例をもとにAD申請に向けたFAQをご紹介します。
※AD協定5.2条:5.1の申請には、(a)ダンピング、(b)この協定により解釈される千九百九十四年のガット第六条に規定する損害 及び (c)ダンピング輸入と申し立てられた損害との間の因果関係についての証拠を含める。関連する証拠によって裏付けられない単なる主張は、この5.2に定める要件を満たすために十分なものであるとみなすことができない。この申請には、申請者が合理的に入手することができる次の事項に関する情報を含むものとする。
※AD協定2.1条:この協定の適用上、ある国から他の国へ輸出される産品の輸出価格が輸出国における消費に向けられる同種の産品の通常の商取引における比較可能な価格よりも低い場合には、当該輸出される産品は、ダンピングされるもの、すなわち、正常の価額よりも低い価額で他の国に導入されるものとみなす。
また、12月号でご説明した輸出価格の算出方法を含め、皆様に調査開始に至る際の重要なポイントを知っていただく趣旨で作成しました「自己診断ツール」で、調査開始に至る可能性を診断できますので、是非ご活用ください。
1.正常価格の算出について
ダンピングマージンは、「輸出価格(日本向け)」及び「正常価格(輸出国内における販売価格等)」を用いて算出します。本号においては、AD調査の対象貨物の正常価格に係る事項について記載します。尚、政令第2条第3項により、不当廉売された貨物の原産国が中華人民共和国(香港地域及びマカオ地域を除く。以下「中国」という。)やベトナムである場合には、後述の②項に掲げる価格のうちいずれかを基礎として正常価格を算出することができます。
以下、①正常価格の定義及び算出方法、②AD調査の対象貨物の原産国が中国である場合の2パートに分けて解説します。
①正常価格の定義および算出方法
- 正常価格は、原則として、「(1)供給国内における消費向けに販売される貨物の価格(供給国内における国内販売価格)」に基づき算出される。
- 供給国内における消費向けに販売される貨物の価格は、独立の買い手との取引における価格を用いる。当該価格は、実際の販売に係るインボイスや価格表、オファー価格、市況データ又はその他の情報(市場調査等)に基づいたものであるべきであり、また合理的に入手可能な範囲でその根拠となる資料を添付しなければならない。
- 工場出荷段階の価格に調整(※)するために、国内運賃、保険料、内国税等を控除しなければならない。控除した要素を特定し、その額の裏付けとなる資料を添付する。
※5-1-3不当廉売差額(ダンピング・マージン)は、通常の場合、工場出荷段階における正常価格と輸出価格との差額であって、それぞれの価格は価格比較に影響を及ぼす差異を調整した後のものから算出する。 - 輸出国内の販売価格で適正な比較を行うことができない(輸出国の国内市場の通常の商取引において同種の産品の販売が行われていない場合又は市場が特殊な状況にあるため若しくは輸出国の国内市場における販売量が少ない)場合には、「(2)第三国輸出価格」又は「(3)構成価格」のいずれかを用いることができる。
- 「(2)第三国輸出価格」とは、AD調査の対象貨物の供給国から本邦以外の国に輸出される同種の貨物の輸出のための販売価格をいう。
- 「(3)構成価格」とは、AD調査の対象貨物の生産費に、同種の貨物に係る管理費、販売経費、一般的な経費及び通常の利潤の額を加えた価格をいう。
記載例
「(1)当該原産国と比較可能な最も近い経済発展段階にある国における消費に向けられる当該貨物と同種の貨物の通常の商取引における価格」の例
●関係法令等
政令第2条第1項、2項、4項、政令第7条第1項第5号
②不当廉売された貨物の原産国が中国やベトナムである場合
- 政令第2条第3項により、不当廉売された貨物の原産国が中国である場合には、以下(1)~(3)に掲げる価格のうちいずれかを基礎として正常価格を算出することができる。※
(1) 比較可能な最も近い経済発展段階にある国における消費に向けられるAD調査の対象貨物と同種の貨物の通常の商取引における価格
(2) 比較可能な最も近い経済発展段階にある国から輸出された同種の貨物の輸出のための販売価格
(3) 比較可能な最も近い経済発展段階にある国における同種の貨物の生産費に、管理費、販売経費、一般的な経費及び通常の利潤を加えた価格
- 中国やベトナムと比較可能な最も近い経済発展段階にある国(以下「代替国」という。)の価格を用いる場合には、当該代替国が、「比較可能な最も近い経済発展段階にある国」であると判断される理由を詳細に記載するとともに、それを裏付ける証拠を添付する。また、当該代替国において、同種の貨物を生産又は輸出している者に関し、申請者の知り得た範囲で、それらの者の名称、所在地、連絡先、事業概要等を記載する。
※調査においては正常価格の算出に際して(1)~(3)の代替的な算出方法を用いることができるのは、政令第2条3項が定める条件が満たされている場合に限定される。
記載例
「(1)当該原産国と比較可能な最も近い経済発展段階にある国における消費に向けられる当該貨物と同種の貨物の通常の商取引における価格」の例
●関係法令等
政令第2条第1項第4号、2項、4項、政令第7条第1項第5号
ガイドライン7.(6)二
2.正常価格の算出に係る当室へのご質問・相談事例
正常価格の算出に係る当室へのご質問・相談事例をもとに、AD申請に向けたFAQをご紹介します。
3.本年度の当室の取組内容について
● 令和2年度 貿易救済セミナー 10月27日(火)に、令和2年度貿易救済セミナーをWEB配信形式で開催いたしました。下記の動画で実際のセミナー動画をご覧いただけます。また、動画の下のURLより、セミナー資料等を参照できますので、ぜひともご活用頂くとともに、社内の関係者(国内営業ご担当、法務ご担当等)に展開いただけますと幸いです。
<令和2年度貿易救済セミナー>
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/seminar/index.html
● AD newsletter 2020年4月号よりアンチダンピング の申請書の作成に向けた具体的な解説をシリーズとして実施してまいりました。解説の中ではプラスαの情報として①貿易統計データ、②輸入動向モニタリングシステム、③AD発動事例集の活用法の紹介等を通じて、データの具体的な収集方法も含めてお伝えしました。
収集したデータを活用することによりアンチダンピング申請の検討とともに、国内市場への影響をモニタリングできる体制構築に繋げていただき、ご購読者様の普段の営業活動にもお役立ていただけますと幸いです。
以下は、当該シリーズ各号のリンク集となります。ぜひ、ご覧いただけますと幸いです。(各号のボックスをクリックいただくと、本文画面に移動します。)
なお、来年度以降のシリーズについては、3月にお知らせする予定です。
4.特殊関税等調査室長 平林孝之よりメッセージ
特殊関税等調査室長の平林孝之です。いつもニュースレターをお読み頂きありがとうございます。当室では2017年4月にADニュースレターの第一号を配信して以来、4年間にわたりアンチダンピングの申請に向けた解説やスペシャルコラムなどをお届けしてまいりました。アンチダンピング措置は海外からの不当な安値輸出を是正するためWTOルールにおいて認められた制度です。WTO加盟国の年間の発動件数はこの10年間で2倍以上に増加していますが、我が国でもアンチダンピングに関する相談件数は増加傾向にあります。
先月発足した米国バイデン政権では、次期商務長官が指名に向けた公聴会の場において、「中国の不公正な慣行に立ち向かう米国民を支援するため、非常に積極的に対応するつもりだ」と、貿易救済措置について発言していますように、今後世界経済の不確実性が高まる中において、米国のみならずこの傾向はますます強まるものと認識しております。
公平な国際競争環境が担保された中で日本企業の皆様が事業活動を展開できるようにするためにも、アンチダンピング措置を事業戦略の一つの手段としてとらえていただき、積極的に活用していただきたいと期待しております。
昨年10月に開催しました「令和2年度貿易救済セミナー」では、昨年度の参加者数を上回りました。回数を重ねるごとに、ご参加いただく皆様の関心の高さを認識しているところであり、アンチダンピング措置のさらなる定着に向けて引き続き努力してまいります。
今年度はコロナウィルス感染拡大防止の観点からウェブ形式での開催となりましたが、ご出席いただきました約2割の方が首都圏以外からのご参加でした。昨年度までは会場との距離が遠く参加が難しかった方々にもご参加頂けたことに、さらなる発展の可能性を感じました。
セミナーでもご紹介しましたが、当室のウェブページでは皆様のお役に立つ情報を多数ご用意しております。例えば、自社の関連産品が日本にどの程度輸入されているのかを視覚的に確認できる「輸入モニタリングシステム」や国内の生産動態も同様に確認できる「生産動態統計モニタリングシステム」など取り揃えております。また、活用方法につきましては動画にてわかりやすく解説しておりますので、貿易救済セミナーの動画とあわせてご覧下さい。
<令和2年度貿易救済セミナー>
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/trade-remedy/seminar/index.html
また、今年度のADニュースレターの企画に対するご意見やご感想、配信内容に関するご要望なども随時承っております。是非当室までご連絡下さい。
5.FAQ
最終更新日:2022年9月12日